第18回日本脊椎関節炎研究会


平成20年9月13日 毎日インテシオ(大阪)

会長 井上康二(大阪リハビリテーション病院)

【井上 久医療部長が、会員にとって有益と思われる箇所のみ要約しました】


【一般演題】

  1. 「外傷を契機に診断された乾癬性脊椎関節炎の1例」
    忽那辰彦 ほか
    愛媛大学大学院医学系研究科運動器学

    〔要約:皮膚科疾患である尋常性乾癬の1/3に関節炎を合併するが、 バイク事故で手術を受けたが膝関節炎が持続、次第に悪化し、 人工関節置換術が必要となった47歳男性の症例報告〕


  2. 「皮膚症状が乏しく、胸鎖関節炎、仙腸関節炎を呈した乾癬性関節炎の1例」
    八子 徹 ほか
    東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター

    〔要約:皮膚症状は紅斑程度で乾癬の確定診断には至らないが、 全身の関節痛、胸鎖関節の腫脹・疼痛、爪甲剥離、 画像検査で指関節炎、仙腸関節炎、胸鎖関節炎を呈し、 血液炎症反応亢進を示したことにより乾癬性関節炎と診断した54歳男性の症例。
     HLA-B27は陰性。MTX(リウマトレックス®)、 SASP(アザルフィジン®)、 ステロイド(プレドニン®)により病状軽快〕


  3. 「乾癬性関節炎におけるX線変化」
    奥村法昭 ほか
    滋賀医科大学 整形外科

    〔要約:乾癬性関節炎17例(平均年齢50.4歳) の手指X-P所見を分析した結果、 17人中9人に、DIP関節(遠位端指節間関節) や末節骨に骨吸収・増殖などのX-P的変化を認めた〕


  4. 「乾癬性関節炎の骨エックス線所見の検討」
    市川奈緒美 ほか
    東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センター

    〔要約:乾癌性関節炎(PsA)と関節リウマチ(RA) の手足のX線所見の比較。
     手指の関節近傍骨増殖はPsA 53%、RA 25%、 びまん性関節周囲軟部組織腫脹はPsA 18%、RA 0%、 足趾のDIP関節のびらん性骨変化はPsA 22%、RA 0%、 関節近傍骨増殖はPsA 18%、RA 10%、 びまん性関節周囲軟部組織腫脹はPsA 18%、RA 0%と、 いずれも骨変化はPsAに多かった〕


  5. 「脊椎関節炎における肩関節炎の検討」
    浦野房三 ほか
    長野県厚生連篠ノ井総合病院・リウマチ膠原病センター

    〔要約:脊椎関節炎で、外傷の既往なく圧痛以外に顕著な所見はないが、 肩関節痛のある14症例(AS 7例、未分化 or 分類不能型)のMRI所見の分析。
     4例に腰板全層断裂、 6例に上腕骨頭に骨髄浮腫、 その他炎症性病変が認められたのは12例。
     X-Pや理学所見で明確な異常がみられなくても MRI所見に異常が見られることが多い〕


  6. 「潰瘍性大腸炎に脊椎関節炎を合併した1例」
    西坂文章 ほか
    近畿大学 整形外科

    〔要約:10年前に潰瘍性大腸炎と診断され、腸切除を受け、 数年前から腰背〜殿部痛が出現。
     X-Pで胸腰椎移行部に骨増殖性変化が認められたために 脊椎関節炎の合併と診断した45歳男性の症例報告〕


  7. 「足関節炎が遷延化したクラミジア関連関節炎の1例」
    南家由紀 ほか
    東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センター

    〔要約:足底痛、足背圧痛にて初診、次第に腫脹増強し、 同時に排尿痛、陰部掻痒、膿尿出現、 尿中クラミジアが証明されクラミジア尿道炎と診断され、 その後、肘、顎、足に関節炎が発症した反応性関節炎の症例報告〕


  8. 「肋骨に偽痛風は生じうるか?」
    八田和大
    天理よろづ相談所病院・膠原病センター

    〔要約:発熱と胸部違和感で受診、 白血球増多とCRP増加、X-Pで肋骨に石灰化像、 骨シンチグラフィーで集積を認めたが自然軽快。
     数ヶ月後に再発し、胸椎椎間板に石灰化像、 骨シンチグラフィーで集積を認め、椎間板、 および肋骨に生じた偽痛風 (ピロ燐酸カルシウム酸結晶沈着症) と診断した74歳女性の症例報告〕


