カナダの会報から

〔慢性疾患の患者家族への影響〕



問題点

 慢性疾患は、病気にかかっている本人に影響を及ぼすと同時に その家族にも影響を与える。患者の家族は、疼痛や硬直、疲労感 などの関節炎や関節炎関連の症状を経験することはないが、無力感、 混乱、挫折感、苦悩、不安、罪悪感、危惧のような患者本人と同じ 感情は経験する。残念なことに、このような問題に直面している 家族を支援するサービスはほとんどない。

情報収集

 慢性疾患の患者を持つ家族の苦難を理解するために、またこの 家族の支援としてできることが何であるかを知るために家族援助 事業(ファミリーサポートプロジェクト)が進行中である。
 関節炎協会、SLE協会、強皮症協会、強直性脊椎炎協会、 線維筋痛症協会、及び「若い女性の会」会員が協力して、 ローワー・メーンランド地区で関節炎及び関節炎関連の疾患を もつ人々の家族に宛てて最近アンケートを配送した。

調査結果

 この調査の結果、患者の家族が様々な方面の問題に対処しなければ ならないことが判明した。また症状が現れ始めた段階から、最終的に 診断が下された段階、そして疾患がより重度になって行く段階の それぞれで、時とともに問題が変化していくことが解った。

 病気の初期段階では、患者の家族が疾患を理解することもリウマチ 疾患患者の経験することを理解することも難しいようだ。この疾患には、 疾患そのものに対する恐怖と、将来どうなるかという不安が絶えずある。 患者の家族はしばしば家族関係が将来どうなるかを質問し、あるいは 家族が永遠の介護人になってしまうのではないかと心配する。
 病気そのものについてのフラストレーションがあるのに加え、時として、 医療専門家からの支援や理解の不足に対する不満もある。

 一旦診断が下されると、患者の両親や家族は、この病気とともに 生きることを学ぶようになるが、患者がリウマチ疾患によって長く働く ことが困難になったような場合、経済的な問題が生じる可能性もある。 家族は人生の一部と化した予測できない事柄に慣れるようにしなければ ならない。

 人生の途上に襲った病気のために失った物事に対し怒ったり落胆したり している人間を扱うことに、家族として感情的な戦いを強いられる。 性的な関係も変わるであろう。多くの場合、最終的に家族が料理や家事や 使い走りをしなければならなくなる。家族は自分自身の欲求を満たしながら 患者に必要なことを提供していかねばならないので、そのバランスをとる 方法を学ばねばならない。

何が助けとなるのか

 患者の家族には数多くのサービスや情報を伝えた。それらは、多くの 問題に直面している家族や他の人々の助けになったであろう。最も希望が 多かったのは、情報源についての概説を入手したいということと、家族の 視点からリウマチ性疾患の影響を見ることができるような教育的なデータを 入手したいということだった。

 他に希望が多かったのは、疾患情報に関する講習会をもっと増やすこと であった。結局、半数以上の回答者が、コミュニケーションや問題解決と なるような患者への対処法に関する技術の習得をテーマとした研修会を 開催してほしいと感じていた。

将来の計画

 家族支援チームは、現在我々の提案に対する反応を見ているところで ある。近い将来、これらの問題を扱う情報に加え家族が直面している 共通の問題を概説したパンフレットを作成する予定である。慢性疾患と ともに生きるために必要ないくつかの技術を家族へ提供する研修会を 1997年の春に予定している。これに関する詳細に注意していただきたい。

 関心のある方は調査結果の概要が入手できます。家族の支援をテーマ とした質問やご意見をお寄せください。


2. 食物と関節炎(リウマチ専門医へのインタビュー)

  1. 最近、関節炎と食物の関係が大きな関心を呼んでいますが、 これは増加傾向にあるとお考えですか。また、その理由もお聞かせ ください。

  1. 確かに、食物と関節炎のあいだに何らかの関係がありそうだと いうことで、関心が持たれていますね。私たちがあまり知らない とても多くの形の関節炎があるので、この関心はずいぶん前から あったように思います。

