生物学的製剤〜最近のトピック〜


順天堂大学膠原病・リウマチ内科
多田 久里守


 強直性脊椎炎に対する薬物治療として、 従来は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)つまり ロキソニン®やポルタレン® などの鎮痛剤と、末梢関節の病変に対しては抗リウマチ薬の 一つであるサラゾスルファピリジン (アザルフィジン®)、 プレドニン®などの副腎皮質ステロイドが 使用されてきました。

 しかし、これらの治療によっても疾患活動性が 抑えられない、つまり痛みやこわばりがコントロール 出来ない強直性脊椎炎患者さんは大勢います。 そのため鎮痛剤を飲み過ぎることで肝機能が低下したり、 胃潰瘍を繰り返したりする患者さんも見られます。

 そのような患者さんにうれしいニュースが…、 欧米ではすでに強直性脊椎炎患者さんに使用されていた 生物学的製剤が、日本でも使用できるようになりました。


 生物学的製剤とは、生体内に存在し様々な機能を 果たしている分子を制御することによって治療を行う薬剤を さします。今回、強直性脊椎炎に使用できるようになった 生物学的製剤の場合は、体の中で炎症を引き起こす物質である TNF α(tumor necrosis factor α: 腫瘍壊死因子 α)を中和する抗体を薬剤にしたものです。 現在レミケード®(インフリキシマブ)と ヒュミラ®(アダリムマブ)の二つの薬剤が 使用可能です。

 レミケード®は1回約2時間の点滴を、 当初の週、2週、6週、その後は6〜8週毎に行います。 ヒュミラ®は2週毎に皮下注射で投与します。 どちらの薬剤も投与後比較的早期から効果を示し、 投与開始後12週では約5割〜6割の患者さんで著明な 改善を示しています。

 そして脊椎や関節の痛み、こわばりを改善し、 CRPなどの炎症反応を低下させ、さらにはMRIなどで認められる 炎症の所見などを消退させることが確認されました。


 しかし全ての患者さんでこのような良好な反応、 効果を示すわけではないのも事実です。約2割の患者さん では効果が認められません。

 ではどういう患者さんに効果が出やすいのでしょうか? 海外での大規模な臨床試験の結果からは、罹病期間がより 短い方、年齢が若い方、CRPの上昇している方、 MRIで炎症の所見がより認められる方で、効果が高いようです。

 実際に有効性が認められた場合、症状やデータだけでなく 骨化・強直も防ぐ、または進行を遅らせることが出来れば よいのですが、今のところ骨化の進行を遅らせることが できるところまでは証明されていません。


 副作用としては、レミケードの場合、かゆみや皮疹、 発熱などの投与時反応がありますが、その多くは軽度であり、 抗アレルギー薬を併用することで点滴を継続することが 可能です。まれに強いアレルギー(アナフィラキシー)を 起こすことがあると言われているため、投与中は頻繁に 血圧などを測定しながら投与します。

 またどちらの薬剤にも共通した副作用として、易感染性 があります。つまり気管支炎や肺炎などの感染症を発症 しやすくなるということです。また、以前結核を患っていた 方が生物学的製剤を投与することで再活性化し、 結核を起こすことがあるため、投与前には ツベルクリン反応や胸部レントゲン、CTなどで 結核の既往を確認し、既往があると思われる場合は 結核の予防薬を投与しながら生物学的製剤の投与を 行うことが可能です。

 さらにB型肝炎やC型肝炎のウイルスを持っている方 (B型、C型肝炎の既往のある方、キャリアの方)は、 再活性化する危険性があるため生物学的製剤を投与する ことができません。生物学的製剤投与中も、定期的に 採血やレントゲンなどで感染症や肺炎がないかを チェックします。

 こういった感染症の危険性を下げるためには、 日頃からご自分の体調をよく観察し変化があれば 早めに主治医に相談することが大切です。また、 発熱、咳嗽、喀痰、呼吸苦などの症状があった ときには、安易に市販の風邪薬などで経過を 見たりせず、早めに病院を受診し、肺炎などの 感染症がないかを確認することが大事です。


 もうひとつのデメリットとして、経済的な問題が あります。生物学的製剤は、ひと月あたりの医療費か 4〜5万円と高額であるということです。東京都だけは 強直性脊椎炎が特定疾患に指定されているため、 医療券を使用することでひと月あたり5千円〜1万円 程度と安くなります。

 この高額な治療を一生続ける必要があるかどうかも 気になるところです。強直性脊椎炎は発症20年経つと、 次第に病勢が低下する患者さんがいます。そのため、 このような患者さんでは生物学的製剤を中止することも 出来るかもしれません。

 しかし、そうでない患者さんでは、生物学的製剤を 中止すると病勢が再燃し、再投与が必要になることが 多いとの報告があります。また、発症後より早期から 投与したほうが、中止できる率が高い傾向にあるようです。


