強直性脊椎炎と男性ホルモン(研究報告)



滋賀医科大学整形外科  森 幹士


 ASは男性に多い疾患であり、性ホルモンの関与が考えられてきました。 以前より、患者血清中のアンドロゲン(男性ホルモン)の濃度に関する 報告がされていますが、統一した結果は得られていません。性ホルモンは 受容体というものにくっついて初めて作用します(ちょうど、鍵と鍵穴の 関係のようなもので、性ホルモンは鍵、受容体は鍵穴のほうにあたります)。 その受容体を作る遺伝子には少しずつ個人差(多型性)があります。
 近年、生化学的研究が進み、色々な疾患と遺伝子の関係が明らかになって きましたが、ASはHLA−B27に関するものが中心であり、 性ホルモンの遺伝子に関する報告はありません。
 今回我々は、日本AS友の会の方々の御協力を得て「男性AS患者と アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の関係」を調査しました。

 初めに遺伝子について簡単にお話ししたいと思います。 人の遺伝子は、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、 T(チミン)という記号(塩基)がある法則に従って並んでいるものです。
 これらは染色体の上に存在し、DNAと呼ばれています。これは人の 設計図のようなものであり、通常は二重らせん構造をしていますが、 これらのらせんがほどけ、この情報に基づいてタンパクなどがつくられます。
 塩基3つが1セット(コドンと言います)で意味をなしており、 この塩基が一つ変わっただけでも、できるタンパクが全く違ってくる こともあり、このような塩基配列の差が病気の引き金になることがあります。
 遺伝子の個人差(多型)については、この塩基が一つだけ違っている ものから始まり、他の部位とごっそり入れ替わっていたり(転座)、 全くなくなっていたり(欠失)、ある塩基配列の繰り返し数が異なって いたり(マイクロサテライト)と様々ですが、アンドロゲン受容体(AR) の遺伝子はX染色体上にあり、個人差(多型性)はCAG、CAG、 CAG……という記号が並んでいるところにあり、人によって反復数が 異なります(マイクロサテライト)。
 通常は、14回から32回の繰り返しがあり、ARの作用の強さに 係わってくる部分とされています。ARでは、反復回数が短いほど、 その作用は強くなります。

 解析の結果、AS患者の方が非患者に比べて有意にCAGの反復数が 少ないことが解りました。今までに強い関連を示すとされてきた HLA−B27との有意な関連はありませんでした。

 性ホルモンの働きとしては、一般に知られている男性らしさや、 女性らしさ、体格の形成等のみならず、骨形成や、免疫に関与することが 解っています。そこで、より短いCAG反復数は、免疫異常を引き起こし、 ASの発症に関与するのではないかと考えています(AS、 慢性関節リウマチといったリウマチ性疾患は自己免疫疾患と言い、 免疫異常が強く示唆されている疾患群です)。しかし、症例数も少なく 今後の追加実験が必要です。

 その発生に関して遺伝が関与すると考えられる疾患において、 こういった遺伝子解析という手法を用いて、これまでに患者さんを含む 兄弟や家族調査を行い、その疾患の責任遺伝子が同定されてきました。 責任遺伝子が判明すれば、疾患の進行を防いだり、疾患の発症そのものを 防ぐことも不可能ではありません。


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