     私たちの食べる物と病気とが関係している可能性があるということ で関心はいつでもあるでしょうね。これは病気の原因や複雑な問題などに 対してわかりやすい答えを望むということにも関連してますし、私たちの 知識が乏しいということも反映していると思います。

     残念ながら、何の立証もされていない多くの治療法が、「関節炎の原因は 食事にある」と確信した善意の人々(善意でない人もいますが)の信念から 起こりました。これらの治療法はマスコミなどでひどく助長され、不幸な ことに、多くの患者さん達に「食事療法が良い」との誤った希望を与えて しまったのです。

     しかしながら一方、これは言っておかなければならないのですが、食事を 特別のものに変えることによって炎症を緩和することが可能かもしれないと いうことが、ある実験状況下で最近示されました。この研究は刺激的で、 確かに今後、この分野で多くの研究が必要だということを示唆しています。

  1. 関節炎のような慢性病に対する食物の影響を研究するのは難しい ですか。

  1. そうです。食事を操作してその影響を調べる研究は、モニターするのが 難しいのです。その上、疾患活動に対して食事による本当の効果が実際に 起きているかどうかを決定するには長い期間がかかります。この種の性質の 研究は費用がかかる上、研究計画を立てるのが難しいのです。それにも かかわらず、これらの問題を乗り越え、現在、動物や人で慢性炎症性疾患 への食事の効果について研究にかなりの努力が向けられています。

  1. 関節炎の原因究明に関しては、体の免疫系の役割がよく解って いません。食物は免疫系に何か影響しますか。

  1. 免疫機能が食事の影響を受けているという証拠があります。栄養不良の 人には免疫系が適切に機能しないことがわかっています。重度の栄養不良 では、抗体レベルが低下し、様々な抗原に対する反応が減少します。 この状態では、おそらく感染の危険が増加します。

     食事の成分(例えばビタミンやミネラル)が免疫系に特定の効果があるか どうかを決定するのは、さらに困難です。免疫系に特定の効果があることは 事実と考えられますが、この領域の研究は遅れています。それでも、亜鉛など のいくつかの成分は人の免疫反応に影響を及ぼしているという報告があります。
     それ以外の食物成分で、免疫機能のある特定の性状を変化させるものが 確認されるかどうかは疑わしいと思いますが、この分野で、今後なお多くの 研究が必要です。

  1. 食物は体内の炎症に影響を与えますか。もし影響を与えるとするなら、 関節炎と何らかの関連があるのでしょうか。

  1. この問題は、現在では、関節炎への新しい治療法を切り開く可能性を 持った、かなり関心の高い研究分野の一つであります。これは食物中脂肪の 性質の化学的変化が体内の炎症反応の性状を変えるような事実と関係して きます。

     例えば、魚の油を多く含んだ食事は細胞膜の組成や炎症刺激の過程で 放出されるある種の生物活性物質(例えばプロスタグランジン)に影響する と考えられます。これらの物質は炎症反応の大きさを決定するのに重要な 役割を果たします。炎症に作用する食事のもつ潜在的な能力はリウマチ疾患 などの治療と密接な関係にあります。

     例えば、自己免疫疾患を発生し易い状態にさせたマウスを使った研究が あるのですが、そのマウスにある特定の魚の油を多く含んだ食事を与えると、 寿命の延長が起こり、その上自己免疫疾患の発現を抑制することがわかり ました。慢性関節リウマチのようなリウマチ性疾患には、そのような食事の 効果は現在高く評価されています。

  1. 関節炎のための特別食に関していろいろ聞いておりますが、食物や 食品添加物あるいは栄養食品などが関節炎の原因となったり、逆に治療 効果があったりするのでしょうか。

  1. これは現在もっとも一般に知られている仮説です。ある特定の食べ物と ある種の関節炎の発現との間には何か関係がありそうだ、と考えるのは当然 のことです。しかし、仮説と事実は異なります。仮説は事実かもしれないと いう可能性を述べているにすぎません。

