薬の飲み方


順天堂大学医学部付属順天堂医院
薬剤部  吉野清高
下嶋和代
横山晶子


医療の世界の変化

 経済の発展と医学・医療の進歩は日本を世界一の長寿国に導きました。 現在、日本の人口の5人に1人が65歳以上の高齢者といわれています。 このような世界の出現は医療の世界を大きく変化させることになりました。 いわゆる高齢化社会に対応する医療、慢性疾患を対象とした医療へと 急速に変化させることになりました。

 高齢の方々はどなたもなにがしかの病気をもっていると言えるでしょう。 そして病気と付き合いながら愉快で納得のいく生涯を送りたいと願って いるのです。この愉快で納得のいく生涯を送るために、生涯、薬とつきあう ことになります。

 急性疾患を対象とした医療の場合、治療期間も短く、従って、薬を飲む 期間も短かくて済みますので、肝臓とか腎臓への影響など、薬の副作用が 現れる前に薬を飲み終えるため、副作用にそれほど神経をつかわなくて 良かったのですが、慢性疾患の場合は、生涯、薬を飲み続けるわけです から、医療は患者さんの薬による被害を未然に防ぐことに全力をかたむける 必要が生まれてきました。


最近の薬の開発の傾向

 一昔前までは、飲み薬、貼り薬、注射薬が中心でした。今は口の粘膜から、 鼻の粘膜から、皮膚から、虹門からと身体のあらゆる場所から薬を入れる 研究が盛んにおこなわれています。そしてニトログリセリンなどの皮膚から 吸収させる薬とか、痛み止めの坐剤とか色々の薬が登場してきました。
 また、1日3回飲むのは患者さんが面倒なので、1日1回とか2回で 済む薬が沢山登場してきました。注射薬についても、1回注射すると 1ヶ月有効な薬も登場してきました。このような薬は、薬を加工する 技術が進歩したことによって生まれ出たものですが、反面、使い方が 繁雑になり、誤った使い方で、むしろ有害な作用を引き起こすことが 危慎されるようになりました。

 一方、身体の全機能を化学反応としてとらえる学問、いわゆる 分子生物学とか分子薬理学という分野の学問がすばらしい発展をとげ、 その結果、身体のなかでの化学反応の仕組みや新しい生理活性物質が 次々と発見され、それがすばらしい新薬を登場させたり、また、 遺伝子組み替え技術の発展は、発見された生理活性物質を大量に生産する ことに成功し、それを薬として医療の場に提供することになりました。

 このような新薬は新しい治療法を生み出すことに成功しましたが、 反面、いずれも切れ味が鋭く、誤った使い方はむしろ病気を悪化させる ことがあることから、専門家の管理のもとに使用する必要が生まれて きました。


薬による被害を未然にふせぐには

 生涯、薬を飲み続ける患者さんの薬による被害を未然に防いだり、 切れ味が鋭く、使い方の難しい新薬を間違いなく使っていただくために は、どのような方法があるのでしょうか。

 入院中の患者さんは医師や看護婦や薬剤師により、薬の効果・使い方 など十分に説明してもらうことができます。また、副作用など薬による 被害が発生しないように、十分に管理されています。従って、安心して 入院生活をおくることができます。

 一方、外来患者さんや退院後の患者さんは、入院患者さんのように 守ってくれる専門家はいません。ご自分で自身を守るしかないのです。 しかし、専門的な知識を持たない患者さんに、ご自身を守ってください といっでも無理なはなしです。

 米国でもこのようなことが問題となりました。そして、その解決策 として、患者さん自身にもご自分の健康を守る責任があることを自覚して いただき、積極的に医療に参加していただく必要があり、その手段として、 ご自分に処方された薬について十分に納得のいくまで専門家に質問を しようではないか、ということになりました。いわゆる「ゲット・ジ・ アンサーズ」のキャンペーンです。

