「京都女子会」に於ける質疑応答



「京都女性会」第2部質疑応答に、 前もって皆さんに頂いた質問の数々です。 今回も、井上医療部長に詳しくお答え頂きました。 医療のこと以外の難しい質問もありましたが、 「らくちん」用に判り易く(かなり補足・追記) まとめて下さいました。


Q1:
 密度検査が50%以下ということで、 ベネット®17.5mgと エディロール®の服用を薦められた。 現在服用していますが、 治療として大丈夫なのでしょうか?

A:
 骨粗鬆症とは、「加齢、あるいは種々 の基礎疾患(糖尿病、肝臓病、腎臓病、 ASも含むリウマチ性疾患など)や 薬剤(ステロイドなど)、遺伝、栄養・ 運動・紫外線不足などにより骨の吸収 と形成のバランスが崩れ、 骨量(無機質)の減少や骨の微細構造 (骨質)の変化により骨強度が低下して 骨折し易くなった状態」です。

 その程度を調べる検査が骨密度検査です (現在、最も使われているのはDXAと呼ばれるもの)。 その値が成人平均値の50%とのことですが、 診断規準では70%以下が骨粗鬆症(病的、治療必要) とされていますので、確かに低いですね。 ただ骨密度検査の精度には問題があり (けっこう曖昧)、また昨今は、 骨の折れ易さには、骨密度だけでなく 骨質もかなり(30%)関与していて、 骨密度検査だけでは正確な病態評価は できないことがわかって来ましたので、 あまりこの数値にこだわることもないと思います。 それでも50%はちょっと低めで、 治療が必要な状態とは思います。

 ASでは、一般人における発症要因に加えて、 疼痛・運動制限があるために より運動不足になりがちで (骨への力学的負荷減少)、 さらにはASの炎症を起こす炎症性 サイトカイン(TNFα,IL−6その他、 これらを阻害するのが生物学的製剤) による骨吸収作用も加わって、 同年代よりも骨粗鬆症になり易く、 骨折し易いと言えます。

ところで、骨粗鬆症の薬は、最近、 続々と新しいものが世に出て、 現場で使う医師達も、 いったいどれが良いのか混乱気味です。

 結論的にこの方の場合、 これまでに特に軽微な受傷機転で 骨折を起こしたという病歴がないなら、 とりあえず今の薬で良いと思います。 今後、骨密度検査結果や血液・ 尿の検査値の推移を見ながら、 主治医の先生が薬を適宜変更または 調節してくれるでしょう。

 本来なら、骨密度検査だけでなく、 各種の血中・尿中の骨代謝マーカーを 精密に調べた上で、その人に合った薬 剤の種類と量、投与法を入念に選択・ 調整して治療をすべきところですが、 大学病院の専門外来以外、第一線の臨床現場では なかなかそうもいかないようです。

 ただ、忘れてはならないことは、 骨粗鬆症(→骨折)の予防・治療は 薬だけではないということです。 基礎療法として、バランスのとれた食事 (カルシウムだけでなくマグネシウム その他の無機質、骨の梁の重要な材料 となる蛋白質)、適度な運動(骨は 力学的負荷をかけなければすぐに 骨粗鬆症、つまり強度が弱まる。 臥床後や宇宙飛行の後の骨量低下しかり)、 日光浴(内服したビタミンDは皮膚で 紫外線によって活性化される)などが 薬以上に…といって良いほど大切な治療です。

 そして、いくら薬を飲んでも、 発生率は多少低下するものの、特に高齢者では、 転んでしまったら骨は折れてしまうのです。 転ばないよう、日頃から適度の運動により 四肢の筋力や俊敏性を養っておくことも 非常に重要なことです。これは薬では無理です。

 一般向けに骨粗鬆症の本がたくさん出ているので、 どれでも良いから一冊必ず読んで勉強して下さい。


〔以下、後日追記〕
現在、骨粗鬆症に使われている 薬の種類と概要を書きます。

・カルシウム製剤
 食事で摂取できていれば原則として不要 (一般成人の必要量は600〜800 mg/日)。 服薬したからといって、これだけで 骨密度増加作用や骨折作成作用は期待できない。 欠乏させないことが大切。

