アニマルセラピー


M.O.


 「なぜ、そんなに馴れるのですか?」
 「いやぁ、別になんにもないです」
 「…………」
 「もし、あるとすれば、生きもの同士として、遊んでもらっている だけです」
 「…………」
 大好きなるり色のインコとは顔見知りだ。
 体は尾の先までなら70センチはある。
 体は格別に綺麗なのだが、鳴き声が大きく、奇声を発する。
 過密な都市生活では飼えないのだろうか、飼い手が無いのである。
 店先の鳥籠に入れられて、もう何年にもなる。終身刑のようだ。
 その鮮やかなるり色はアイキャッチャーとして、店頭効果に 貢献していることだろう。ペット屋にしたら単なる商品なのだから 馴れるはずはない。
 近づくとうれしそうに反応する。
 ご挨拶なのか、必ずウンコをして見せる。
 そして金網にしがみついて腹を金網に押しつけて見せる。
 鳥籠の上のほうには、「手を出さないで下さい。噛みます」と注意書きがある。
 名前は「青ちゃん」だ。
 名前の由来は羽の色から来ているんだろう。
 遠くから「オハヨ!」という。
 「さよなら」というと「バイバイ」と返事をする。
 体中を掻いたり撫でたりしてやると、うれしすぎて指を噛む。
 愛咬とでもいうようだ。
 インコの口バシはその形からしても、噛む力が強い。
 噛む力の加減がわからないので、二度も血が出るほどに噛まれてしまった。
 「そっと!」を何回も教えた。
 青ちゃんは噛みたいのだければ、我慢をしている。
 人間の限りない横暴にも動物は許してくれているようだ。
 終身刑の青ちゃんを見ると、「ゴメンネ!」と思う。
 餌はヒマワリの種ばかり食べている。
 食べさせられているのかもしれない。
 ペット屋の目を盗んでパン、チーズ、オニギリを差し入れてみた。
 鳥には味覚がないと聞くがどうかな。
 青ちゃんは、それぞれに味わっているようだ。
 パンの固いところと水をつけて食べる。
 パンの中のカットチーズを選んで食べる。
 特におにぎりとおにぎりの中の梅干しが好きなようだ。
 人間の食べ物は青ちゃんの体に悪いといけないので一時だけにした。
 「あくしゅ」(握手)というと人指し指を足で握る。
 尚ちゃんのオリジナル芸である。
 青ちゃんは人間が大嫌いだ。
 特に、子供連れのお母さんが来ると金網ごしに攻撃的になる。
 金網の目から口バシを出して、何か文句を云っている。
 子どももおどかしたり、金網を叩いたり、「バカっ!」と云ったりする。
 お母さん方は、鳥をオモチャだと思っているのか、子どもに注意をしない。
 デリケートな鳥としては、そんなに乱暴な人間を好きにはなれない。
 青ちゃんは歌が好きだ。
 ポッポポーッ、ハトポッポーと唄うと、言葉にならない声でついてくる。
 じゃ、また遊んでね、口バシにキッスをする。
 あるとき、ディープキッスをする。舌を噛き切られるかと思って怖かった。
 青ちゃんの舌は、乾いてザラザラしていた。
 デリケートな鳥が噛んで舌を切るはずもなかった。


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