第19回日本脊椎関節炎研究会


平成21年9月12日 JA長野県ビル アクティ・ホール

会長 浦野房三(長野県厚生連篠ノ井総合病院リウマチ膠原病センター)

報告者 医療部長 井上 久
*【】内は報告者注

〔一般演題Ⅰ〕

  1. 難治性強膜炎を合併した血清反応陰性脊椎関節炎の一例
    尾川英祐 ほか
    長野県厚生連篠ノ井総合病院 リウマチ膠原病センター

    〔要約〕 33歳男性。
     以前より腰痛があったが、微熱、顔面浮腫、 多関節痛・圧痛、腰痛が出現、その後、両眼球結膜の充血が出現し、 CRP増加、赤沈亢進、MRIで胸椎の一部、仙腸関節に信号変化を認めた。
     NSAIDは無効、眼科で強膜炎【ブドウ膜炎】 の診断でステロイドの投与を開始したが難治性である。

       【NSAID:非ステロイド性抗炎症剤】


  2. 乾癬性関節炎の治療経験
    辻 成佳 ほか
    星ケ丘厚生年金病院 整形外科

    〔要約〕 乾癬性脊椎炎13例に対してMTX 6〜8 mg/週で治療。
     非脊椎炎型では6割が中等度の改善を示したが、 脊椎炎型では5割が中等度改善を示し、 脊柱周辺の疼痛が軽減した症例はなかった。

       【MTX:メソトレキサート(リウマトレックス®)】


  3. 強い骨融解を伴い乾癬性関節炎が疑われた脊椎関節炎の一例
    寺島大介 ほか
    多根総合病院 整形外科

    〔要約〕 73歳男性。
     乾癬症、光線過敏症でステロイド内服中。
     敗血症で入院後、腰背部痛、肩関節痛出現し、関節穿刺で排膿、 細菌培養検査では血液細菌培養結果と同じ メチシリン感受性黄色ブドウ球菌〔MRSA〕が証明され 化膿性脊椎炎・肩関節炎の診断で、ステロイド中止の上、 抗生剤治療にて改善、半年後に脊椎固定術施行。

     その後も、全身の膿疱や乾癬が改善しないため、 MTX 4 mg/週を開始したところ、これらの皮膚症状は改善した。


  4. 当院における乾癬性関節炎の11例
    小松大悟 ほか
    長野赤十字病院 整形外科

    〔要約〕 男性6例、女性5例の治療経験。
     NSAIDのみが3例、その他はステロイド、 抗リウマチ薬(金製剤、ブシラミン、MTXなど)で治療、 これらが無効だった1例には、 インフリキシマブ【抗TNFα剤.生物学的製剤】を使用し、 改善傾向を認めた。


  5. 結核性脊椎炎との鑑別を要し再建術を行ったSAPHO症候群の1例
    中村潤一郎 ほか
    横浜市立大学付属市民総合医療センター 整形外科

    〔要約〕 60歳女性。
     結核性頚部リンパ節炎に対して抗結核剤を6カ月間使用、 投与終了時頃より両側の下腿一足の疼痛・腫脹が出現。

     NSAIDは無効、ステロイドで軽度改善、 数週間後に著明な腰痛が出現し、 MRIで椎間板炎所見が認められたため、 椎間板の病理組織検査を実施したが非特異性炎症所見のみ、 細菌培養検査では陰性で結核および化膿性炎症は否定された。

     脊椎再建術を実施し、下肢痛は軽減。 手術時採取した組織の病理組織学的および細菌培養検査は陰性。 しかし、白血球数、CRP、赤沈値などの上昇を認め、 画像検査で多発脊椎炎・仙腸関節炎像を認めたため SAPHO症候群の診断で、 MTX、SASP、ステロイドなどにてコントロール中。

