NASS(イギリス)の会報から

バース王立国立病院(RNHRD)からの最近の知見


 私たちが、ここRNHRDにおいて行われた最近の研究について 報告できることは大変喜ばしいことである。これらは、ASに苦しむ 人たちにとって非常に役に立ち、実際的な情報を提供するものである。 併せて、どの位の量の運動が適切であるか、ASの思春期および成人期 にみられる最初の症状は何か、ASの誘因となる環境的可能性について のさらなる調査などついても触れている。私たちは、本研究の結果が 皆さん方にとって刺激的なものであることを願う。


  1. ASの最初の症状
 私たちの2週間のAS教育入院プログラムに参加した患者から 繰り返される言葉が2つある。第一は、診断の遅れ(典型例で約10年) に関連して、「あぁ、もしもっと早く診断されてさえいたなら、何年も 前に何かをすることができただろう」である。第二は、ASが子供たちに 遺伝する可能性があるのではないかという全ての患者が持っている 心配からの「どうしたら子供にASを発症するか否かを知ることが できるだろうか、何を警戒すれば良いのだろうか?」である。 本研究は両方の懸念について述べるものである。

 「小児期にASを発症する人々(思春期発症AS)に認められる 最初の症状は何か?」
 「そしてそれらは成人のASに見られる症状と異なるのか?」
 本研究の目的のために、思春期発症AS(JAS)を16歳以下、 成人発症AS(AAS)を20歳以上と定義した。185人のJASと 230人のAASの患者について、最初の1年間に最も症状が出た部位を 調べた。
 その結果、興味深いことに、JASの発症様式(初期罹患部位)は、 AASで認められたものとは非常に異なるという結果が出た。初発症状 として、膝、足、足関節(足首)、股関節、殿部の症状がJASにおいて より多く見られた。対照的に、AASでは、腰、頚部、肩、前胸壁、 股関節、および殿部であった。
 全員が「典型的」な発症様式に適合する訳ではなかったが、 この情報はできる限り早期に病態を診断しようとするドクターにとって 非常に有益な情報であることは明らかである。また、この情報は、 両親が子供の成長につれて何を警戒すべきか有用な示唆となる。 もしあなたが、どうすれば良いか疑問に思っているならば、あなたの 子供を速やかにリウマチ医にみてもらうようにすることが勧められる。

訳者コメント:16歳以下で初発する若年性ASは、成人発症型と 違って、膝、足関節 などの四肢の関節から初発するケースが多い。 従って、化膿性(細菌性)でもなくリウマチ反応も陰性といった 原因不明の関節炎がある場合にはASを疑うべきである。〕

  1. ASにおけるヘリコバクターピロリ菌の感染
 ASの正確な原因はいまだ不明である。しかしながら、考えられる 原因として最も可能性が高いものは微生物感染であるため、腸管(消化管) 感染症が環境的誘因の可能性として、これまで検討されてきた。
 ヘリコバクターピロリ菌はよくみられる微生物で、通常小児期に感染し、 心疾患と胃腸疾患を発症させることで知られている。

 本研究では、ヘリコバクターピロリ菌がAS発症の誘因であるか否かを 検討するため、AS患者における本細菌の感染率を調査し、それと上部 消化管症状との関連を検証した。62人のAS患者と、ASでないが年齢が 条件に適合した62人の人から血液サンプルを採取し、ヘリコバクター ピロリ菌の有無をテストした。検査所見では、AS患者の44%、ASで ない人々では27%に本菌感染が認められた。AS患者において高率の 傾向が認められはしたが、満足できるほど顕著というほどではなく、 ヘリコバクターピロリ菌がASの環境的誘因として作用する可能性を 確実に立証するための十分な根拠となるような結果は得られなかった。
 さらに、ヘリコバクターピロリ菌が陽性と陰性の人々を比較した場合、 この微生物の存在が上部消化管症状の発現率とは関係しないということ もわかった。

