事務局医療相談


医療部長  井上 久


〔会員 60代男性〕
 御無沙汰しております。当地は例年に比べ積雪も多く、 春はまだまだ先のように思われますが、 農家は農作業(撒種)の準備に取り掛かる時期となりました。 私はお蔭様で元気に過ごしております。診察に行きたいと思っておりますが、 なかなか機会をつくることができないままに過ごしております。

 実は最近、頭痛(後頭部)があり、先日、 地元の病院で検査(CT)をして頂きました。 結果は異常ないとのことでしたが、来月、 再検査(MRI)して頂くことになっております。 ストレスが重なったのかとも考えています。

 病院からはカンファタニン錠60mg 1回1錠、 ミオナール錠50mg 1回1錠の服用の指示を頂きました。

 その数日後に、背中(首から15cm下)に違和感が出たので、 再度診察を受けました。 脊椎の検査(CT)を受けましたが、強直性脊椎炎のお話をしたところ、 関係しているかもしれないとのことでした。

 つきましては、 どのような薬が良いのか聞いてもらいたいとのことでしたのでいかがでしょうか。 いずれできるだけ早い時期に、先生の診察を受けたいと考えております。 できれば予約したいと思いますが、日取りを教えて頂ければ有り難いです。 よろしくお願いいたします。


〔医療部長〕
 お久しぶりです。 とりあえずはお元気そうで、そしてお仕事も出来ているようでなによりです。

 頭痛ですか。脳のCT検査も異常無しだったとのことですが、 頭痛の多くは頭蓋骨の中の問題ではなく、 緊張性頭痛とも呼ばれるもので、あまり心配のないものです。 頭蓋骨の中の腫瘍とか血管障害(出血、梗塞)とか髄膜炎なら、 問診や診察やCT・MRIなどの画像検査で容易にわかるものですから (絶対ではありませんが) 、それらで特に問題がなければ、 それほど心配することはないと思いますよ。

 勿論、頚(椎)性頭痛というのもあり、この場合には、 頭痛の原因がASによる場合も考えられます。  すでに鎮静化した“枯れたAS”の名残りによる痛みも混ざっているかも知れませんね。 勿論、精神的ストレスが大いに影響することも確かです(私自身も例外ではありません)。

 CTは、そしてこれから予定のMRIは頭部だけですか? 頚椎のMRIも撮影しておきたいところです。 しかし、手足に放散する症状(しびれや痛み)や手足の麻痺がないのであれば、 頚椎は普通のX-Pで十分でしょう。


 稀ですが、特に大きな衝撃がないのに脊椎の骨にヒビが入ることがあり、 ヒビぐらいだと激痛はないため、長年痛みに慣れてきたAS患者は骨折の痛みとは思わず、 従って、見逃されていることもあります。 このことは中高年以降の病状が鎮静化したAS患者では、 留意しておかねばならないものです。

 頭痛の原因がASの頚椎病変であっても、あるいはまた加齢によるもの (変形性頚椎症や脊柱管狭窄症)であっても、 とりあえずは非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、 いわゆる一般の消炎鎮痛剤、つまり「痛み止め」を使うことで良いと思います。

 炎症(症状)の激しい時期のリウマチ性疾患に使用される副腎皮質ホルモンや 2年前にASに対する効能が承認・認可された生物学的製剤(レミケード®、 ヒュミラ®)などは、たとえ主治医が勧めても、現在の年齢、 病状・病期を考えると安易に使ってはいけないと思います。

 また、いわゆる抗リウマチ薬と言われる薬、 たとえばアンカードラッグ(錨となる基礎的、中心的な薬) とまで言われるほどに関節リウマチに有効なリウマトレックス®は 一般にASには無効ですし(有効であるという科学的実証がない。例外もあり得ますが)、 やはり関節リウマチと診断された途端に必ずと言って良いほど処方される アザルフィジン®も、 ASにおいては四肢の関節炎がある場合に限って有効である可能性があるに過ぎないものですから、 貴方のように脊椎(頚椎)の痛みが主体の場合にこれらを使用することは、 “百害あって一利無し”と思います(この旨、主治医にお伝え下さい。 主治医はご存じかも知れませんが)。


 となると、今の貴方の痛みには、 やはりNSAIDで良いと思いますし、それで十分と思います。 すでに処方されたカンファタニン® (ロキソニン®と同じ)はそのNSAIDの一つですが、 効果はいかがでしょうか? 1週間飲んでみて、ご自分の実感(これが大切!)で「さして効いてない」 と思ったら、主治医にそう言って取り替えて貰うべきです。
 カロナ-ル®、セレコックス®、 ボルタレン®…その他たくさんあるNSAIDの中で、 貴方の体質、そして今の痛みに合う薬を探すのです。 薬と患者さんの体質には“相性”がありますので…。


 ただし、これらの薬は(ほとんどの薬に言えることですが)、 “病気を治す薬”ではありませんので、 痛みが強くて我慢できない時にだけ飲めば十分です。

 ただ、発症間もない炎症の激しい若年者に対しては靭帯の骨化 すなわち強直の予防効果があるという報告が欧米では散見されますが、 不要なほど痛みが軽いか無いのに、 靭帯骨化防止のためだけに長期間運用するというのは、 そのリスクとの兼ね合いから標準的治療とはなっていません。 そして、多少我慢しながらでも、 日常生活や就労その他がなんとかできる程度…という状態が目標です。 薬で痛みをゼロにしよう…なんて思わないで下さい。


 薬以外にも、温熱療法(風呂でもホットシャワーでも温泉でも カイロでも蒸しタオルでもなんでも…)、 運動療法(ストレッチングでもラジオ体操でも自己流体操でも水泳でも、 格闘・衝突や激しい転倒の危険がなければどんなスポーツでも…。 勿論、農作業も良い運動療法になるはずです)…など、 痛みが軽くなるのであれば何でもかまいません。

 これらが有効なら、薬は不要といっても良いくらいです。 あるいはまた、 猛撃(矯正)的なものでないなら、マッサージや指圧、 さらには鍼・灸でもかまいません。 これらを1〜2度トライしてみて、 痛みが楽になるのであれば受けても良い治療と思います。


 もしNSAIDを1ヶ月以上運用することになるのであれば副作用チェックのために、 3ヶ月に一度は一般的な血液・尿検査を受けたいところです。 万一、胃腸の調子が悪くなったら主治医に言うか、 近くの内科(消化器内科、胃腸科など)を受診して、 薬の減量・中止または胃の薬の処方、 必要なら内視鏡検査など医師の指示に従って下さい。

 それから、もし痛みが、脊椎棘突起(背中の中央の突出した固いグリグリ) の周辺とか傍脊柱筋(棘突起の両脇の筋肉)に限局しているなら、 そこに細い針で局所麻酔剤と副腎皮質ホルモン剤を局所注射 (トリガーポイント注射)して貰うのも、 永続的ではないものの痛みが軽減する可能性があります。


 以上のように、痛みが楽になることをいろいろ試行錯誤しながら (なんたって根治療法は無いのですから)、自然軽快を待つ…というのが、 とりあえずの治療方針と思います。 いずれにしろ、急を要する状態ではないと推察されますので、 暖かくなったら(その頃には、おそらく治っていることでしょう)、 行楽がてら東京にいらして下さい。
 急に病状が悪化したとかおかしな症状が出てきたといった場合、 もっと詳しいことをお聞きになりたい場合には、 事務局まで直接電話をして下さって結構です。


 そちらは、まだまだ厳しい季節が続くと思いますが、 どうぞお大事に…。
 雪道での転倒事故には十分ご注意下さい。


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