第20回日本脊椎関節炎研究会(抄録抜粋)


平成22年9月11日 於大宮ソニックシティ

会長 小林茂人(順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院 内科)

報告者 医療部長 井上 久
*【 】内は報告者註


<一般演題>

1.スイート病とHLA
  小橋川剛ほか
  東京女子医科大学附属八千代医療センター リウマチ膠原病内科

  〔要約〕
発熱、末梢血好酸球増多、有痛性隆起性紅斑、病理検査で多数の好中球浸潤を 特徴とするスイート病(急性発熱性好中球性皮膚症)の4例の分析。
全員がHLA−B54陽性。ベーチェット病との鑑別が困難で、確定診断には HLAと皮膚生検が有効だった。


2.脊椎関節炎の疾患活動性モニタリングにおけるFDG−PET/CTの有用性の検討
  有井薫ほか
  高知赤十字病院 内科

  〔要約〕
PET(陽電子放射断層撮影法)を利用して、グルコースを多く取り込む炎症 部位を検索して、脊椎関節炎の早期の炎症部位特定やその活動性について調べ る試み。
炎症部位・程度の診断のみでなく、薬物治療による効果判定にも利用できる 可能性がある。

FDG−PET/CT:グルコース(ブドウ糖)に放射能を出すポジトロン 核腫(陽電子を出す放射性同位元素)を組み込んだ造影剤FDG (フルオロデオキシグルコース)を静脈から注入後、30分〜1時間して、 グルコースの代謝の激しい部位に集積したところをCT撮影で調べる検査。 癌細胞がグルコースを多く取り込む性質を利用して、癌の検査として 普及されつつある】


3.当院における若年発症および高齢発症脊椎関節炎の臨床的特徴の検討
  谷口義典ほか
  高知大学医学部 内分泌代謝・腎臓内科

  〔要約〕
高齢発症(65歳以上の11例)と若年発症(45歳以下の10例)の脊椎 関節炎患者を、臨床症状、血液検査値、PETにより分析。
高齢発症例では、若年発症例に比べ、発熱、体重減少など全身症状が 強い例が多く、血液炎症反応(CRP、赤沈)も強く、PET上で 炎症部位が多発性であった。HLAの型については差はなかった。
高齢者ではリウマチ性多発筋痛症と似た病像を呈するので鑑別が重要である。


4.強直性脊椎炎の稀な画像、クモ膜憩室
  中村潤一郎ほか
  横浜市立大学附属市民病院医療センター 整形外科

  〔要約〕
膀胱直腸障害と下肢のしびれで発症した60歳男性と、腰痛で発症した84歳 男性、いずれも竹様脊椎を呈しており、MRIで多発性にクモ膜憩室が認めら れた。
原因としては炎症説などがあり、症状が強い場合には手術が必要となる。

クモ膜憩室(嚢腫):先天的または髄膜炎その他の炎症(強直性脊椎炎でも 報告がある)や外傷に起因して発生する脊髄や脳を覆うくも膜の下(くも膜下腔) にできる袋状の病変で、中には脳脊髄液が貯留する。多くは存在しても無症状で あるが、大きくなったり多発すると神経症状・麻痺を生じる】


5.若年発症の脊椎関節炎の4例:小児期の臨床像について
  秋岡親司ほか
  京都府立医科大学大学院医学研究科 小児発達医学

  〔要約〕
8歳から14歳で発症した4例の検討。四肢関節炎、多発靱帯付着部炎、 慢性疲労、抑うつ状態などが主たる症状で、安易で不適切な診断・評価が なされている場合が多く、不登校、引きこもりなど社会生活に大きな影響を 与えるため早期の正確な診断が重要である。


6.クラミジア先行感染・発熱・関節痛を有し、診断に難渋したクローン病の1例
  鬼澤秀夫ほか
  天理よろづ相談所病院 総合内科

  〔要約〕
23歳女性で主訴は発熱、関節痛、HLA−B27陽性で、膣擦過検体の クラミジア抗原検査で陽性だったため、反応性関節炎が疑われたが、 腹痛が出現してきたため、大腸内視鏡検査を実施し、クローン病が 発見された。ステロイドにて軽快する。