 最近、我々が経験した患者さんで、生物学的製剤の 投与開始初期は効果があるにもかかわらず、 徐々にその効果が減弱する患者さんが存在するように 思われます。実はこういった患者さんは、 関節リウマチの患者さんに投与しているときにも 良く経験されることで、これは投与した製剤に対する 中和抗体が体の中にできることが関係していると 考えられています。

 強直性脊椎炎でも同様に投与した製剤に対する 中和抗体が約3割の患者さんで産生され、 この抗体が効果減弱や投与時反応と関連しているとの 報告もあります。関節リウマチの患者さんの場合は、 免疫抑制剤であるリウマトレックス®を 併用することが、リウマチの治療としても中和抗体を 産生させないためにも良いとされています。

 強直性脊椎炎ではどうなのか、リウマトレックス® やプログラフ®といった免疫抑制剤を 投与することも、今のところ報告はありません。 今後、患者さんの経験を積み重ねていくことにより、 より良い医療を提供するための答えが出てくるのかも しれません。


 最後に、実際に強直性脊椎炎の患者さんへ投与してみての 印象や体験などを、いくつか紹介したいと思います。

 順天堂で実際に投与した患者さんを数えてみると、 レミケード®が17人、ヒュミラ® が5人です。レミケード®の方が多いのは、 強直性脊椎炎に適応拡大となる前から症状の重い患者さんに、 一番早くに発売されて使い慣れたレミケード®を 使用していたためです。

  • どちらの薬剤も投与後早期から効果を認め、 レミケード®の場合は2回目の投与前 (初回投与から2週間後)に、すでに症状が軽くなっている方も います。やはり、関節リウマチの方に対するよりも効果が 良い印象です。

  • なかには、投与後身長が伸びたという方もいました。 ただ、その方はすでに脊椎が強直していた方なので、 身長が伸びるはずはないのですが…。

  • 効果があっても、ご本人はそれをあまり感じていない という方もいらっしゃいました。レミケード®を 続けてもあまり効果がないのでやめたいとのご希望がありました ので中止したところ、やはり2ヶ月経った頃から症状が さらに悪化し、また再開しました。
     再開すると症状は軽快したようです。この方は後に脊椎の 手術をされ、その際にレミケード®を 中止して、そのまま頑張っています。

  • レミケード®を投与していると、 その効果が減弱してくる患者さんがいます。 これは関節リウマチの患者さんでも同様で、その際の 対処法としては、
    1. レミケード®の投与前にプレドニン® 20mgの投与を行う
    2. レミケード®の増量を行う
    3. レミケード®の投与間隔を短縮する
    などを行います。こうすることでその効果が増強、持続される 患者さんもいらっしゃいました。

  • レミケード®、ヒュミラ®ともに TNF αに対する抗体製剤であり、分子量が大きいことから 薬剤自体を体が異物と認識して、せっかく投与した薬剤を中和して しまう抗体ができてしまうことがあります。すると効果が減弱したり、 投与時反応が出やすかったりするという報告もあります。

  • 関節リウマチではこういった抗体がつくられるのを抑える 効果も期待して、リウマトレックス®という 免疫抑制剤を併用します。強直性脊椎炎の場合、免疫抑制剤の 併用は不要とされていますが、もしかしたら同様に 免疫抑制剤を併用したほうが良いのかもしれません。

  • レミケード®では投与時反応が出現することも ありますが、蕁麻疹や微熱程度のものが多く、通常は抗アレルギー 剤を投与当日朝に内服する、またはレミケード®投与 前に点滴で投与することでコントロールすることが可能です。
     パンフレットには「血圧低下や呼吸困難」「アナフィラキシー」など の記載がありますが、そういった患者さんはいません。投与の際の 点滴速度が速いと起こりやすいようなので、初めはゆっくりと、 血圧などをみて問題なければ徐々に速度を上げて投与することが 重要なようです。

  • 杖をついて通院していた20代の男性は今では杖も使わず 通院、別の20代の男性は、車椅子ながらも大学を卒業し 製薬会社へ就職。さらに別の20代男性は、震災の時に帰宅難民と なった方々を支援するボランティアに参加したり…、やはり 若い方がより効きが良いようにも思われます。

  • レミケード®を投与し始めて症状は やや良いものの、仕事が忙しくなると体調も悪くなる方も居ました。 レミケード®増量、投与期間短縮、 投与前のステロイド点滴などの対処もあまり効果なく、 今後ヒュミラ®への変更を考えています。

  • ヒュミラ®の臨床治験に参加した男性ですが、 治験が終了する頃に、「この薬を投与してどうでしたか?」と 聞いてみたところ、「人生が変わりました」とおっしゃっていました。 今はそのままヒュミラ®を継続して、仕事も家庭も バリバリ頑張っています。



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