 医療制度の違う日本であっても、この問題については米国と同じです。 ご自分に処方された薬について専門家から一方的に聞くのではなく、 患者さん側から副作用の最初の症状はどんなかとか、飲み忘れたときは どうすれば良いのか、1日2回しか食事をしないため1日3回の服薬は 生活リズムに合わないのでどうしたら良いか……など、いろいろな問題 につき積極的に聞いて、ご自分の使っている薬に関して十分な知識を 蓄えておくことが求められる訳です。

 このようなことは、患者さんが医療に積極的に参加することであり、 また、安心して薬を使い、愉快で納得の行く毎日を過ごすことが可能 となるのです。

 そこで、今回は、「薬との付き合い方・扱い方」についての基本的な 事をお話しすることに致します。


1.薬のかたちと特性

・飲み薬
 現在、市販されている代表的なものにカプセル剤、錠剤、顆粒剤が あります。
 これらは、いずれも飲み易くするために工夫されたものですが、 なかには、「にがみ」や「しびれ感」を消すために工夫されたもの、 また胃で溶けずに腸に届いてから溶けるように工夫されたもの、長時間に わたって薬が少しづつ溶け出すように工夫されたもの……など、必ずしも 飲み易さだけを目的としたものだけではありません。従って、 かみ砕いたりせずに飲むことをお勧めします。

・坐剤
 初期の坐剤は痔の薬として開発されたものですが、最近は飲み薬と 同じ目的、すなわち全身作用を期待した坐剤が主流を占めるようになり ました。
 坐剤の利点は、飲み薬のように薬による胃の刺激を避けることができる こと、また、飲み薬より血中への移行がおだやかなことなどで、 このような特性が副作用の軽減に役立つと言えるでしょう。


2.薬の飲み方

・薬を飲む時間
 わが国では、昔から食前、食後、食間、という表現で薬を飲む時間を 決めていました。本来、薬は一定の血中濃度を維持することで効果が 得られるわけですから、食事には関係ないのです。1日3回飲む薬なら、 8時間毎に飲むべきでしょう。
 しかし、食事を中心に考えることで薬の副作用を軽減させたり、薬の 飲み忘れを防ぐために有効な手段であることから、食後としている場合が 多いのです。しかし、中には食事の後で飲んだ方が吸収がいいとか、 食前に飲んだ方が吸収がいいとかという薬があることも事実です。
 また、糖尿病のように、飲む時間を正確に守らないと、大きな事故に 発展する場合もありますので、指示に従った飲み方を守ることが一番 安全であり、その方がより有効に働くと言えるでしょう。

 一般に食前は30分前であり、食後は30分後と言われています。これは 薬の法律であり、特殊な錠剤を除き、錠剤は30分以内に溶けること、 カプセルは20分以内に溶けることから、一応の目やすとして食前・ 食後30分としているわけです。

 しかし、今は技術の進歩により、もっと早く溶けるように加工して ありますので、日常生活では、それほど神経質になる必要はありません。 食前は食事の前に飲むことであり、食後は食後のお茶で、という程度の 理解で十分でしょう。


・薬の安全な飲み方
 薬は水で飲むのが一番効果的です。最近、ミネラルウオーターで薬を 飲むといけないのではないか、との問い合わせもあります。
 これはミネラルウオーターに含まれる色々なミネラルが薬の吸収に 影響するとの論理ですが、わが国で販売されているミネラルウォーター には薬の吸収に影響するほどの高濃度のミネラルを含んでいるものは ありません。

 ところで、錠剤とカプセル剤はどちらが安全な形でしょうか。錠剤も カプセル剤も飲み易さでは大きな違いはないのですが、安全面では 大きな違いがあります。
 錠剤の表面の加工はそれほど水になじみ易い物質を使っていないので、 偶然に飲み込んでも食道に付着するようなことはありませんが、 カプセルの主成分はゼラチンであるため、吸水性がきわめて強く、 偶然に飲み込んだ場合、食道壁の水分を急速に吸収し、その場に付着して しまいます。その付着力は強く、あとで水を飲む程度では取れません。 必ず少し多めの水で飲むのが安全です。