・カルシトニン製剤
 エルシトニン®や カルシトニンなど。週1〜2回筋注。 骨折防止効果はあまり期待できないが、 骨痛の抑制(鎮痛)があると言われる。

・イプリフラボン
 オステン®、 骨量減少抑制作用はあるが 骨折抑制効果は明確でない。

・ビタミンD製剤
 アルファロール®、 ワンアルファ®、 ロカルトロール®、 エディロール®など。 骨密度増加作用、骨折抑制効果に加え、 筋力増強作用や身体バランス向上効果も 証明されており、日本人高齢者の多くは ビタミンD欠乏傾向にあるためもあって、 骨粗鬆症治療の基礎的薬剤とされている。

・ビスホスホネート製剤
 ダイドロネル®、 フォサマック®、 ボナロン®、 アレディア®、 ゾメタ®、 ボノテオ®、 アクトネル®、 ベネット®など。 現在最も多く使われている薬で、週に一度、 あるいは月に一度の服用で良いものも発売された。

 歯科治療の際に顎骨壊死が報告されおり、 3ヶ月以上、本薬剤を使用している場合、 歯科治療前3ヶ月間、治療後2ヶ月間は 中止するよう指導はあるが (中止したら直ちに骨折するような薬ではない、 歯科治療と言っても抜歯など歯髄・ 骨髄まで侵襲する治療の場合に限られる)、 実際の発生率は0.01〜0.02%と極めて低く、 個人的には、歯科医達は過敏になり過ぎ ているように感じる。

 壊死発生には局所の細菌感染が関与・ 促進することがわかっているので、 日頃から、口腔内清潔を維持することが大切。

 副作用の低カルシウム血症の予防のため 3〜6ヶ月に1度の血液・尿検査が必要。 食後は極端に薬剤吸収が低下するために 食前30分以上前の服用が原則。 喉咽頭・食道潰瘍発生の可能性があるため 内服後は30分以上、臥床は禁止。 稀に、副作用として筋・関節痛や発熱、 ごく稀に大腿骨の骨折(非定型)や 骨折治癒の遷延化などがあることが知られている。 原則として連用は5年までとされている。

・ビタミンK製剤
 グラケ一®。補助的薬剤で、 ステロイド投与時、ビスホスホネート製剤が 投与不能な場合などに使用。 血栓・梗塞の治療・予防薬 (ワーフアリン®などの効果抑制) との併用は避ける。

・選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)
 ビビアント®、 エビスタ®など。 骨形成促進・吸収抑制作用を持つ 女性ホルモンのエストロゲンが減少・ 消失する更年期以後(閉経期)の 骨粗鬆症に使われる。 明確な骨密度増加・脊椎骨折防止効果が 証明されている。 動脈硬化、心血管障害の予防などに ついても有効性が証明されている。

 女性ホルモンのため、他の薬にはない 特殊な副作用として、静脈血栓症があるが、 その危険性は一般人に比べて2倍、 発現率は0.2%と言われているので、 手術その他で長期臥床を強いられる場合には 3日前より休止すべき。 また、以前に静脈血栓塞栓症の既往が 有る場合には使用を避けることが望ましい。

・副甲状腺ホルモン剤(テリパラチド製剤)
 フォルテオ®、 テリボン®など。 他の薬は、 骨吸収抑制が主たる作用であるのに対し、 本剤は、強力な骨形成促進剤であり、 明確な骨折抑制効果も証明されている。

 ただ 高価であり、骨粗鬆症 (骨密度低下)の程度が強かったり、 骨折の既往や脆弱骨折 (明確な外傷が無いのに骨折)がある場合、 あるいは基礎疾患がある場合に (ステロイド使用、糖尿病、関節リウマチ、 AS、大腿骨頚部骨折の既往や家族歴など)、 使われる。

 副作用は,嘔気・嘔吐、頭痛、倦怠感、 腹痛、ふらつきなどで、注意すべきは 高カルシウム血症で、定期的に血液・ 尿検査が必要。動物実験では骨肉腫の 発生率が高まるというデータがあり、 投与期間は1.5年に限られる。