       【SASP:サラゾスルファピリジン(アザルフィジン)】


  6. 掌蹠膿疱症性関節炎の臨床所見の検討
    高野祐護 ほか
    九州大学 整形外科

    〔要約〕 掌蹠膿疱症性骨関節炎の54例(男性19例.女性35例) のうち前胸部病変が80%以上、脊椎病変が16%、四肢関節病変が26%。 皮疹先行例が半数、皮湿疹先行は30%、血中CRP上昇が70%、 アルカリフォスファターゼ上昇【骨新生を反映する酵素】が20%。

     多くはNSAIDでコントロール可能だったが、 無効な9例にSASPを使用して7例に有効だった。


  7. 乾癬性関節炎がQOLに及ぼす影響についての検討
    市川奈緒美 ほか
    東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター

    〔要約〕 乾癬性関節炎64例と関節リウマチ83例の SF-36によるQOL評価・比較。

    乾癬性関節炎群の平均罹病期間は9.7年、平均年齢55.9歳。 関節リウマチ群は、それぞれ11.5年、58歳。  乾癬性関節炎群は、全ての尺度(身体機能、 日常生活役割機能、体の痛み、全体的健康感、 活力、社会生活機能、心の健康) において国民標準値より低値であり、 関節リウマチ群に比べて全体的健康感、 活力は有意に低下していた。

     乾癬性関節炎群の中で、 多関節型は少数関節型に比べ全般的に低下していた。

       【SF-36:健康プロファイル型尺度 (第3回患者実態調査アンケートに使用)】


  8. リウマチ性多発筋痛症とRS3PE症候群症例の比較検討
    渡部昌平 ほか
    愛媛大学大学院医学系研究科運動器学

    〔要約〕 両者には血清リウマチ因子や抗核抗体が陰性、 高齢者に多い、少量のステロイドが有効などの共通点があるが、 リウマチ性多発筋痛症7例(P群)とRS3PE 12例(R群)を比較した。

     P群では慢性発症と再燃傾向が多いが、 それ以外、血液検査値、 ステロイドの投与量などに有意な差は無かった。 両者は全身性滑膜炎として同じ疾患概念に含まれると考えられる。

       【RS3PE:浮腫を伴う再発性血清反応陰性対称性滑膜炎】



〔一般演題Ⅱ〕

  1. 強直性脊椎炎患者に生じた頚椎脱臼骨折の1例
    向井原健太 ほか
    順天堂大学 整形外科

    〔要約〕 51歳女性。
     交通事故にて、第5-7頚椎に剪断性の骨折。 症状は、頚部痛、 右第4、5指のしびれ程度で脊髄損傷の徴候は見られなかった。

     竹様脊椎の特殊骨折のため保存的治療、 もしくは一般人と同様に狭い範囲の脊椎固定では骨癒合の可能性が低いため、 第2頚椎〜第7胸椎に椎弓下鋼線締結とロッド固定に 骨移植による後側方固定も追加し、術後6カ月で骨癒合が得られた。

     重症の強直性脊椎炎患者の脊椎は、 不動性・炎症性の骨粗鬆症や可動域消失のために骨折し易く、 また、骨癒合も困難なため広範囲の強固な固定が必要となる。
     また、麻酔時の挿管や体位保持には十分な術前検討と 麻酔・手術前後に慎重な管理を要する。


  2. 強直性脊椎炎に対する人工股関節置換術の治療経験
    馬場智規 ほか
    順天堂大学医学部付属浦安病院 整形外科

    〔要約〕 強直性脊椎炎に対して人工股関節置換術 (セメントレスを20例31関節)に行い (平均年齢39.5歳.平均観察期間11年.男性26関節、女性4関節)、 機能(疫病、可動域、歩行・日常生活動作能力)は全症例で有意に改善し、 10年生存率は100%、15年生存率は63.5%であった。

