一般寄稿を読んで

副会長  井上 久


 正確な診断や適切な初期治療・指導をしてくれなかった医師に対する 気持ち、おそらく多くのAS患者が同じものを持っていると思われます。
 「後医は前医よりも名医となる(なり易い)」という言葉があります。 初期にはその疾患の特徴的な病態が揃わないために、大学の教授でも 診断がつかないことがありますが、しばらくしてその徴候がいくつか出た 後なら、新米医師でも容易に難病の診断を下せます。新米医師が一気に 名医になってしまう訳です。
 骨の腫瘍では、骨がかなり溶けてしまわないとレントゲン写真で わかりません。従って、初期には、いくらレントゲンをじっと見つめて もわかりませんが、数か月後には、どんな医師でも、一目で骨腫瘍を 見つけることができます。そうすると患者さんは、初診医の見逃し (→ヤブ医者)と思い込んでしまいます。
 また、前の医者で出した薬が効かないので、他の医者に行って 別の薬をもらったら良く効いたという話もよく聞きますが、その場合、 後の医者の方がどうしても名医に見えてしまうものです。実は後から 診た医者は、前の医者の出した第一選択剤が効かないことを知れば、 今度は毛色の変わった、あるいはより強い薬を使うのですから、 今度の薬がより効く可能性の高いのは当然です。
 こんな些細なことから、世間一般では、医師の評価がなされてしまう のです。つまり、ある一面だけで、名医と藪医がはっきりと分けられて しまうことが多いのです。
 長年、医師という仕事をしていると、ある時は労せずして名医になって しまい、これはうまいことをしたとほくそえむこともありますし、 またある時は一生懸命やったのに苦い思いする、ひどい時には患者さんに 恨まれてしまうといったような、まるで反対の経験をします。

 ASのような難病では、特にこのようなことが起こり易いと言える でしょう。何の病気かわからなかった医師、あるいは誤診した医師を 恨んでみても、ASの痛みが軽くなる訳でもないでしょう。過去を 悔やんでみても、かえって痛みが増すだけではないでしょうか。 ただ、Yさんが出会ったような医師のとった態度は非難されるべきで、 我々患者は、このような医師のありかたについては、今後、団結して 糾弾していくべきでしょう。

 AS研究会ならびにAS友の会が発足した後、医師の間で、確かに ASという病気が知れ渡りつつあると実感しているのは私だけではない と思います。最近は、一般開業医、それに眼科医や耳鼻科医からも 「ASではないか?」と、私の外来、すなわち「AS診」に紹介されて くるケースも増えました。「日本AS友の会」の大きな活動目標である 「ASの啓蒙」という点に関し、ゆっくりではありますが着実に成果が 上がって来ていると思います。
 会員の皆さん、もう一度「日本AS友の会」の規約を読み直して、 我々自身のためにも、そしてまだ診断がつかずに、あるいは運良く診断が ついても適切な治療や指導が受けられないまま人知れず悩んでいる 患者さんのためにも、さらにはこれから生まれてくる子供達のためにも、 互いに密に連絡を取り合い、一致団結して、ASの啓蒙に、互いの励まし と援助に、そして原因究明・根治療法開発への協力に、力を注いで行こう ではありませんか。

 自分自身が患者の立場になって医学界を見るようになってから、医師は、 「医学者」と「手術職人」と「医療者(医者)」の3つのタイプに 分けられるのではないかと思うようになりました。これだけ医学が専門分化 され、一般の人の医療知識が向上し、医療への期待も高まってきた現代社会 において、これらの要素をすべて兼ね備えた神様のような人はまずいない でしょう。
 根治療法がなく、手術が必要となるケースも少ない今のAS患者に とって、最も必要なのは、良い「医療者(医者)」、すなわち「良医」 なのかも知れません。優秀な「医学者」や「手術職人」は、雑誌や書籍の 名医紹介欄によく載りますが、個々の患者からみれば、必ずしも「良医」 に該当しないことも少なくないようです。優秀な「医学者」や 「手術職人」が定年で第一線を退いた後に、やっと「良医」なるという ケースもしばしば目にします。

 一番大切な自分の体に関することなのですから、自分でこれら医師の タイプを見分け、自分の病状や相性にあった医師を捜す努力を日頃から しておくべきです。医師や病院に不満や不信を持ちながらの受療では、 病気に良い訳がありません。
 そのためには、患者さん自身の勉強が、まだまだ足りないように思い ます。それには時間も労力も惜しんではなりません。もしかするとある 程度のお金をかける必要も出てくるでしょう。もちろん、医学には 素人の、あるいは知り合いに医療関係者が誰もいない人にとっては、 そうそう簡単なことではないでしょうが、何回かの試行錯誤も覚悟して、 自分にピタリ合った「良医」、あるいはその「良医」のいる病院を みつけるため、日頃から最大の努力を払うべきです。
 なんと言っても、病気で苦痛を感じるのは患者自身ですし、医師の助け を借りて(利用して)病気を治すのも患者さん自身なのです。そして、 やっとみつけた「良医」には、最新薬による最先端の治療とか、あるいは また手術もしてもらうなどという期待を抱く必要はありません。
 それらの必要性が出てきたか否かだけを判断してもらい(慢性疾患の 患者さんは、自分でもある程度感じるものですが)、そうなったなら、 リウマチ学の専門医に投薬指示を、あるいは手術のうまい外科医に手術を、 その「良医」(主治医・ホ−ムドクタ−ということになりますか)に 依頼または紹介してもらえば良いのです。それらが終われば、また 「良医」のところへ戻れば良いのです。
 「日本AS友の会」は、患者さんが「良医」をみつけるための良き アシスタントになれるよう努力を重ねて行くつもりですので、遠慮なく お使いいただくとともに、また会員の皆さん自身のご協力もお願い したいと思います。

 とにかく心掛けたいのは、このヤッカイなAS君との共存共栄の精神!
 Sさん、Mさん、そして田中会長に井上事務局長のように(いずれも 重症)、明るく、あかるく、アカルク、前向きに。

 手引き書にも 書きましたが、痛みが軽くなったら、ASが治ったら、あれをしよう これをしようではなく、たった今から動き始めるのです。鎮痛剤を 少しぐらい余計に使ってもかまわないから(短期間なら、少しぐらい 余計使ったってそれほど心配要りません。ステロイド剤だって、巷で 言うほど怖がることはありません。医者が言うのですから本当です。 ただし、ちょっとポンコツ医者ですが)。


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