・薬の飲みあわせ
 生体にとって薬は異物と認識されるため、腸管から吸収されると すぐに排泄が始まります。大部分の薬は腎臓から排泄されますが、 その場合、肝臓の酵素によって水に溶け易い姿に変えられてしまいます (代謝といいます)。

 さて、肝臓の酵素の量にも限界があるため、いくつかの薬を飲んで 酵素を使い果たすと、当然、薬の代謝の速度が遅れ、どんどんと、 血中の薬の量が多くなります。結果的には効果が強く現われ過ぎる 現象を生み出します。いわゆる副作用の出現です。
 幸い、酵素にもいくつかの種類があり、大部分の薬は別々の酵素を 使うため、ほとんど心配しなくても良いのですが、偶然、同じ酵素を 使う薬を2種類飲むと酵素不足に陥る場合があります。これを薬の 飲み合わせといっています。
 医師が処方する場合、十分に考えて処方しますのでほとんど心配 いりません。しかし、他の病院でもらった薬を重ねて飲むとか、 町の薬局で買った薬と一緒に飲むような場合には、医師や薬剤師に 相談してから飲むのが安全です。

・薬の飲み忘れ
 薬の飲み忘れに気が付いたら出来るだけ早く飲みましょう。 次回の内服時間までの間隔がない場合は、1回内服するのをやめましょう。 次回の内服時間まで最低4時間は開けて下さい。1日分を1度に内服する のは絶対にしてはいけません。

・高齢者の場合の注意点
 高齢者は、個人差もありますが、身体の働き特に内蔵の働きが、 成人に比べて一般的に低下しています。また、慢性疾患にかかって いる場合も多く、長期にわたり薬を服用しなければなりません。
 そのため医師より処方される薬の種類も多くなり、内服方法も複雑に なる傾向があります。そこで薬を飲む時、次のことに注意して下さい。
1)慢性疾患の人が風邪などにより、かかりつけ以外の医師、または街の 薬局から薬をもらった時、自分勝手な判断でいつも服用している薬を やめたりしますと、症状を悪化させることがあります。従って、必ず かかりつけの医師又は薬剤師に相談して下さい。

2)薬の服用方法が複雑な場合が多いので、薬袋および内袋の指示をよく 読んで、飲み忘れたり間違って飲んだりしないように注意しましょう。

3)薬が飲みにくい場合は、医師に相談して散剤やシロップ剤等に変えて もらうのも良いでしょう。

4)意識障害を伴う高齢者については、特に飲み忘れや飲み過ぎのない よう御家族の協力が必要です。

・薬の保存についての注意点
 薬はいろいろな病気の予防、治療、診断の目的に直接使用されますので、 その品質は最優先で保持されなければなりません。

 有効期間の記載は、保険衛生上特別な注意を要する医薬品として 薬事法により義務づけられた医薬品のみ行われています。
 例えば抗生物質や生物学的製剤(ワクチン)などに記載されています。 市販の医薬品には、使用期限が記載されていますから、薬品を購入し 服用する際には“使用期限”に注意して下さい。
 病院で処方される薬は、有効期間、使用期限を厳重にチェックして いるため安心して服用していただけるよう心がけています。“有効期間” や“使用期限”の記載は、適切な保存条件で保存された場合に適合する ものです。薬を受け取ったら、必ずその薬に適した保存条件(光、温度、 湿度)で保存し薬袋に書かれている期間中に服用して下さい。