  9. 「多発性皮下腫瘤を伴い溶骨性骨変化を呈する1症例」
    村田紀和 ほか
    行岡病院 リウマチ科

    〔要約:10数年来の関節周辺の皮下腫瘤と関節腫脹を繰り返し、 切除術を数回受け、 今回は指伸筋腱断裂を生じた黄色肉芽腫症の58歳男性の症例報告〕


  10. 「候補遺伝子およびゲノムワイドアプローチによる 強直性脊椎炎の疾患感受性遺伝子の検索」
    森 幹士 ほか
    滋賀医科大学 整形外科

    〔要約:ASの遺伝的要因全体に対するHLA-B27の寄与は高々50%と算出され、 これ以外の遺伝子の存在が示唆される。
     それらの遺伝子の候補遺伝子アプローチおよび ゲノムワイドアプローチによる検索。

     候補遺伝子の中の骨形成および異所性石灰化に関与するMSX2 (AS感受性遺伝子)に最も相関を示す遺伝子多型を発見した。〕


  11. 「当院外来ベーチェット病患者のHLA-A/Bローカス」
    小橋川剛 ほか
    東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センター

    〔要約:ベーチェット病患者249例と 骨髄バンク登録データにある健常者のHLAの比較。

     ベーチェット病ではHLA-B27、B51に有意な相関を認め、 6名のB27陽性の男性のうち1名に強直性脊椎炎が合併、 6名全員にぶどう膜炎があり、3名に関節炎が認められた。

     A26と眼病変に関連を認め、 A2/B51の組み合わせが口腔病変と関節炎、 A26/B51の組み合わせが神経病変との関連を認めた〕



【招待講演】

「付着部の形態学的・病理学的特徴」
今井晋二
滋賀医科大学 整形外科

〔抄録:靭帯や腱が骨組織に連結する部位は付着部と総称される。 特に骨との境界に軟骨を介在する線維軟骨性付着部は、 靭帯応力の変化に対応するのにすぐれた構造を持つ。
 また、靭帯付着部、 特に傍脊椎靭帯の付着部に豊富な神経叢が分布する。

 付着部線維軟骨は、本来、無血管組織であるが、 退行性・炎症性・ 修復性変化の過程で骨髄からの細胞動員を受けると考えられる。
 付着部は、一部のリウマチ性疾患では、 炎症の主な標的となることがあるが、 その病態については十分明らかにされていない。

 実験的骨化モデルにおいて、 付着部石灰化軟骨層の軟骨細胞は軟骨下骨の増殖に並行して 脱分化もしくは化生することが認められており、 種々の病理学的意義を有すると考えられる〕



【ランチョンセミナー】

「赤痢菌の腸上皮バリアーへの感染戦略」
笹川千尋
東京大学医科学研究所

〔要約:HLA-B27保有者に多いライター症候群(反応性関節炎) の原因の一つとして考えられる赤痢菌の腸粘膜への感染機序について〕



【シンポジウム】
「脊椎関節炎に対するTNFαブロッカー治療」

  1. 「脊椎関節炎とRAでのTNFα阻害剤の治療効果の違いとHLA-B27の関与」
    井川 宣
    大阪リハビリテーション病院

    〔要約:TNFαブロッカーはRAでは骨変化(増殖・破壊) を止めるがASの骨増殖を阻止できないことがわかってきており、 このTNFαブロッカーによるRAとASの反応の違いは、 ASとHLA-B27との関与に関する手掛かりを与えてくれるかもしれない〕


  2. 「ASの臨床評価法に付いて」
    小林茂人
    順天堂大学付属順天堂越谷病院 内科

    〔要約:ASの臨床評価法の紹介。
    ①患者による総合的(病状)な評価はVAS(Visual Analogue Scale)、 ②活動性の評価はBASDAIスコア、 ③機能評価はBASFIスコア、 ④各種計測上の評価はBASMI、 ⑤qualty of lifeはSF-36、 ⑥X線評価はSTOKE(改訂版) などの紹介と問題点〕