クラミジア:従来から目のトラコーマとして有名な病原体で (特殊な細菌)、最近は、性器または咽頭の感染症として増加中。 本菌感染後に関節痛を起こす脊椎関節炎(ASも含まれる)の 一種の反応性関節炎が続発する】


7.潰瘍性大腸炎を合併した乾癬性関節炎の一例
  村瀬樹太郎ほか
  東京慈恵医科大学 リウマチ・膠原病内科

  〔要約〕
9歳時に腹部皮疹、17歳時より多発関節痛・変形、 47歳時より下血、発熱、全身関節痛、頚椎強直、仙腸関節炎などが 認められ、手背皮疹は生検(組織検査)により乾癬と診断され、 大腸内視鏡検査で潰瘍性大腸炎と診断され、ステロイドと メサラジン(ペンタサ®)にて軽快。


8.強直性脊椎炎を伴う関節症性乾癬に対し、人工股関節置換術を行った1例
  近藤直樹ほか
  新潟大学大学院医歯学総合研究科 機能再建医学講座・整形外科分野

  〔要約〕
70歳女性。50歳で関節症性乾癬と診断され、脊柱後弯変形、 両側変形性股関節症所見があり、右股関節痛が増強したため、 人工股関節置換術を施行。
脊柱後弯に伴う骨盤後傾が激しいため、 術前に三次元アライメントシステムにより入念な計画を行った上で、 手術を施行した。

三次元アライメントシステム: 2方向レントゲン撮影とCTによる画像から得られる三次元 骨表面形状モデルの画像から、骨盤〜大腿骨〜下腿骨の形態・配列を 表示して、適切な位置・方向に人工関節を挿入できるようにする方法】


9.膀胱癌に対するBCG療法により発症した反応性関節炎の一例
  小松泰子ほか
  高知大学医学部 内分泌代謝・腎臓内科

  〔要約〕
62歳男性、膀胱癌でBCG膀胱内注入6回の後、発熱、 多発関節痛、ぶどう膜炎などが出現、血尿・排尿時痛も再発、 CRP高度増加、PETにて多発靱帯付着部炎所見。 ステロイドにて軽快した症例。

反応性関節炎:ASと同じ(血清反応陰性) 脊椎関節炎の一つ。なんらかの微生物感染後、1〜1.5カ月を 経過して脊椎関節炎が発症するもので、尿道炎または子宮頚管・ 膣炎、結膜炎、関節炎の3徴候が揃ったものを、 従来はライター症候群と呼んでいた。男性に多く HLA−B27の陽性率が高い(68〜80%)。 当初の四肢の関節炎は激しいことが多いが、予後は比較的良好。】

BCG:結核に対するワクチン。機序はまだ 解明されていないが、癌細胞に対しても免疫細胞系を賦活して 効果を発揮すると考えられている。膀胱内注入療法の後、 1%に反応性関節炎を生じると言われている】


10. FDG−PET/CTが早期診断に有用であった反応性関節炎と考えられる一例
  谷口義典ほか
  高知大学医学部 内分泌代謝・腎臓内科 

  〔要約〕
大腸炎・膿瘍に続発した23歳女性の反応性関節炎。 他の検査ではわからない靱帯付着部炎がPETで描出 (放射性同位元素の集積)され、早期診断に役立った。


11. 急速に関節破壊が進行したFibroblastic Rheumatism 1症例
  渡部昌平ほか
  愛媛大学大学院医学系研究科運動器学

  〔要約〕
多発性の皮下結節、多発関節炎から、手指の関節変形や 拘縮・硬直を生じるが血液検査でほとんど異常所見が見られない 稀なFibroblastic Rheumatism(線維芽細胞リウマチ性関節症) の61歳女性の症例。生物学的製剤も含め、ほとんどの薬剤が無効。