・副作用を防ぐには
 薬は、病気の治療に役立つ働きとは別に、身体にとって好ましくない 働きかけをすることもあります。そこで診察を受ける際には、次のことを 医師に伝えて下さい。
1)今まで薬を飲んで、副作用が起きたことがある。
2)現在、他に薬を飲んでいる。
3)肝臓や腎臓の病気をしたことがある。
 しかし、それでも薬を飲んで体の調子が悪くなった時は、たとえ症状が 軽くても医師に相談するようにして下さい。

 副作用と思われる症状には、発疹、発熱、吐き気、下痢、めまい、 痙攣等があります。このような症状が現れた時は、早めに医師や薬剤師 に相談しましょう。


3.妊娠中又は妊娠の可能性のある場合の薬の飲み方

 母体に与えた薬が、胎児に及ぼす影響は、母体の体質、投与時の胎齢、 胎児の遺伝子型胎盤通過性、投与法などに影響されて一定ではありません。
 妊娠時、体内では複雑な変化が起こっているので、母体は機能低下を きたし易く、薬の副作用も妊娠という特殊な状況のため、より強く発現する ことがあります。

 このように、薬は直接あるいは二次的に胎児に影響するものですから、 充分な注意が必要です。特に妊娠初期〜3、4ヶ月の間は、薬の服用、 使用に気をつけなければならない時期です。
 医師は、細心の注意を払って、安全かつ有効と認められる薬を処方 しますから安心して服用、使用することが出来ます。自分の判断で薬を 買って飲むようなことは避けて下さい。


・男性の場合
 男性の精巣で作られた精子が、受精に関わるまでには約74日 (±4〜5日)を要します。従って、受精の数日前もしくは直前に 服用した薬の影響を心配する必要はありません。
 また、仮に、受精70日前に風邪薬を服用していたとしても、 風邪薬の成分で男性の服用による胎児への有害性が指摘されて いるものはありません。

 男性が服用して胎児に異常を起こすことが報告されている薬には、 抗癌剤、コルヒチン(痛風発作予防薬)、チガソン(皮層病の乾癖や 角化症用の薬)などがありますが、継続して服用している場合は、 一度医師に相談して下さい。

・妊娠中の場合
 妊婦に解熱、鎮痛、消炎剤を投与する機会は比較的多く、風邪などでの 頭痛、咽頭痛、関節痛、腰痛、神経痛、腎孟炎などがあります。
 一般に妊婦への薬剤投与で問題となるのは、妊娠初期の器官形成期での 催奇形性の心配があげられます。さらにそれ以降でも、胎児への影響に は十分な配慮が必要です。

 妊婦に解熱、鎮痛、消炎剤を投与する場合、どの薬を第一選択とする 基準はなかなか難しいのですが、動物実験で催奇形性の問題がなく、 ヒトで胎児催奇形症例のないものは第一選択、動物実験で催奇形性の 問題はないが軽度の胎児障害や異常が認められ、一方、ヒトでは 催奇形症例の報告がないものを第二選択とするのが妥当と思われます。

1)ピリン系解熱鎮痛剤
 風邪薬として、サリドン、アミピローN、セデスGなど配合薬剤が 一般にはよく処方されますが、妊婦では治療上の有益性が危険性を 上回ると判断される場合に限った方が安全です。

2)非ピリン系解熱鎮痛剤
 フェナセチンに代表されるアニリン系薬剤が中心となり、中でも アセトアミノフェンは、比較的安全性の高い薬剤であり、妊婦への 第一選択剤としてよい薬です。
 しかしPL顆粒やペレックス顆粒はアセトアミノフェンが含まれ ますが、その他サリチルサンアミド、無水カフェイン、抗ヒスタミン剤 などが含まれるので、妊婦の場合第二選択とした方が良いと考えられます。

3)非ステロイド性抗炎症薬(いわゆる消炎鎮痛剤)
 非ステロイド性抗炎症薬は、いずれも妊婦に対し使用する事は避けた 方が無難であり、特に妊娠末期に使用すると胎児の動脈管早期閉鎖、 羊水過小症、分娩時出血増などの問題が生じる事があります。
 妊婦に使用するときは、酸性薬剤より塩基性薬剤(ソランタール、 ノンフラミン、メブロン、ペントイルなど)の方が、抗炎症作用は弱いが 副作用が少ないため比較的安全に使用出来ます。