     本疾患で懸念される術後の異所性骨化は32.2%に認められたが、 再拘縮・強直や疼痛の増強との関連はなかった。


  3. 脊椎関節炎に伴う膝蓋腱炎による膝蓋骨痛に対する骨穿孔術の経験
    赤嶺智教 ほか
    長野赤十字病院 第一麻酔科

    〔要約〕 脊椎関節炎に伴い膝蓋骨圧痛や膝前部痛を訴え、 MRIで膝蓋骨内の骨髄内浮腫像を認めたため、 膝蓋骨に穿孔術を施行して改善が得られた3例の報告。


  4. 原因不明の脊髄炎を伴った頚椎椎間関節滑膜炎の1例
    善明美千久 ほか
    鹿児島大学 整形外科

    〔要約〕 四肢のしびれと知覚障害、 歩行障害(痙性歩行)が主訴の57歳男性。

     MRIで第3、4頚椎棘突起から椎間関節、 および頸髄内に高信号が認められたが、 その他の検査では異常無し。

     患部の病理組織検査では、腫瘍性病変なく、 慢性炎症細胞浸潤と血管増生を伴う滑膜増生がみられたのみ、 ステロイドのパルス療法により軽度の改善がみられた。


  5. 強直性脊椎炎患者に対する麻酔管理
    渡部晃士 ほか
    順天堂大学医学部付属浦安病院 麻酔科

    〔要約〕 強直性脊椎炎患者の麻酔は、 頚椎可動性減少・消失のために気道確保が困難で、 靭帯骨化のために脊椎麻酔・ 硬膜外麻酔のための穿刺も困難であり、 胸郭拡張制限(呼吸機能減少、術後肺炎の危険性)、 さらには心疾患の併発もあり、 麻酔前に入念な計画を練る必要がある。

     17例の麻酔例に対して検討した結果、 OWDが大きくなる(後弯・前傾)に従い、 気道確保、気管内挿管の難易度が上昇した。

       【OWD:壁を背にして直立した時の後頭部〜壁間距離】


  6. 頚椎症との鑑別を要した強直性脊椎炎と関節リウマチの合併例
    小平 農 ほか
    信州大学 脳肢位系内科リウマチ・膠原病内科

    〔要約〕 72歳男性。
     20歳から腰痛を繰り返していたが、60歳頃から両手のむくみ、 腰背部のこわばり、身体が固くなったことを自覚、 70歳頃から手指のこわばり、 指・手関節痛、右肩関節痛(挙上困難)が出現。

     血清リウマチ反応、抗CCP抗体陽性 【以上、関節リウマチの血液検査】、HLA-B27は陰性、 胸腰椎可動制限があり、 MRI上 頚部脊柱管狭窄所見は軽いため、 強直性脊椎炎と関節リウマチの合併を疑い NSAIDとSASPを投与したところ病状は改善した。

     高齢男性では頚椎症による神経症状・麻痺との鑑別を要する。


  7. 急速進行性の手指DIP関節破壊を主徴とした血清反応陰性関節炎の一例
    谷口義典 ほか
    高知大学 内分泌代謝・腎臓内科

    〔要約〕 57歳女性。
     10年前から時々膝関節痛、 5年前から手指DIP関節を主体とした多発関節痛が出現、 自然寛解、再燃を繰り返す。

     2年前から両手指のDIP関節の骨破壊が急速に進み、 赤沈、CRPのみ増加。その他のリウマチ反応、 抗CCP抗体陰性、HLA-B27陰性、皮湿無し、爪異常無し。

     ガリウムシンチグラフィー検査で、 多部位の靭帯付着部に高集積を認め、 脊椎関節炎の診断で、SASP、MTX使用を投与したが、 なお進行したために抗TNFα製剤を投与中。

       【DIP:遠位端指節間関節(指の第一関節)】


  8. 血清反応陰性脊椎関節症(SpA)に対する抗TNFα阻害療法の有用性の検討
    泉 啓介 ほか
    慶応義塾大学医学部 内科

    〔要約〕 SpA 7例(男性5例、女性2例)につき、 患者背景、腫脹・疼痛関節数、 炎症反応(CRP、赤沈)やMMP-3、 患者全般評価・疼痛評価、 前屈試験の変化を調査したところ、 炎症反応、疼痛、全般評価が改善され, 安全かつ有効な治療法である可能性が示唆された。