12.SAPHO症候群:4指節における臨床的検討
  矢部寛樹ほか
  自治医科大学附属さいたま医療センター アレルギー・リウマチ科

  〔要約〕
SAPHO症候群の25例の分析(16歳から60歳、男9例、女16例)。
胸肋鎖骨異常骨症が96%に、掌蹠膿疱症が84%に、 アフタ性口内炎が20%に、炎症性腸炎が8%に見られた。
全例HLA−B27は陰性で、ASとの関連が指摘されるB39と B61が一般人より若干高率に見られた。
疼痛は、周期性でNSAIDまたはステロイドが有効。

SAPHO症候群:Synovitis(滑膜炎炎) 、 Acne(ざ瘡・ニキビ)、Pustulosis(膿疱)、 Hyperostosis(骨増殖症)、Osteitis(骨炎)の 頭文字をとった症候群(疾患群)の名称。 すべてが揃わなくても良い。 従来の掌蹠膿疱症骨関節炎PAOも含まれる。 体内感染病巣あるいは金属に対するアレルギー機序により 発症すると考えられており、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、 ステロイド、抗生物質などの薬物療法に加え、 扁桃腺などの感染病巣摘出、金属除去などが有効の場合がある】


13. 骨エックス線による乾癬性関節炎の脊椎病変の検討
  赤津みどりほか
  自治医科大学附属さいたま医療センター アレルギー・リウマチ科

  〔要約〕
乾癬患者の15〜40%に乾癬性関節炎がみられるが、 当院を受診した乾癬性関節炎患者44例の脊椎エックス線像で、 63.6%に靱帯骨化像が見られ、27.9%に仙腸関節炎像 (両側性は67%)が見られた。


14. 乾癬性関節炎の骨増殖性変化は骨破壊性変化と関連するか?
  市川奈津美ほか
  東京女子医科大学附属リウマチ痛風センター

  〔要約〕
85例(多関節型40%、少関節型32%、脊椎炎型6%) の乾癬性関節炎の手足のエックス線評価において、 骨増殖性変化と骨破壊性変化が同時に見られ、 いずれも関節炎罹病期間と相関が認められ、両者間でも相関があり、 これから共通の病態が作用している可能性がある。
皮膚病変罹病期間や炎症反応の強さとは相関がなかった。


15. IFNγとIL17産生亢進を伴う新しい強直性関節炎モデルマウスの解析
  広瀬幸子ほか
  順天堂大学大学院分子病理病態学

  〔要約〕
自己免疫疾患用実験動物のBXSBマウスとNZBマウスを 掛け合わせた雄マウスでは、足関節周辺の靱帯付着部炎に続く 強直性関節炎を生じ、その際、炎症性物質(サイトカイン)の IFNγとIL17産生亢進を伴っている。
BXSBマウスとNZBマウスそれぞれ単独群では このような強直性関節炎は生じないので、両親双方由来の 遺伝要因の相互作用によって付着部炎・関節炎が発生すると 考えられる。
一方、同じ掛け合わせで生まれた雌マウスでは、関節炎は 発症しない代わりに腎炎が発症し、これについても 両親由来の遺伝要因の相互作用と考えられる。
ヒトにおいて強直性関節炎が男に多い事実と関連づけられ、 この雌雄のマウスは、両方の疾患の研究に有用なものに なると思われる。

実験動物(マウス):ハツカネズを兄妹同士で交配させ、 これを20世代以上繰り返すことにより遺伝的に同一、 すなわちある疾病・病態を発症する一群をつくり出すことができ、 疾患の病因解明、病態分析、治療法開発に利用できる】


<ランチョンセミナー>
16. 強直性脊椎炎に対するTNF阻害療法の最新の話題
     〜患者さんとご家族にも解りやすく語る〜
  多田久里守
  順天堂大学医学部 膠原病内科


<特別講演>
17. 我が国のAS患者の実態 〜 第3回患者アンケート調査から
  井上 久
  順天堂大学医学部整形外科・スポーツ診療科


<一般演題>

18. クラミジアと反応性関節炎
  小竹 茂ほか
  東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 膠原病リウマチ内科