4)アスピリン
 アスピリンは催奇形性の有無についてはあまり報告はありませんが、 口唇裂、口蓋裂の発生頻度が有意に高まるとの報告もあります。
 アスピリンには、抗血小板作用があるので妊娠末期の使用は、 分娩遅延、分娩中の出血量増加、死産などを誘発させる恐れがあり 注意が必要です。
 一方、妊娠高血圧の予防や習慣性流産、特にSLE合併妊婦に アスピリンの低用量投与で生児獲得率が増加する効果が認められており、 現在のところ長期低用量アスピリン療法での催奇形性の危険は なさそうです。

 以上より妊婦に対して第一選択剤となるのは、非ピリン系の アセトアミノフェン、非ステロイド性消炎鎮痛剤では大部分を占める 酸性薬剤より塩基性薬剤をあげることが出来ます。但しアスピリンの ような特殊な使い方をする場合もあります。

・授乳期の場台
 母乳中の薬剤の通過性は、胎盤とほぼ同じと考えられます。 特に生後一週間以内の新生児は、薬物を代謝する能力が不十分であり 脳、血管関門が完成していません。また、母乳中の濃度が低くても 哺乳量が多いため注意する必要があります。
 しかし子宮内とは異なり、新生児への移行は、新生児の消化管を 介してであるため、薬剤別に検討する必要があります。妊娠中と決定的に 異なるのは、新生児に不都合な薬剤を投与する場合は、授乳を止めれば 良いという点です。


4.非ステロイド性抗炎症薬(いわゆる消炎鎮痛剤以下、NSAID)

 皆さんの多くの方がNSAIDをお飲みになっていると思います。 この薬の作用と効き方、また副作用や飲み合わせについてお話します。


(1) 薬の作用と効き方
 NSAIDは、解熱、鎮痛、抗炎症作用をほぼ共通に持つ一群の 薬物です。
 これらは発熱や頭痛、歯痛、手術後の疼痛などの急性炎症の 治療薬として、また関節リウマチなどの慢性炎症性疾患の治療薬 として広く用いられています。

 この薬の多くはシクロオキシゲナーゼという酵素の活性を特異的に 阻害し、プロスタグランジン(以下PG)という物質が作られるのを 抑えることよって抗炎症作用や鎮痛作用を現わします。
 このPGは、体の中で平滑筋を収縮させたり、血管を拡張させたり する働きをするのと同時に炎症に大きく関与しています。
 PGは、それ自身は痛みを起こす作用をほとんど持ちませんが、 局所での血流量を増加させることによって強い発痛物質である ブラジキニンの作用を著明に増強します。痛みは痛覚の受容器が 発痛物質の刺激を受けることによって生じます。

 非ステロイド性抗炎症薬はこのようにPGの生合成を阻害することに よって、抗炎症作用や鎮痛作用を示します。またこの他にも解熱作用や 抗血栓作用を持っています。

(2) 副作用とその対策
 NSAIDの共通した副作用として胃腸障害、腎障害、肝障害、 薬物アレルギーがあります。
 特に高齢者、腎や肝に障害のある患者では薬の代謝、排泄が遅く 蓄積され易いため副作用が起こり易くなります。
 他に潰瘍の経験者、2種類以上の非ステロイド性抗炎症薬服用者、 副腎皮質ホルモン服用者などで危険性が高くなります。

 副作用の中で最も多いものは胃腸障害であり、これは、胃の粘膜への 直接作用と胃粘膜内のプロスタグランジン低下作用により起こります。
 症状としては胃・腹痛、胃腹部膨満感、胃重圧感、胸焼け、食欲不振、 胃部不快感、悪心・嘔吐、ロ内炎、下痢、便秘、黒色便などで、重篤な 場合には胃・十二指腸の出血、穿孔を起こします。