〔ランチョンセミナー〕

  1. 脊椎関節炎に対する欧米での最新治療
    Peter Y Shane MD
    Centocor Ortho Biotech Services LLC 東京医科歯科大学 医学部

    〔要約〕 過去の強直性脊椎炎の治療においては、NSAID以外、 統計的手法での検証により高い臨床効果をあげる薬剤はなかったが、 欧米ではすでに脊椎関節炎に抗TNFα剤 【生物学的製剤、抗サイトカイン療法】が脊椎関節炎に承認されており、 日本でもその有効性に関する認知度か高まっている。

     残る課題は、症状(疼痛)の緩和以外に、 脊椎関節炎の自然経過そのものに影響を与えるかどうかであるが、 結論は出ていない。

     関節リウマチの治療の課題は、 早期寛解導入→休薬後の寛解維持→関節変形の阻止→ 身体機能の維持であるが、 脊椎関節炎でも同じ目標に到達できるかの検討。

       【詳細は、『らくちん』第22号に同封された座談会の記事を参照】



〔一般演題Ⅲ〕

  1. 当院通院の強直性脊椎炎患者の臨床的特徴とHLA-Bローカス
    小橋川剛 ほか
    東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センター

    〔要約〕 31例(男性28例、女性3例) の強直性脊椎炎と診断されて通院中の患者の中で、 「改正ニューヨーク診断基準」を満たす例は65.6%、 残り34.4%は仙腸関節炎所見は見られたが、 自覚症状を欠くため「疑い」とされていた。

     腰背痛は96.9%、腰椎可動域制限は40.6%、 胸郭拡張制限は37.5%、 X線上の仙腸関節炎像は68.8%に見られた。

     HLA-B27は強い相関を認めたが、 HLA-B15は負の相関傾向を認めた。


  2. 血清MMP-3は脊椎関節炎のbiomarker【生体的指標】になるか
    今野孝彦 ほか
    北星病院リウマチセンター

    〔要約〕 追跡し得た58例の脊椎関節炎事例のうち、 CRPが高値を示した例は18.3%(初診時は12.2%)、 MMP-3が高値を示したのは74%(初診時は32.7%)、 MMP-3は、 脊椎関節炎のうち分類不能型の脊椎関節炎で30.5%、 仙腸関節炎で24.1%、強直性脊椎炎で20.6%、 反応性関節炎で11.1%、 炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎で8.3%に上昇を示した。

     CRPが上昇していたケースでのMMP-3との間に相関はなかった。 脊椎関節炎の診断にはMMP-3を加えることは意義があると考えられる。

       【MMP-3:関節内滑膜細胞から分泌される蛋白分解酵素で、 滑膜炎即ち関節炎・関節破壊の指標となる。 関節リウマチの他、SLEや糸球体腎炎等で上昇する】


  3. 強直性脊椎炎の合併を疑うも、最終的には線維筋痛症の診断に至った例
    多田久里守 ほか
    順天堂大学 膠原病内科

    〔要約〕 31歳女性。
     抜歯後の激痛から、両肩、手指の関節痛の主訴で、 初療医により線維筋痛症+反応性関節炎との診断でNSAID、 ガバペンチン【本来は抗てんかん剤であるが、 線維筋痛症の主たる治療薬である】を投与されるも無効。

     後医により線維筋痛症+強直性脊椎炎と診断され入院、 ステロイド、SASPを投与されるも無効。 裂肛から頑固な肛門痛が出現、 全身痛のため歩行困難な状態となったため当院初診。