訳者コメント:昨今、胃潰瘍や胃癌の発生率が高いことで注目されて いるヘリコバクターピロリ菌の感染率がAS患者では一般人に比べて 高いことがわかったが、本菌がAS発症の誘因となっていると結論する ほどの根拠にはならなかった。従って、ASに罹からないように、 あるいは悪化させないようにと、むやみに抗生物質を飲むことは、 体内の微生物の生態系を崩し、その結果、いざ感染症になった際の 不利益を生むだけなので慎むべきであると言える〕

  1. ASにおける運動
 全てのAS患者が、脊椎や関節の可動性を維持し、痛みと体の硬直 (骨性に関節が癒合する強直のことではない)を軽減し、姿勢の悪化を 防止し、全身状態と健康を改善するために「運動」の価値(有効)に ついて評価していることは確かなことである。非ステロイド系消炎 鎮痛剤が有効であるにもかかわらず、AS治療の基礎は規則的な 運動療法と言える。それにもかかわらず、この運動療法については、 患者からさまざまな疑問が出される。例えば、どんなタイプの運動が ASにとって最善か、どの位の頻度で行われるべきか、どの位の時間、 どの程度の強さが良いのか、などである。本研究は、これらの複雑な 事柄について十分深く触れる先駆的研究と言える。

 本調査の目的は、患者がどの位の運動を規則的に行うべきかを評価し、 機能と病状に与える影響を見極めることである。私たちは、なぜ ある人たちが規則的に運動をし、他の人たちがしないのかということ にも興味を持った。故に私たちは規則的な運動プログラムへの執着と 関連する因子を見極めることも研究の目的とした。

 最初、4,282人の患者に「過去3週間の間に、スポーツ参加、AS体操、 水治療法などを行ったのは、週に平均何時間であったか?」と尋ね、 0時間、1時間、2〜4時間、5〜9時間、10時間以上といった5つの 回答を用意した。21%の患者が運動を全くしておらず、20%が週に平均 約1時間、35%は2〜4時間、15%が5〜9時間、9%が1週間あたり 10時間以上だった。
 運動の価値を評価するために、私たちは、その後、2〜4時間の運動を 行ったグループと10時間以上運動を行ったグループを、全く運動を 行わなかった人たちと、性別、年齢、発病からの期間などの項目に ついて比較した。2〜4時間の運動を行ったグループは、全く運動を 行わなかった人たちに比べて機能と病状が改善していた。1週間に 10時間以上のグループは、機能はより良かったが、病状には差が なかった。

 何らかの養生法を規則的に行っている人には、リウマチ専門医による 専門的ケア(一般医による診療に対立するものとして)や運動から得る 恩恵を信じる高学歴を持つ人に多かった。このような結果は、社会的 ステータスが(高学歴と関連しているが)、疾病の重傷度の低さと 結びついていることを示唆するこれまでの研究と一致している。 確かに、学歴は個人に自信を与え、医学的治療にもっぱら依存するより、 むしろ運動することによって、自分たちの疾病の管理と治療により 前向きな役割を演じることを促すであろうということは当然であろう。

 運動の効果を正確に解明するためには、持続時間、頻度、運動の タイプと強さを緊密にモニターすることが重要であるということは 疑いない。しかしながら、首尾一貫した軽めの運動プログラムが最良で あるようだ。このことは、AS体操と毎週の水泳やバドミントンなどを 組み合わせ、これを毎日30分行なうことを勧めるRNHRDのAS理学 療法のスペシャリストによって提案されたものを再認識させるものである。

訳者コメント:とにかく、ASの根治療法がない状況下で、もっとも 有効な治療は運動であることは明らか。ただし、たくさんやりさえすれば 良いというものてはなく、週に2〜4時間、すなわち日に30分程度、 適度な運動を毎日規則的に行うことが大切である。このことを理解して 実施しているのは、高学歴で社会的地位の高い人ほど多いらしい。 ただし欧米での話〕

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