 NSAIDによる消化管潰瘍の予防としては、胃粘膜への直接刺激を 避けるために食直後に服用したり刺激を減らすように開発した薬を 用いたりします。
 また、胃酸の出過ぎを抑えるH2ブロッカー (タガメット®、ザンタック®、 ガスター®など)やプロトンポンプ阻害薬 (オメプラール®、タケプロン®、 パリエット®など)、粘膜保護剤 (セルベックス®、ムコスタ®、 ソロン®、マーズレン®、 ウルグート®、アルサルミン®、 ノイエル®、イサロン®、 ケルナック®、アプレース®など)などの 胃薬と一緒に服用します。
 特に粘膜のPG低下を防ぐ薬、すなわちプロスタグランジン製剤 (カムリード®、アロカ®、 サイトテック®など)が最も有効とされています。

 過敏症やアレルギーも服用開始後3週間〜3ヶ月位の間におこることが 多いとされています。皮疹、毒麻疹、丘疹、発赤、紅斑、掻痒感、発熱、 浮腫、脱毛、口腔粘膜びらんといった症状の他に、皮膚粘膜眼症候群、 中毒性皮膚壊死症など重篤な場合もあります。
 対策としては投与中止、あるいは抗ヒスタミン剤、副腎皮質ホルモン剤 などの投与が有効です。

 NSAIDによる肝障害の発現頻度は比較的少ないですが、障害の指標 である血中のGOT、GPT、AIPの上昇などがみられることが 服用開始2週間〜3ヶ月位に出る場合が多いと言われています。対策と しては薬剤の中止、副腎皮質ホルモン剤、肝庇護剤などの投与があります。

 NSAIDのプロスタグランジン生合成阻害の作用のため腎障害 (腎不全、ナトリウム貯留、高カリウム血症など)が起こることが あります。
 腎障害者では、投与開始あるいは増量直後に体重増加、血清クレアチニン 及びBUN上昇などの障害、浮腫、蛋白尿などがみられます。腎機能が 低下している場合には、障害の少ない薬の選択 (クリノリル®、ハイペン®など) や利尿剤で症状を除くことができます。

 副作用の早期発見のためには定期的に尿検査や血液生化学検査が必要です。 その他にも感覚器障害(耳鳴、聴力低下、角膜混濁、網膜障害、結膜炎など)、 眠気、頭痛、めまい、抑うつ、不眠、興奮などの精神・神経障害が見られる ことがありますが、薬の投与中止や減量あるいは薬を変更することにより 対処できます。

 またプロスタグランジン低下に起因する血管拡張阻害が狭心症や 心筋梗塞などの原因になることがあり、血圧測定も必要です。

 一般的には、非ステロイド性抗炎薬の中でも坐薬の方が経口薬に比べ 胃腸粘膜への直接刺激が少ないので比較的副作用が出にくいのですが、 吸収率はほとんど同じであり注意が必要なことには変わりありません。

(3) 相互作用(飲み合わせ)
 NSAIDを長期間使用する場合や他にも病気を持っている場合には 何種類かの薬を併用することも多いため薬の飲み合わせに注意する必要が あります。