     症状は運動により増悪、臨床所見、画像検査所見 (MRI、シンチグラフィー)、 血液検査所見などから強直性脊椎炎は否定的で、 ガバペンチンの増量と患者の心理的社会的背景の検証の上、 丁寧な病態説明により軽快したため、 強直性脊椎炎の合併はなく線維筋痛症が病態の主体と考えられた。


  4. 血清反応陰性脊椎関節炎におけるFDG-PET/CTの有用性の検討
    谷口義典 ほか
    高知大学 内分泌代謝腎臓内科

    〔要約〕 脊椎関節炎11例中10例に、 いずれかの部位の靭帯付着部にPETの画像上で炎症を示唆する像を認めた。 従来のMRIやガリウムシンチグラフィーより鋭敏かつ明確に描出されるので、 脊椎関節炎の早期診断、 病変の広がりの把握に関してより有用であることが示唆された。

       【FDG-PET/CT:フルオロデキシグルコースを授与して、 体内で糖代謝が亢進している部位に集積した状態を 画像上で表示するポジトロン断層撮影、 通常は悪性腫瘍の検索に使用される】


  5. FDG-PET/CTが有用であった溶連菌感染後反応性関節炎の一例
    堀野太郎 ほか
    高知大学医学部 内分泌代謝・腎臓内科

    〔要約〕 50歳男性。
    感冒に罹患後腰痛、股、肩、膝、足関節痛が出現。 CRP、MMP-3、ASOなどが上昇、 MRIで腰椎・股関節の靭帯付着部に炎症を示唆する所見を認めた。

     悪性疾患除外目的でPET施行でも集積像が認められ、 PETは本疾患の診断に参考になる検査である。

       【溶連菌感染後反応性関節炎:溶連菌感染後10日以内に関節炎発症、 関節炎は非遊走性、関節炎は遷延性かつ再発性、 NSAIDに反応しない…などが特徴】

       【ASO(抗溶連菌溶血毒素):溶連菌が直接的、 間接的な病因となる疾患で上昇する】


  6. 転移性脊椎腫瘍鑑別のために撮像されたSAPHO症候群のPET所見
    中村潤一郎 ほか
    横浜市立大学付属市民総合医療センター 整形外科

    〔要約〕 他医にてMRIなどで転移性脊椎腫瘍が疑われて PET検査を依頼された5例で、胸鎖関節、仙腸関節、 脊椎などの靭帯付着部に集積所見を認め、 その集積部位の特徴や病理組織検査などで転移性腫瘍が否定され、 SAPHO症候群と診断された5例の報告。

       【SAPHO症候群:ざ瘡(ニキビ)・膿疱・骨増殖・骨炎症候群. 脊椎関節炎の一種で、 掌蹠膿疱症性骨関節症は本症候群に含まれるものと考えられている】



〔シンポジウム〜脊椎関節炎と多発性付着部炎〕

  1. 関節リウマチの臨床病理からみた脊椎関節炎について
    青木重久
    愛知医科大学

    〔要約〕 関節リウマチと脊椎関節炎には、 末梢関節炎・滑膜炎、滑膜組織内抗ECA抗体陽性、 複雑なアレルギー反応の関与、 炎症性局所サイトカイン産生〔TNFαなど〕、 生物学的製剤の有用性…等の共通点がある。

     病巣部の病理組織学的所見では、 両方とも慢性肉芽腫性関節滑膜炎像を呈するのは共通であるが、 関節リウマチは関節破壊を示すのに、 脊椎関節炎では骨増殖傾向が強い。

     ECAを両者に共通の発症抗原と仮定すれば、 HLAの違い(関節リウマチではDR-4型が多く、 脊椎関節炎ではB-27型が多い)によって、 関節リウマチで見られる関節病変になるのか、 脊椎関節炎で見られる関節病変になるか規定される可能性がある。