  〔要約〕
泌尿・生殖器あるいは腸管感染を先行感染として無菌性関節炎が 発生する反応性関節炎の中で、クラミジアの先行感染があるものを クラミジア関連関節炎と呼ぶが、関節滑膜の中に、クラミジアの DNAやRNAのみならず生きたクラミジアそのものが証明されており、 これに伴い無菌性の概念の訂正が必要と考えられる。
感染症による関節炎として抗生物質の2剤併用療法の有用性が 示されている。従って、生きた細菌は存在せずDNAのみが 証明される腸管感染の先行する反応性関節炎とは、 異なる病態であることが推測される。


19. 脊椎関節炎に関するFDP−PET〜CTの有用性
  公文義雄
  高知大学医学部 病態情報診断学

  〔要約〕
PETに使用する造影剤FDG(炎症部位に集積)は、 脊椎関節炎では関節外の靱帯付着部、関節リウマチでは 関節内の滑膜に集積し、両者は画像上区別が可能である。 PETは、早期診断および両者間の鑑別、さらには 活動性の評価についても有用である。


20. 強直性脊椎炎の骨リモデリングについて
  田村直人
  順天堂大学医学部 膠原病内科

  〔要約〕
関節リウマチでは炎症により骨破壊が起きるが、 これに対して強直性脊椎炎では炎症部位の近傍の 軟部組織が骨に置換され骨化・強直が起こる。
強直性脊椎炎の骨化には炎症が引き金になっているのか、 全く別の病態なのか結論は出ていないが、 骨増殖(骨化)を促進するいくつかの物質がみつかりつつあり、 これらについての研究を進めることにより、 骨化(強直)の進行抑制が可能な治療薬の開発が期待される。

骨のリモデリング:骨の再造形。成長期に骨が 形成された後も、その後、絶えず作っては(骨新生)壊しながら、 (骨吸収)骨組織が維持され、カルシウムを中心とする ミネラル(無機質)の代謝や力学的負荷による調整が為されている】


21. PI3K阻害剤ZSTK474は強直性脊椎炎のモデルマウスにおける関節炎を抑制する
  森重之ほか
  全薬工業株式会社

  〔要約〕
骨形成(骨化、強直)の抑制作用をもつ物質(薬剤)は まだ見つかっていないが、骨芽細胞が担っている骨形成(新生)には、 P13K(ホスファチジルイノシトール3キナーゼ)が 重要な役割を果たす。
マウスの実験で、このP13Kの阻害剤であるZSTK474が 炎症や強直化を抑制することがわかり、 強直性脊椎炎の治療薬として期待される。


<七川歓次先生記念講演〜
 七川先生(日本脊椎関節炎学会理事長)のご業績を語る>


22. 脊椎関節炎の病理について
  西林保朗
  三木山陽病院

  〔要約〕
リウマチ性疾患の脊椎病理に関する七川歓次先生の業績紹介。
関節リウマチは滑膜炎で、強直性脊椎炎は付着部炎と 思われがちであるが、いずれも両者の病態が存在しており、 靱帯付着部の炎症と炎症性肉芽形成、石灰化・骨化を含む 共通した非特異的な変性像と言える。


23. 脊椎関節炎の疫学
  福田眞輔
  滋賀医科大学名誉教授 多根第二病院名誉院長

  〔要約〕
七川先生が1965年から45年間続けている 和歌山県上富田住民調査や関節リウマチはブラジル日系人と 日本人とで差がないという国際協力研究の成果の紹介。

日本AS研究会(日本脊椎関節炎学会の前身)が1989年と 1996年に行った脊椎関節炎の全国調査の紹介。
12年間に990人の(男760、女27 、不明3)の患者が 登録された。これをもとに統計学的考察・操作を加えた結果、 日本の有病率は0.0095%、罹患率は0.48/100000人/年 で,白色人種の1/20であった。