 NSAIDとの併用の際に特に注意が必要な薬をあげてみます。

・抗血液凝固剤(パナルジン®、 ワーファリン®など)
NSAIDが抗凝血作用を増強し、出血傾向を示します。
・血圧降下剤
NSAIDがβ−ブロッカー(テノーミン®、 インデラル®など)や ACE阻害剤(カプトリル®、 レニベース®など)とよばれる血圧降下剤の 降圧作用を減弱することがあります。
・利尿剤
NSAIDがループ系(ラシックス®など)や チアジド系(オルモナール®、 アレステン®など)の降圧利尿作用を減弱することが あります。またトリアムテレン(トリテレン®)との 併用により急性の腎毒性が起こることがあります。
・血糖降下剤(オイグルコン®、 グリミクロン®など)
NSAIDの中のサリチル酸系薬剤が血糖降下作用を増強し、 低血糖症状を起こすことがあります。
・尿酸排泄剤
プロベネシド(ユリノーム®、 ベネシッド®など)がNSAIDの作用を 増強し、副作用が出ることがあります。
・メトトレキサート
NSAIDがメトトレキサート(リウマトレックス®など) の作用を増強し、中毒症状がでることがあります。
・炭酸リチウム(リーマス®
NSAIDが炭酸リチウムの作用を増強し、中毒症状が出ることがあります。
・ニューキノロン系抗菌剤(タリビッド®、 フルマーク®、クラビット®、 オゼックス®、シプロキサン®、 ロメバクト®、パナシッド®、 ドルコール®、バクシダール®など)
併用により、けいれんが起きることがあります。けいれんの既往歴や 腎機能低下のあるものや高齢者には特に注意が必要です。

 その他にも作用に影響が出たり、副作用が現れ易くなったりする 薬の飲み合わせがあります。

 NSAIDは多くの疾患に対して幅広く使われる薬剤であり、 飲み合わせや重篤な副作用を防ぐためにも、必ず他科、他病院に 受診する時には現在使用中の薬について申告するようにして下さい。

(4) COX−2選択的阻害薬について
 NSAIDは、抗炎症、鎮痛、解熱作用のほか血小板機能抑制作用を 有する一連の薬剤であり、プロスタグランジン(以下PG)の産生を 抑制することにより作用を発現します。その作用機序は シクロオキシゲナーゼ(COX)活性阻害ですが、最近COX−1と COX−2とよばれるサブタイプがあることがわかってきました。

 COX−1は生理的に存在する構成酵素で、COX−2は炎症ないし 組織障害に関与する誘導酵素です。

 NSAIDの中にはCOX−1に比較的特異性の高いもの、逆に COX−2に特異性の高いものがあります。

 NSAIDによる胃潰瘍を防ぐために腸溶製剤、マイクロカプセル製剤、 緩衝剤の添加、プロドラッグなどが開発されましたが、いずれも胃粘膜の 刺激を避けるためであり、胃粘膜におけるPG生成抑制を阻害するには 至りませんでした。
 正常胃粘膜ではCOX−1の発現を認めるだけなのでNSAIDと してはCOX−2に特異性の高い薬剤は胃に対する副作用が少ないものと 考えられます。
 現在市販されているNSAIDの中では、エトドラク (ハイペン®、オステラック®)と ナプメトン(レリフェン®)がCOX−2選択性が 高いとされています。イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、 ロキソプロフェンが中間的・スリンダク、インドメタシン、 オキサプロジンはCOX−1選択性が強い薬物です。

 以上のようにCOX−2選択的阻害薬は従来のNSAIDに比べ副作用の 軽減が期待できますが、抗炎症、鎮痛に対する効果の問題もあります。 今後の開発に期待していきたい薬剤です。

 その他にも作用に影響がでたり、副作用が現れ易くなったりする薬の 飲み合わせがあります。NSAIDは多くの疾患に対して幅広く使われる 薬剤であり、飲み合わせや重篤な副作用を防ぐためにも、必ず他科、 他病院に受診するときには現在使用中の薬について申告するようにして 下さい。


おわりに

 最近、薬の副作用についての記事がマスコミを賑わしていますが、 センセーショナルになりがちな報道に振り回されて過大な不安を抱き、 勝手に服用を中止したりすることは避けるべきです。
 ただし、自分に合った薬を必要最低限使用するのが原則ですので、 逐次、医師や薬剤師に相談し、その指示を守って、自分自身も副作用や 効果に十分注意を払いつつ正しく使用することが大切です。


戻る

トップページへ戻る