     しかし、この仮説はまるで事実であるかのように語られています。でも、 食事が関節炎の原因(ないし治療効果)であるという明確な証拠は今の ところないのです。ただ、ある特定の食べ物と、ある人々のアレルギーの 発現とが関連していることはわかっています。つまり、ある特定の食物を 摂取すると蕁麻疹や関節痛などが引き起こされます。食物アレルギーが あると思っている人々はとても多いのですが、その人々のアレルギーの 原因を特定するのは非常に困難です。

     ここに、この分野の問題点があります。すなわち、食事に関連する アレルギーと思われているものの本当の誘因が何であるかを確定する ことは困難であるということです。しかし、食物によってアレルギー 反応が導き出されるのだから、食物中のある物質に対する反応として 関節炎が発現するに違いない、というのはもっともらしく聞こえます。

     残念ながら、これが原因だという具体的な証拠は実際ありません。 自分の食べたある特定の食品が関節炎を悪化させていると感じている 人がいる一方で、現在までの研究では食事と関節炎の発現との間に 関連性があるとは立証されていません。

  1. 関節炎の症状を緩和したり、抑制したりできるような特別食は ありますか。

  1. 食べ物の量を思い切って少なくした場合、関節炎の症状を緩和 したり軽減したりするという事実があります。しかし、慢性病に 対する長期間の取り組みとして絶食が適切でないことは明らかです。 私たちには、この研究結果で示されているものが実際何であるのか わかりません。ただし、このことが関節炎の発現を制御しているもの を究極的に理解する重要な手がかりとなり得るかもしれないという ことは言えます。

     痛風のような種類の関節炎では、特別食(例えば、低プリン食) が他の治療法の補助としてある程度役立つかもしれません。前に 述べたように、リウマチ性疾患の治療への取り組みとして脂肪の 含有量を変更した食事が現在研究されているところです。

  1. 関節炎の人にとってバランスの取れた食事は重要ですか。

  1. 関節炎の原因に食事が直接関わっているという証拠は現在の ところありませんが、慢性関節リウマチのような慢性の炎症性疾患 の患者がバランスの取れた食事を目指すのは理にかなっていると、 ほとんどの医者は信じています。これらの疾患が身体によって 影響されるのは明らかなのですから、不幸にも病気が発現したり、 より発症させ易い原因となる栄養不良の食事にならないように 気をつけることは賢明です。

     ここUAB(バーミンガム・アラバマ大学)でなされている研究 では、栄養不良の徴候のある慢性関節リウマチの患者は、そのような 徴候を示さなかった患者に比べ症状が重かったという結果がでています。 この研究だけでは、これらの患者の栄養不良の徴候が不十分な食事に よるものか、病気の結果として起こっているのか実際には解りません。 はっきりしているのは、この分野での調査が今後も必要であるという ことです。

  1. 食物と関節炎に関する「新しい情報(知見)」の安全性が確認され、 しかも科学的に立証されたとき、関節炎の人は、どのようにしてその 情報を入手したらよいのでしょうか。

  1. 医療の専門家が一般の人々に情報を伝えようとするときに、関節炎の 他の医学療法とは別に食物に関してだけ独自のものがあるとは思えません。 関節炎に対する新しい治療法が公表されたり、公に入手できるようになる 以前に、適切な臨床研究で評価され、安全性と有効性がきちんと証明される ことが非常に大切です。これには時間がかかります。

     適切な研究がなされ食事の効果が確立された時には、その情報は医学論文 や専門家会議などで他の医師に即座に伝わります。進展状況を知ることは 一般の方々には大切なことですが、これは普通マスコミや医者を通して なされます。誤った希望を与えてしまうことを避けるために、厳しい審査を 経る前に情報を広めるということに関して医学会は保守的な傾向にあります。

     Arthritis Foundation(関節炎財団)のような組織が、様々な種類の 関節炎の治療に関する新しい「発見」を批判的に評価し、人々にこの分野の 進展状況を絶えず知らせるという大切なサービスを提供しています。


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