24. 七川先生との思い出と多発性付着部炎
  行岡正雄
  行岡病院院長 整形外科

  〔要約〕
七川先生の多発付着部炎、特にアキレス腱の病理組織検査に 関する研究の紹介。
多発付着部炎の局所の刺激が線維筋痛症を誘発する可能性があり、 このタイプが日本の線維筋痛症に多い。


25. 強直性脊椎炎とHLA−B27
  前田 晃
  行岡病院名誉院長 リウマチ科

  〔要約〕
臓器移植の分野で発展してきたHLA抗原(型)は、 次第に、一定の型がある疾患と相関することが 判明するようになり、1973〜4年にHLA−B27 と強直性脊椎炎の強い関連が発表された。
1974年、七川先生が日本の強直性脊椎炎患者の HLAを調査した結果、B27の陽性率は91.7%、 (一般健康人2.3%)、患者の家族では43.1%と発表。
さらに、B27の亜型として日本人は2704型と 2705型であることがわかった。


脊椎関節炎研究を追って50年・・・・そしてこれから

七川歓次
行岡病院名誉院長 リウマチ科

  〔要約〕
我が国では第二次世界大戦後の教科書に脊椎骨肥厚症と 初めて記載され、関節リウマチの研究に比して大分遅れていた。
HLAの調査により、一般人のB27の陽性率が東京地区住民 (0%)と大阪地区住民(2.3%)に違いがあり、 東南アジア諸国と比べても日本の陽性率は極めて低率である ことがわかった。
強直性脊椎炎の診断基準は、1961年にローマ基準、 1966年にニューヨーク改訂基準、1989年に 脊椎関節炎の基準(Amor)、1990年にヨーロッパ 脊椎関節症研究班ESSGの基準が発表され、 強直性脊椎炎は脊椎関節炎のグループに含まれる疾患 とみなされるようになった。
我が国の脊椎関節炎と関節リウマチの患者数の比率は 1:7であったが、近畿地区の住民調査では、ほぼ1:1で、 諸外国と変わらないことがわかった。
仙腸関節の生検(生態からの組織検査)により靱帯付着部炎の 特徴像を示し、脊椎関節炎の病態の本態が付着部炎で あることを改めて証明した。
1991年、多発性付着部炎という疾患概念を提唱した。 これは分類不能型の脊椎関節炎に該当するのかもしれない。
動物実験で脊椎関節炎類似のマウスを作成することが できるようになり、付着部での炎症反応と骨化の場所は 異なることも証明された。
生物学的製剤は、脊椎関節炎の治療を大きく進歩させたが、 骨化を抑制できるか?付着部炎の診断のための血液検査が できるか?付着部炎は非可逆性であるため、 早期の治療開始により骨化(強直)を防げる可能性もある。


<イブニングシンボジウム>
第1部

27. 乾癬性関節炎に対するアダリマブの治療効果
  辻成佳ほか
  星ヶ丘厚生年金病院

  〔要約〕
41例の1剤の非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)で 効果不十分な乾癬性関節炎に対して、アダリマブ (ヒュミラ®)を使用したところ、 ASAS20、50、70反応率は、それぞれ 73.2%、56.1%、31.7%で、 その効果は24週まで持続した。 7例の全脊柱強直者にも有効であった。

ASAS20、50、70:強直性脊椎炎に対する 薬効判定するための評価項目で、(1)日常生活を送る上での 身体機能、(2)脊椎の痛み、(3)朝のこわばりの持続時間や強さ、 (4)患者の全般評価の4項目があり、これらはさらに細かい評価項目・ 測定テストに分かれる。これらによる評価で20%、50%、 70%の改善率を示した患者の割合で示す】


第2部

28. Opening Remarks(開会の挨拶)
  形浦 昭克
  札幌医科大学名誉教授

  〔要約〕
扁桃(腺)は各種免疫担当細胞が豊富な免疫臓器である。 病巣感染の原発巣としては扁桃が最も多く、 近年は歯牙が話題になっている。
その二次性感染である病巣感染性疾患としては、 掌蹠膿疱症や乾癬などの皮膚疾患、IgA腎症、 胸肋鎖骨過形成症(SAPHO症候群、反応性関節炎) などがあり、扁桃摘出術の治療効果は高い。

