沼賀 二郎・藤野 雄次郎
眼内には水晶体の前にあって絞りの役目を果している虹彩と、
それから後ろに連なる毛様体と脈絡膜という血管に富んだ組織があり、
これらを総称してぶどう膜といいます(図)。このぶどう膜におこる
炎症は虹彩炎(虹彩毛様体炎)またはぶどう膜炎と呼ばれ、いろいろな
病気が原因でおきてきますが、ASの眼症状はこのぶどう膜炎による
ものです。なにゆえ、ぶどう膜炎がおこるかは不明です。
眼球の水平断面図
ぶどう膜も炎症の種類により幾つかの型があります。皆さんも
よくご存じの病気に結核がありますが、その結核に伴うぶどう膜炎の型は
肉芽腫性と呼ばれます。また難病としてしられているべーチェット病の型は
非肉芽腫性です。ASのぶどう膜炎は非肉芽腫性ですが、その特徴から
線維素性とも呼ばれます。
すなわちASに伴うぶどう膜炎は前房に線維素が見られ、炎症が
強い時には前房蓄膿と呼ばれる白血球成分の沈殿が見られます。
ベーチェット病のぶどう膜炎でも強い炎症時には前房蓄膿が見られます
が、これとは違い、粘調度が強くねばねばしている特徴があります。
この線維素性のぶどう膜炎は虹彩と水晶体とに癒着(虹彩後癒着)を
形成しやすく、これは緑内障などのいろいろな不都合を生じる恐れが
あるため注意が必要です。
どのくらいの炎症で癒着が生じるかの明確な調査はありませんが、
強い視力障害がある時は炎症が強くまた癒着をおこしやすく、
視力障害がない場合は炎症が軽度であることが多く、虹彩後癒着を
心配する必要はないものと判断されます。またASのぶどう膜炎は
前部ぶどう膜炎と呼ばれ、炎症が前の方に限局しており、他の
ぶどう膜炎とは異なり眼底に炎症を生じないことが特徴です。
ぶどう膜のおこる頻度は我々の調査では日本人のAS患者さんでは
約50%と考えられます。ほとんどの患者さんがASが発症した後に
ぶどう膜炎を発症しており、また繰り返してぶどう膜炎をおこすことは
少ないようです。
次に症状ですが、ぶどう膜炎をひきおこしているときのみ、眩しさ、
眼痛、充血、飛蚊症を自覚いたします。ぶどう膜炎をおこしているときの
視力障害の程度はまちまちであり、全く障害を自覚しない方から、
かなりの不便さを訴える方までいます。ぶどう膜炎の継続期間はその時の
炎症の程度により異なりますが、1〜2ケ月間は継続するようです。
治療は副腎皮質ホルモン(ステロイド)と瞳を開く散瞳剤の点眼が
主体で、時に非ステロイド系の消炎剤の内服も行ないます。視力の予後は、
適切な治療を施行すれば、ぶどう膜炎をひきおこす前の状態に戻り良好で、
また部分的に虹彩後癒着が生じた場合も視力には影響がなく、他の合併症の
心配もありません。
散瞳剤の点眼は癒着を予防するために必要ですが、そのひとつである
アトロピンは作用時間が長く、患者さんが眩しさなど不快感を訴えることが
ありますので、炎症の強い時期にのみ用い、その後は作用時間の短い
ミドリンPを使用するのがよいと思います。散瞳剤を使用している期間は
サングラスを掛けるのも一計です。
次に、その他の質問事項にお答えいたします。
(編集部注:予め一部の患者さんから質問をいただいておきました)
- ASにともなうぶどう膜炎とべーチェット病の鑑別法診断の困難な
例もありますが、本文で取り上げた前房蓄膿の差以外ではべーチェット病
では様々な全身症状があることで鑑別ができます。
- 虹彩炎にたいする長期間のステロイド点眼の副作用とステロイド剤の
使用法
ステロイド剤は副腎皮質ホルモン剤であり、炎症を抑える効果は強いの
ですが、副作用もあります。点眼でも白内障や緑内障をひきおこすことが
あり、内服では胃潰傷、骨の脆弱性などがおきてきますので、定期的な
医師の診察が必要です。ぶどう膜炎でも全身的に作用が少ない方法で
使用すべきで、そのために点眼または結膜下注射を通常行ないます。
また予防的なステロイド剤の使用は避けるべきで、その必要も
ありません。
- 飛蚊症について
ぶどう膜炎をおこしているときにゴミのようなものが見える状態
(飛蚊症)を生じることがありますが、このために失明することはなく、
また炎症が消褪すれば、この症状は軽減します。
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