  3. 「脊椎関節炎のMRI評価」
    杉本英治
    自治医科大学医学部 放射線医学教室

    〔要約:MRIは早期の軟骨下炎、 靭帯付着部炎が描出でき、 ASの早期発見や関節リウマチと乾癬性関節炎の鑑別に有用であり、 また抗TNFα剤の治療効果判定にも役立つ〕


  4. 「脊椎関節炎とTNFαブロッカー」
    八田和大
    天理よろづ相談所病院・膠原病センター

    〔要約:脊椎関節炎に対して、 RAには有効なDMARDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)は、 末梢関節炎の一部にのみ有効、 RAでは主役のMTX(リウマトレックス®) は脊椎炎・付着部炎は勿論、 末梢関節炎でさえ有効というエビデンスはない。
     しかし、 生物学的製剤は有効性が立証されつつ本邦での認可が期待される〕


  5. 「強直性脊椎炎に対するインフリキシマブ (レミケード®)の治療成績について」
    多田久里守 ほか
    順天堂大学 膠原病内科

    〔要約: AS 6名に対して抗TNFα剤のインフリキシマブを使用して (前例にMTXを併用)、BASDAI、BASFI、BASMI、ASASスコアで評価。
     有効性は認められたが、投与量が一回3 mg/kgで、 欧米に比べて少なく投与間隔が長いためか、 効果の持続性が悪い傾向がある〕


  6. 「TNFα阻害薬が著効した血清反応陰性脊椎関節症の3例」
    山村昌弘 ほか
    愛知医科大学 リウマチ科

    〔要約:NSAIDs(非ステロイド系抗炎症剤)やMTX (リウマトレックス®) の効果が不十分であった若年のAS 2例と掌蹠膿疱症(PAO) 1例にインフリキシマブ(レミケ-ド®)を授与して、 いずれも有効であった。
     疾患早期に本薬剤の導入が検討されるべきである。 (ただし、関節可動域の改善は軽度の症例もあった)


  7. 「乾癬性関節炎における抗TNFα療法の有用性」
    土橋浩章 ほか
    香川大学医学部内分泌代謝・血液・免疫・呼吸器内科

    〔要約:シクロスポリン(ネオラール® サンディミュン®)に抵抗性の乾癬性関節炎 4例にエタネルセプト(エンプレル®)を使用して、 有意な副作用なく、皮膚症状、 関節症状ともに改善が見られた4症例の報告〕


  8. 「関節症性乾癬(乾癬性関節炎)に対するTNFαブロッカー治療」
    森田明理
    名古屋市立大学大学院医学研究科・加齢環境皮膚科学

    〔要約:乾癬性関節炎に対して用いられているNSAIDs、 シクロスポリン、エトレチナ-ト(チガソン®)、 MTXは関節破壊の進行を抑制する効果はほとんど認められていないが、 本邦でも乾癖に認可されたインフリキシマブ (レミケード®)は、 米国皮膚科学会の乾癖治療ガイドラインにおいて 中等度以上の関節症性乾癬に対して早期からの使用が勧められているとおり、 本邦でも積極的使用が検討されるべきである〕



【イブニングセミナー】

「関節リウマチにおけるIL-6の意義と IL-6阻害治療および脊椎関節炎への可能性の検討」
吉崎和幸
大阪大学先端科学イノベーションセンター

〔要約:急性炎症の際のCRPなどの急性期蛋白の発現増強にIL-6が必須で、 炎症性貧血にも関与していることから、 RAに対する生物学的製剤としてIL-6阻害剤トシリズマブ (アクテムラ®)が認可され使用されつつある。

 RAでは炎症部からTNFα、IL-1、IL-6の産生が認められるが、 ASでは炎症部の病理学的差異があり (RAに比べて滑膜細胞増殖や血管新生に乏しく、 バンヌスすなわち炎症性増殖滑膜が形成がされににくく、 浸潤白血球の種類も違う)、 産生されるサイトカイン (炎症・免疫に関係する特定の細胞に情報伝達する細胞から分泌される蛋白)も、 RAでは抗TNFα、IL-1、 IL-6が多いのに対してASではTNFαはむしろ少なくIL-6の産生が多い。
 従って、ASに対する抗TNFα剤として、IL-6阻害剤に期待が持てる〕



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