・抗RANKL抗体製剤
 プラリア®。 2013年3月に認可された半年に1度 皮下注射をすれば良い遺伝子組換え技術 により作られるヒトモノクロナール抗体 製剤とも呼ばれる新しい種類・作用機序の薬。

 強力な骨吸収抑制作用を持ち、 骨折発生率を減少させることが明確に 証明されている。最も注意すべき副作用は、 低カルシウム血症で(しびれや痙攣、 意識低下など)、 使用中は定期的検査が不可欠で、 場合によりカルシウムやマグネシウム製剤や ビタミンD製剤の併用が必要。

 ビスホスホネートと同様に稀ではあるが 顎骨壊死の可能性がある。その程度に限らず、 診断が確定された(診断規準に合致) ケースには使って良いことになっているが、 まだ、発売から日が浅いため、 骨密度低下が特に強い場合や骨折を繰り返す ケースに使用は限られるべきと個人的には考える。


Q2:
 生物学的製剤を使っている方で一番 長い方はどれくらいの期間ですか? 生物学的製剤を使っていますが、途中、 副作用が出て、他の生物学的製剤に変えて よくなった話を聞きました。 始める前に合う合わないは、 わからないのですか?

A:
 日本で関節リウマチに認可されて 一般に使われ始めてから11年、 ASが3年ですから、認可前の治験で 使い始めた人を入れれば、 ASで使っている人の中で最長は4〜5年と いったところでしょうか。 欧米では1998年から関節リウマチに 使われ始めましたので15年ぐらい ということになります。

 効果判定の指標はいろいろあるのですが、 自経験では、総合的に「良く効く」 という人が5〜6割、「まあ効くので続けている」 という人まで入れると 7〜8割といったところです。 全く効かない人も1〜2割います。 現在ASに使える生物学的製剤は、 レミケード®と ヒュミラ®で、 現時点ではどちらが効くかについては はっきり言えません。

 マウスの蛋白質が入った レミケード®の方が、 アレルギー反応を起こす症例が 若干高いような印象もありますが, 経験的に、その効果にはさしたる 違いはないようです。ただ、 ASは仕事をしている若年男性に多いので、 自己皮下注射ができるヒュミラ® を希望する人が多いようです。

 そして、確かに開始当初は効いて いたけど次第に効かなくなり、 もう一つの方にスイッチする人が 1割程度ぐらいいます(自験例)。 スイッチ後は、やはり初回より効果は 低いようです。また僅かですが、 よく効いたので一時止めて見ても、 1年ぐらい再悪化しない (いわゆる緩解またはdrugfree) という人も出ました。

因みに、ボルタレン®、 ロキソニン®、 セレコックス®などの いわゆるNSAIDs(非ステロイド系抗炎症剤) にも、人によって効く人、 効かない人がはっきり分かれます。 おそらく遺伝子の作用なんでしょう。 従って、現時点ではとりあえず1〜2週間 飲んでみて、患者さんが効くと実感した (血液検査がよくなったというのではなく) 薬を使うという状況です(効いたという 実感がないのに医師の出すままに漫然と 飲んでいるのは最悪!)。

 将来は、薬を飲む前に遺伝子を調べて、 この人にはこの薬が効くと事前に 決められる時代が来ると思います。


Q3:
 病気であることを伝えて就職したのですが、 働き出すとそうは言っておられない状況です。 忙しい時には、体調悪くても言い出せなくて 我慢して動きますが、 他の方もそうなんでしょうか?

A:
 たくさんの患者さんを見ていて、 それぞれにあまりにも境遇、すなわち病状、 職種・職場環境が違うので、 一概に答えられません。 痛いけど死ぬことはない、 仕事をした方が痛みが紛れて軽くなる ということで(ASの診断規準にも、 安静で病状が悪化し運動により 軽快するとある。私も仕事や趣味、 会話に打ち込んでいると痛みが 楽になる)、痛みに耐えながら がんばって働き続けている人もいれば、 残念ながら退職されてしまう方もいます。