       【サイトカイン:各種細胞が産生する生態調節機構に関与する 細胞間相互作用を担う分泌蛋白質の総称.代表的なものがTNFα】

       【ECA抗体:腸内細菌共通抗原に対する抗体】


  2. 脊椎関節炎と多発性付着部炎:放射線科医の立場から
    杉本英治
    自治医科大学 放射線科

    〔要約〕 多発付着部炎は、 脊椎関節炎における基礎的病変である。 初期には、細胞浸潤(リンパ球、白血球)に伴って X線上 骨のビラン(虫食い像、不整像)が生じ、 進行すると反応性の骨硬化が起き、 治癒期になると骨増殖が起きた強直となる。

     MRIはX線などでまだ描出できない初期の付着部炎像が描出可能である。 全身のMRIにより付着部炎の全身分布も描出することができ、 MRIの撮像法の造影剤使用により、 脊椎関節炎の早期診断や治療効果判定に有用である。


  3. 慢性疼痛疾患である線維筋痛症とリウマチ性脊椎関節炎
    三木健司 ほか
    尼崎中央病院 整形外科

    〔要約〕 線維筋痛症に限らず、 慢性疼痛を訴えるケースにおいては鑑別診断が重要で、 整形外科的疾患との鑑別(除外)の後、 リウマチ性疾患との鑑別(除外)をするが、 なかでも、初期の脊椎関節炎の症候は線維筋痛症に類似しているため 鑑別が困難なことが多い。

     また脊椎関節炎を初め種々の疾患に続発する 二次性線維筋痛症も念頭においておくべきであり、 さらに(精神疾患である)身体表現性疼痛障害との異同 ・重複も問題となってくる。

     線維筋痛症の特効薬はいまだ無いが、 臨床家として心掛けていることは、 「患者さんの痛みをとるのは、決して薬でなく、 患者さんの心と患者を思いやる医療者の心であるという気持ち」 である。


  4. 内科医からみた脊椎関節炎・多発性付着部炎
    八田和大
    天理よろづ相談所病院 膠原病センター

    〔要約〕 HLA-B27関連の強直性脊椎炎・ 多発性付着部炎は日本では稀であるが、 脊椎関節炎という疾患グループとしてみれば決して稀なものではない。

     眼科領域のブドウ膜炎、皮膚科領域の乾癬・掌蹠膿疱症、 内科領域では炎症性腸疾患、 循環器領域では大動脈(弁も含む)疾患、 あるいはベーチェット病やシェーグレン症候群などの合併病態が 診断の「鍵」となることがある。

     CT、MRIなどの画像診断は有用であるが、 落とし穴はあるので注意が必要である。 その他、 内科という広い視点から脊椎関節炎(症)について眺めてみたい。


  5. 線維筋痛症のレゾンデートル(運動器疾患患者の全人的ケアへのいざない)
    西林保明
    朋優会三木山病院 整形外科・リウマチ科・リハビリテーション科

    〔要約〕 慢性疼痛を訴え身体各所に圧痛痛を認める線維筋病症に 興味をもって診療を続けてきたが、頚肩腕痛を訴え、 自律神経失調症と言える患者に本症を認めることが多い。

     厚生省労働省研究班による「線維筋痛症ハンドブック」では、 身体医学だけでなく精神医学的側面の重要性が強調されている。 Yunusは2000年に筋緊張性頭痛、原発性線維筋痛症、 過敏性腸症候群、原発性月経困難症を 「中枢性過敏症候群」の概念でまとめ、 筋攣縮が共通した発症メカニズムであるとした。

     現在では、抑うつを伴う多くの疾患を同じ仲間としている。 慢性の頚肩腕や腰〜下肢痛など多くの運動器疾患も含まれることも見逃せない。 これらは中枢性疼痛の側面も持つため、 治療に際しては全人的なアプローチが重要である。

     いずれも現代社会で多発している解明困難な健康被害といえる。 運動器を対象とする整形外科医やリウマチ医が、 線維筋痛症を「中枢性過敏症候群」 のプロトタイプとして治療することが非常に重要である。

       【レゾンデートル:存在価値・存在理由】

       【プロトタイプ:原型・基準・手本】



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