強直性脊椎炎患者にとって望ましい生活態度および職場環境

〜診断されて間もない初期の患者さんへ〜

(強直性脊椎炎国際連盟ASIFホームページより)


はじめに
 強直性脊椎炎(AS)は、徐々に脊椎の不撓性(運動制限)を招く炎症性・リウマチ性の疾患です。 病状経過は人によって様々ですがいくつかの有効な治療法があります。 ASは悪性の疾患ではありません。ほとんどの患者は、ほぼ正常の生活が送れ、 それぞれの職種において普通に就労できていきます。

 これから述べることがこの病気に関して皆さんが抱いている不安を減らし、 生活や職場の環境により良く順応できるようになって、 病状経過に好影響をもたらすことと思います。


1.基本原則

 就労、レジャー、睡眠の際には常に適切な姿勢を保つよう心掛ける。


2.座位

 座っている時は背筋を伸ばす。 このためには、低い柔らかいソファや背もたれが斜めになっている椅子よりも、 硬くて平らな座面の椅子が好ましい。


3.歩行

 股関節の伸展位を保つために、できるだけ大股で歩くこと(ノルディックウオーキングのように)。 自分の足によく合った衝撃吸収性のヒールが付いた柔かい靴底の靴を履くことは、 歩行時の痛みを防止する。


4.睡眠

 仰向けに寝る時は、脊椎と股関節ができるだけ伸展位になるようにする。 大きな厚い枕を当てて上半身を挙上することば胸椎の屈曲を強いることになるので勧められない。 高品質のマットレスと骨組のしっかりしたベッドを使うようにする。


5.就業

 同じ姿勢をとり続けないように、時々、立ったり、座ったり、歩いたりする。 背中を真っ直ぐにした姿勢を保つ。 躯幹を強く曲げたり捩ったり、体に振動が加わるような作業は勧められない。


6.運動・体操

 毎日のAS用の体操・運動は治療の基本である。 1日に何回か、胸式呼吸で深呼吸をすることも大切である。


7.スポーツ・レクリエーション

 AS患者にとって運動することは、身体機能を維持するために大切なことである。 スポーツ活動は身体機能を良好に保ち、血圧や脈拍を安定させ、肺機能を改善する。 しかし、スポーツ活動すべてがASに適しているとは限らない。

 どんなスポーツが貴方に合うかは、貴方の病状、 過去に同じスポーツをやっていたかあるいは初めてかなどにもよる。 脊椎を真っ直ぐに保つものや、伸展するようなものが勧められる (たとえば杖を持ったノルディック・ウオーキング、ハイキング、水泳、 クロスカントリースキー、テニス、バドミントン、アーチェリー、バレーボールなど)。


8.食事と生活様式

 アラキドン酸が多い肉類は避け、オメガ3脂肪酸の多い魚類を多く摂ることが望ましい。 また、野菜は炎症を抑えるのに有効である。 病気の経過に悪影響を与えることがわかっている喫煙は避ける。

 ASはしばしば骨粗鬆症を合併するので、食事や十分カルシウムの補給を行う (日光浴,魚類中心の食事、ビタミンDサプリメントなどの摂取とともに)。


9.性生活と妊娠

 パートナーとの間に分別ある良好な関係が保たれていれば、 ほとんどの場合、性生活に強い制限や障害が生じることはない。 痛みが出ないような楽な姿勢(体位)を試してみるべきである。

 貴方のパートナーの理解不足、思い違いを避けるために、 貴方の状況(病状)について良く話すことが必要である。 互いに正直に話し合い偏見をなくすことが、 満足できる性生活にとって大切なことである。

 ASにおいて、受胎、妊娠、分娩などに関しては通常問題にはならない。 仙腸関節が固まったり(強直)、人工股関節が挿入されていたとしても、 通常、分娩の際に帝王切開が必要になることはない。 妊娠中や授乳中に薬を飲まなければならない時は、主治医に相談する。


10.強直性脊椎炎の患者組織の会員になる意義

  • 病気そのものに関する情報や病気と付き合うための有意義な情報や患者教育研修コースの提供
  • それぞれに異なる病状を持つ患者同士の情報や体験談の交換
  • 専門家の指導・監修によるそれぞれの地域でのグループ運動療法の場の提供
  • 一般のスポーツ活動や社会的活動への参加
  • 社会的孤立からの救済・脱却
  • 医学的、法律的な相談
  • 保険や登記・申請などの支援・代理業務



脊椎の強直もしくは後弯変形を生じた進行期の患者さんへの補足

1.自動車運転

 脊椎の動きが制限がされた人には、特殊な設備(広角ミラー、追加特殊ミラー) や個別改造(可能な限り背中や後頭部に近づけられるよう調整できるヘッドレストなど) が必要となる。

 事故に遭遇した際の緊急搬送時に、初療医に病気のことを理解してもらい、 臥床肢位や人工呼吸のための気管内挿管に関する留意事項が書かれたカードを携帯すべきである。 そのようなカードを貴方の国の患者会が作っているはずである。


2.不適切なスポーツ

 事故の危険度が高まるスポーツ(ボクシングやサッカーやホッケーなど)、 ぶつかり合うスポーツ、スキー滑降のような転倒の危険のあるスポーツなどは、 脊椎が強直した人は避けるべきである。


3.転倒・落下事故の予防

 脊椎が固まって(強直)しまった人は、一般人に比べて、 転倒や落下事故の際に脊椎骨折の危険性が高いため、転倒・落下には注意すべきである (階段昇降の際には常に手すりに掴まること。フカフカの絨毯の上を歩くのは避ける。 夜間トイレへの通り道には明かりをつけておく。 道が凍結している時には伸展性のあるスパイクのついた靴を履く…など)



強直性脊椎炎国際連盟

強直性脊椎炎患者の皆さんへ
 貴方の主治医が経験豊富な強直性脊椎炎患者さんの協力を得て作られたこの指針を渡してれたことと思います。

 これは、貴方の生活の中での病気療養にとって好ましい情報をまとめたものです。 お読みになれば決して難しい内容でないことはお分かりになると思います。
 これを読んだ後に貴方が感じたことや実際に体験したことを教えて下さい。 書いてあることに沿って生活を送ることによって、同じ病気の仲間と巡り合う機会が増えることでしょう。

 そして、ASIF(強直性脊椎炎国際連盟)のホームページ(www.asif.rheumanet.org) で貴方の国の患者会と、貴方が住んでいる場所の近くにあるその支部を探しましょう。 私達は、貴方が貴方の国のASの患者会に辿りつき、そしてこの指針を十分に活用することを望みます。

(井上事務局長邦訳)


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