 せっかく福利厚生が整っている 大企業に居たのに、辛いからとアッサリ 退職してしまい、その後の就職先が なくて困っている人もいれば会社の 福利厚生システムを十分に活用して、 時々休業、入院しながら仕事を続けて いる人もいます。 思い切って身障者手帳を取って 障害者枠で(希望する職種に就けるとは 限らないが)、以前より良い会社 (高い給料)に就職できたなんて いう人もいます。

 何度も言って来たことですが、 痛みを我慢して動いても (限度はあるでしょうが)、 取り返しがつかなくなるとか、 死んでしまうことはないのです。 痛みが強くなったり疲労感が強くなったり、 時には発熱する場合もあるにはありますが、 時間が経てば必ず改善します。 ですからASでは、あらゆる面から、 “がんばる方が得(?)”のような 気がします (勿論、限度はあるでしょうけど)。


Q4:
 長く慢性病を抱えて生きていくこと を考えると不安で仕方ないのですが、 どんなふうに不安を消したらいいでしょうか?

A:
 他の人の人生経験、ならびに闘病経験が 豊富な役員や長老会員に聞いた方が良い と思いますが、一応、一人のベテラン患者 として思いつくことを述べるとすれば (たまたま医師だったため知識・ 診療経験があるところは、大変恵まれた AS患者であることは認めます)、 やはりまずはこの病気のことを よく知ることでしょう。

 そして一口にASと言ってもその病状、 進行具合などは千差万別ですので、 自分のASが全体からみればどの程度の病状 ・タイプなのかについて、経験豊富な医師に、 聞くことでしょうか。とは言っても、 我が国では、状況的になかなかむずかしい ことでしょうから、今のところは、 友の会事務局(自分が重症患者であり、 またAS患者さんにたくさん接して来た 希有な境遇)の私に聞いて頂くか、 外来を受診して頂くことぐらいしか 思い浮かびません。

 ただ多くの方は、全脊椎の完全強直、 人工股関節挿入、車椅子・寝た切り といった状態になるようなことはない… ことは覚えておいて下さい。 中にはこの病気のことをよく知らない医師に、 過剰な診断、さらには説明を受けた結果、 過大な不安を抱いてしまっている人も 少なくありません。

 そして、これは医師として言うのではなく、 重症のASの先輩、いやフツーの古いタイプの オッサンとしての無責任な発言になるのですが、 「なっちゃったもんしょうがないじゃん」、 「直接死ぬこたあないらしいから、 痛みが少しでも楽になることを探して、 ASとうまく付き合い折り合って、 他人と比較することなく自分なりの 充実した楽しい人生を送るっきゃない」 という境地になれればいいんですけどね(笑)。 そんな簡単にできりゃ苦労はしないって 言われそうですけど…。


Q5:
 体の変形には寝具は影響しますか? やはり良いメーカーの寝具(マット) を使った方が良いですか?

A:
 初期の頃、若い頃で脊柱が強直していない場合、 それで眠れるなら、なるべく硬いマットで 背骨が伸びた形で眠る方が望ましいとは 確かに言えます。しかし、運悪く進行して 背骨が曲がって伸びにくくなったり、 痛みが強くなりまっすぐに仰向けに 眠れない状況になってしまったなら、 心身の健康、そして痛みの軽減にも、 良好な睡眠は大切なので(不眠が痛みを 増強することはわかっている)、 マットも枕も寝る時の姿勢も、 教科書や医師の指示に従うのではなく、 自分が一番よく眠れる条件・環境を 試行錯誤で探すのがベストです。 マット(ベッド)を選ぶ時は、 必ずショールームに行って、 実際に寝てみるべきです。 できればそこで一泊したい ところですが(笑)。

私のように脊椎が弯曲して完全に 強直してしまった場合には、 とにかくその弯曲に寝具を合わせて 眠ることが大切です。私は、 病院用の上半身が挙上できるベッドで、 枕を頭の下に2つ、躯幹を少し斜めに するため背中に右また左半分だけ 敷く薄い枕を1つ、さらに股の間に 挟む硬めの枕を1つ、合計4つ使って 寝ています。旅に出た時も、 ホテルの予約の時に予め余分の枕を ホテルに頼んでおきます。


Q6:
 痛んでいる時に、傍らでどう声を かければ良いのか悩みます。 こんな時にかけられて嬉しい言葉は ありますか? 嫌な言葉は?