病巣感染:体の一部に慢性感染巣 (細菌が慢性的に存在し軽い炎症がある場所)があり、 この病巣そのものは強い症状を示さないが、 そことは関係のない臓器(脊椎関節・靱帯、皮膚、心臓、 腎臓、肺、胃、胎児など)に障害が出て、 二次的な病気が発症してしまうもの】


29. 扁桃炎に伴う反応性関節炎と扁桃摘出術の効果
  小林茂人
  順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院 内科

  〔要約〕
連鎖球菌感染による反復性の扁桃炎に伴い、 無菌性関節炎を発症する反応性関節炎は、 諸外国ては連鎖球菌感染関連関節炎と呼ばれ、 小児のリウマチ熱との異同が議論されているが、 連鎖球菌感染以外の細菌によっても生じ得るもので、 HLA−B39やB60を有する症例が多く、 抗生物質や扁桃摘出術により消退・完治が可能である。

反応性関節炎:脊椎関節炎の一つで、 関節以外の部位の微生物感染後に起こる無菌性 (微生物が培養検査で出ない、ただし、 DNAなど菌体成分は存在する)の関節炎。 従来、非淋菌性関節炎、結膜炎、尿道炎の3徴が 揃ったライター症候群と呼ばれていたものである。 先行感染は、クラミジアによる尿道炎、赤痢や サルモネラやエルシニアなどの腸管感染症に 罹患後1カ月以内に発症する。 虹彩炎や皮膚疾患(膿漏性角化症など)を 合併することがある。HLA−B27の陽性率が高い】


30.IgA腎症と扁桃摘出病巣感染のメカニズム
  堀田 修
  IgA腎症根治治療ネットワーク

  〔要約〕
腎臓の糸球体にIgAが沈着するもので、 慢性糸球体腎炎の中で最も頻度の高い疾患であり、 透析が必要となる末期腎不全患者の原因疾患としては 糖尿病に次いで2番目に多いものである。
本疾患患者の扁桃のリンパ系組織に特徴的病変が 見られるため(病巣扁桃)、IgA腎症に関与している ことはほぼ確実であることがわかったのはごく最近である。
その機序については研究途上であるが、 上皮とリンパ球間の情報伝達に障害か生じた結果、 炎症の慢性化につながると推測している。 病巣感染として、扁桃摘出術の有効性を示唆する報告も 相次いでいる。

IgA:免疫機能に関与する 蛋白質の一種グロブリンの一つ。 免疫グロブリンにはその他に、IgG、IgM、 IgD、IgEがあり、免疫不全症候群では いずれも減少し、多発性骨髄腫ではいずれも増加する 可能性がある。また、リウマチ・膠原病や肝疾患や 慢性感染症ではIgGやIgMが、 アトピー性皮膚炎や気管支喘息などの アレルギー疾患ではIgEが増加する】


31. 扁桃を病巣とする皮膚・骨関節疾患とその発症機序
  原渕保明
  旭川医科大学 耳鼻咽喉科・頭頚部外科

  〔要約〕
扁桃病巣疾患(病巣性扁桃炎、扁桃病巣感染症)は、 「扁桃が原発巣となり、扁桃から離れた臓器に反応性の 器質的または機能的障害を起こす疾患」であり、 感染症ではなく扁桃を病巣とした自己免疫学的な 発生機序が解明されつつある。
扁桃摘出が極めて有効とされる疾患としては、 掌蹠膿疱症、胸肋鎖骨過形成症、IgA腎症があり、 その他にも、尋常性乾癬、膿疱性感染、結節性紅斑、 アテフィラクトイド紫斑病などの皮膚疾患、 慢性関節リウマチ、反応性関節炎、 アキレス腱炎など骨関節疾患、微熱、 ベーチェット病、炎症性腸疾患(クローン病、 潰瘍性大腸炎)などにも有効という報告がある。



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