A:
 私自身の経験からしか答えられませんが、 まず大前提として患者自身が1番辛い のだけど、それを見守り支える、 あるいは一緒に暮らす家族も負けず 劣らず辛い、患者のQOLと共に家族のQOLも 大切である…ということを忘れてはなりません。

 それから、難しいことでしょうけど、 患者はどんなに痛くても家族に当たらない こと(そうしないよう努力すること)、 何か別に当たれるものを(動植物でなく) 作っておくと良いかもしれませんね(笑)。

 余計・余分・過剰な“いたわり”の ヤサシイ言葉はかけない方が良いのかも 知れません。因みに、これは良い悪い ではなく、お勧めの言葉ということでなく、 私の臨床医としてのあくまでも経験談ですが、 診察室に入ってきた患者さんに 「おおっ、今日は元気そうじゃないの、 動きが素早い、楽そうだ」と言うと、 たいてい不機嫌になります。

 元気に入ってきても「辛そうねえ、 痛そうねえ」というと満足気な表情に なります。そして、事実であることが 多いと思うけど、 禁句は「私の方が痛いのよ」です。

 それから、AS診の診療室でよく見かける 若い男性とその母親が一緒の受診では、 ほとんどの場合、ASの息子は、 心配で心配でたまらない母親を ウザったがっています。 私は母心というものはわからないから ご異論は出るでしょうけど、 心配のあまりああだこうだ言うと、 却って反発を招くように思います。

 あまり積極的な働きかけはせず、 しかし、そっと入念に観察しておいて、 なにかやって欲しいことがある場合には それを言い易い雰囲気を作っておいて あげる…というのがいいんじゃない かと思います。

 「無理しても死なない病気なんだし、 動いている方が痛みは和らぐと診断 規準にあるんだから、甘やかさない、 適当に尻を叩いて働かせる、 その方が患者のためにも良い」という 私自身の家族の、実に患者思い(?)の 言葉に励まされている毎日であることも 付け加えておきます。

 そうそう、嫌な言葉はというと、 あまり人の話を聞く方じゃないので 特にありません。言われても心に残らない 性格なんだと思います。


Q7:
 体が薬を拒否しているのか、 飲みたくないし、 飲み込んでも喉を通らないのですが、 これは薬が身体に合わないからでしょうか?

A:
 身体に合わないのではなく、 心・気持ちに合わないのでしょう。 無理して飲まなくて良いと思います。 そんな思いをしてまで飲んだって 効くとは思えません。 ASの薬は、しつこいですが飲まなく たって死ぬ訳じゃないんですから。 痛いだけ、動きが悪くなるだけですから。

 飲んでて自分の感覚で 「イイッ!楽だあ!」と感じる薬だけ 飲むべきです(これはASに限った話で、 他のほとんどの病気は、信頼できる医師を 探したら、その医師の言う通りに飲むべき と立場上言っておきます)。 そうなら、例え副作用が出たって後悔しない、 諦めがつくというものでしょう。

 ただ、いやでも飲んだ時、 気が進まないから飲まない時のメリット、 デメリットに関することは、学識・ 経験のある医者から情報は得るべきでしょう。 あとは自分で決める。 医者はちっとも痛くないんだし、 良いお医者さんと言ったって医者から 見れば所詮は他人事です。 あっ、かなり個人的人生観が入って しまいましたね。聞き流して下さい(笑)。

Q8:
 AS患者で鎮痛剤も要らず全く痛まない 期間があったと何人かの人に聞きました。 誰にもそんな期間が来るのでしょうか? 落ちついていた痛みが再度痛み出す きっかけや原因はなんでしょうか?

A:
 一口にASといっても、その病状は ケースバイケース、千差万別です。 12歳で発症し『引き籠もり』と間違えられ 特殊学級に入れられていた男の子が、 ASの診断のもと生物学的製剤で著明に改善し、 元気で普通の高校に通っているケース もありますし、最近、背骨の動きが 悪くなったように感じると初診した 中年男性のレントゲンを見る と立派なAS末期のバンブースパイン、 これまで痛みはなかったのかと聞くと、 ほとんど感じたことない…と。

 やはりこれ遺伝子の成せる技でしょう (現在、研究中ですが、ASの発症に 関与する遺伝子はたくさんあるようです。 決してB27だけじゃない、 食べ物とか水とか育て方の問題でもない)。

 一般のASの患者さんの中にも、一時期、 痛みのない時期を経験する人はいますし、 若い頃痛みでのたうち回っていたのに、 中年になって鎮静期に入って全く痛みが なくなった人も結構居ます。 重症例の私も、45歳以後、それまで 20年以上常用していた ボルタレン®は 一切飲んでいません。

 痛みが全くないということでは ありませんし、おそらく一般人だったら 薬を飲みたくなるほどの痛みなのでしょうけど、 もう慣れましたし、痛みがあるのが 自分の正常な状態だと割り切りました。 他に痛みを軽減する手段もたくさん取得 しましたので(なんてったって、 仕事や楽しいことに没頭すること。 笑うあるいは怒る、泣くも良い)、 今や鎮痛剤は不要、いや無用ということです。

 痛みの再発・増悪の誘因など特に無し という人もいますが、聞いてみると、 多くの人が「精神的ストレス」と言います。 その他、疲労、過激な労働,別の疾病罹患、 怪我、手術、喫煙、有名なところでは 分娩(一部だし、あっても一時的です)、 あるいは冷えなどとにかく千差万別、 入浴で温まると悪化する人もいます。 飲酒で痛みが軽減する人と悪化する人、 同じ人でも時期によってどちらにもなる 場合もあります。要するに、自分の経験・ 実感により(医師の話ではなく)、 痛みが悪化することは避けるよう努力する 以外にはないでしょう。

 私の場合、以前は辛い辛いAS診が 終了した後、疲労困憊なのに若いナース達 と雑談していると痛みが和らいだものですが、 最近は年のせいか、却って痛くなることが 多いようです(笑)。


Q9:
 痩せて痛みが楽になった人がいます。 単に体幹や関節に体重がかからなくなった だけでしょうか? 他に考えられる理由がありますか?

A:
 あまり聞いたことのない話ですが、 多分おっしゃる通り、身体への負荷が 少なくなったからではないでしょうか? 中年女性で膝が痛くて時に水が溜まる病気、 変形性膝関節症で一番大切な治療は、 薬でも注射でもなく減量(と筋トレ) とされています。減量しただけで、 膝の痛みが消えたという話は良く聞きます。

 ASでも同じことかもしれませんので、 とりあえず痩せてみては? なんでもトライ、試行錯誤です。 間違っても取り返しのつかないことになったり、 死んだりということはないでしょうから。


Q10:
 もうすぐ生物学的製剤のジェネリックが でると聞きました。安くなると、 経済的にも助かります。 情報があれば教えて下さい。

A:
 7掛けの値段になるそうです。 ただ注意しなければならないのは、 化学構造は同じで添加物や剤形などを 変えただけのジェネリック製剤と違い、 あくまでも化学構造が「類似」して いるものであるに過ぎず(biosimilar)、 類似物質だから、同じように効くだろう、 副作用の危険性も同じぐらいだろうと いった根拠から作られるもので、 現時点ではまだまだ十分な(長期経過 観察による)効果判定や副作用評価が なされていないものです。

 ジェネリック製剤は、医師の処方箋と 同じ薬剤名でなくとも薬剤師が取り 替えてもよいことになっているのに対し、 このいわゆる後続品(バイオ医薬品)は、 医師によるその固有の薬剤名の指示 (処方箋記載)が必要になります。 従って現時点では、安いからといって 安易に使うのはちょっと考えもの… といったもののように思えます。

 でも、使用経験・データが蓄積され、 元の薬とその有効性と副作用の危険性に さして違わないことがわかれば、 少しでも安い方が絶対良いですよね。

以上


 今回もまた「知ることは安心すること」 を実感しました。
 井上医療部長、追記も含め、自経験に ユーモア、時には人生観まで交え、 丁寧にお答え頂きありがとうございました。



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