ASには、脊椎や関節だけでなく、他の臓器や器官にも特徴的な
病気を併発することがありますので、今までと違った症状が出現したら、
できればまず日頃ASに関して診てくれている担当医に相談し、
そこからそれぞれの専門医に紹介してもらうのが良いでしょう。
直接それぞれの専門医のところへ行く場合には、必ずASで治療
(経過観察)中であるということを伝える必要があります。またASに
対して使用中の薬の名前も告げられれば、薬の重複あるいは有害な
相互作用の予防にもなります。それに誤診を少しでも防ぐ手段になる
かも知れませんし、また診断が絞れて早期診断もより簡単になります。
次に、ASの合併症と、その頻度や症状などについて述べます。
なお頻度については、統計報告によりまちまちなため数値に大きな幅が
出るものもありますし、日本では正確な統計調査がなされていないもの
が多いため、外国の報告による数値が記載されているものもあります。
(1) ブドウ膜炎〔虹彩炎〕 20〜50%
眼の虹彩(こうさい)、毛様体(もうようたい)、脈絡膜をまとめて
ブドウ膜と言いますが、ASの場合、多くは虹彩炎の形をとります
(眼科での診断名は虹彩炎・虹彩毛様体炎)。
症状は、眼痛(無痛の場合もある)、充血、羞明(しゅうめい)
(眩しい)、流涙、飛蚊症(ひぶんしょう)(眼前にゴミ、糸くずが
浮いているように見える症状。生理的な場合も多く、見えたからと
言って直ちに虹彩炎と思い込んで過剰な不安を抱かないように)などで、
さらには視力低下や視野狭窄(しやきょうさく)も起こします。
治療は主に副腎皮質ホルモンの局所投与(点眼、結膜下注射)や
全身投与(内服、注射)ですが、早期に診断が下され、これらの治療が
適切に行われれば予後良好ですので、眼の症状が出たら速やかに眼科に
かかることが大切です。日頃から、このような心構えでいれば、以前に
言われていたような失明の危険性はまずありません。従って、失明する
のではないかと過剰に不安を抱くことはよくありません。
ただ、しばしば再発性であり、また仙腸関節炎その他の骨関節の症状が
現れる前に虹彩炎が発症するケースもありますので、虹彩炎を繰り返す人
では、ASを初め脊椎、関節の病変にも注意しておく必要があります。
眼球の平面断面図
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(2) 尿路疾患(にょうろしっかん)〔膀胱炎、前立腺炎、尿道炎、腎・尿管結石〕 10〜20%
尿路系の炎症による頻尿、排尿障害、排尿痛、血尿、尿混濁、発熱、
腹痛や腰背部痛などが主な症状と言えます。
また、腰背部の激痛発作や会陰部や大腿部への放散痛、そして血尿を
主張とする腎臓・尿管結石も意外に多い合併症と言えます。
ASになるとどうしても体動が通常の人より少なくなり、そうなると、
普通の人なら知らぬ間に流れ出てしまうような小さい結石が流れにくく
なります。また末期に脊椎が強直すると廃用性の骨萎縮(骨粗鬆症
(こつそしょうしょう)…骨の量が減る)により骨からカルシウムが
血中に多めに流れ出るようになるため、尿中のカルシウム濃度が高く
なって、結石を作り易くなるとも言われています。
治療は一般の尿路結石症と変わりはありませんが、高血圧や心疾患、
腎疾患など特に水分摂取を制限しなければならない病気を持っていない
限り、日頃から、水分を十分にとり尿量を多めにしておくことも大切な
ことです。また、結石のもとになるカルシウムを過剰に摂取しないよう
に心掛けることは必要です。しかしこのことは、加齢とともに(普通の
人も)進む全身的な骨粗鬆化(骨の量が少なくなり、折れ易くなる)に
対してカルシウム摂取が勧めるられることと相反することになり、
AS患者にとってはむずかしいところです。
結論的には、特に骨粗鬆症を恐れてカルシウムを余分に摂取することは
避け、だからと言って尿路結石を怖れるあまり極力カルシウムを摂らない
ような努力も不要、普通のバランスの良い食事を摂って、平均的な
カルシウム摂取量にしておくというのが丁度良いと考えられます。
因みに、日本人の1日の摂取すべきカルシウム量は600〜1,000mgと
されており、最も吸収の良いカルシウムが多く含有されている牛乳では、
1本分で200mg含有されています。これ以外にも通常の食事の中にかなり
含まれていますので、カルシウム摂取に関しあまり神経質になる必要は
ありません。ただし、カルシウムが不足している状態というのは、
骨粗鬆症に限らず、その他全身に様々な病態を生み出しますので
避けなければならず、従って、若干多めに摂取することは心掛けるべき
でしょう。
(3) 消化器系疾患〔潰瘍性大腸炎、クローン病〕 7%(日本のある文献による)
潰瘍性大腸炎、クロ−ン病は特殊な病気ですが、繰り返す粘血便
(ねんけつべん)や下痢が特徴的な症状と言え、その他は腹痛、発熱、
食欲不振、体重減少などを訴えます。専門的治療を要しますので、
消化器の専門医にかかるべきでしょう。
その他、いわゆる胃腸障害(胃炎、胃潰瘍)としては、ASに対して
使用した薬物の副作用が問題となります(連用者の40%に胃炎、
約15%に胃潰瘍があったとの報告がある)。
(4) 循環器系疾患 3〜18%(日本では統計報告はないので外国のもの)
大動脈弁閉鎖不全症、刺激伝導障害(房室(ぼうしつ)ブロック、
不整脈など)の形で現れますが、いずれも、重症のAS例、あるいは
高齢者に限られるようです。日本ではASと関連した症例の報告は
非常に少なく、ASと合併することが知られていないので、全く関連の
ない別の疾患として扱われて表に出てこないのかも知れません。
(5) 呼吸器系疾患 1〜3%(日本では統計報告はないので外国のもの)
肋骨と脊椎の間の強直により胸郭の運動制限が発生した結果、
呼吸運動ひいては換気障害が起こり、さらにこれに加齢性の変化も
加わって呼吸器系の病気が年齢とともに目立つようになります。
また肺線維症を起こして咳、痰、呼吸困難を起こすこともあります。
特に血痰が見られる時にはアスペルギルス症(肺真菌症(はいしんきん
しょう))を起こしていることもあり、その場合レントゲン写真上は
肺結核と似ているので間違えられ易いので注意が必要です。
また肺結核を合併したケースも報告されています。
体操療法の項でも述べるように、日頃から肺に十分息を入れて
ふくらませてくおくことは胸郭運動制限をできるだけ進行させない
ためにも、また感染(肺炎など)予防にも良いので、毎日回数を
決めて、大きく深呼吸をすることを心掛けるべきでしょう。
そして、禁煙が大切、言い換えるとこれらの発症を促進させ、
病状を悪化させるのが喫煙であることは言うまでもありません。
(6) 末梢血管炎
日本では非常に稀ではありますが、血管炎による下腿の難治性
皮膚潰瘍(なんじせいひふかいよう)・壊死(えし)を併発したケースの
報告はあります。
(7) 脊椎・脊髄疾患
脊椎の靱帯の骨化や炎症により、傍を通る神経を圧迫して、痛みや
しびれ、運動麻痺を起こすケースも稀ですがあります。圧迫部位や
神経症状の出方によりますが、表向きにはASというよりも、
後縦靱帯骨化症、腰部脊柱管狭窄症、クモ膜嚢腫(のうしゅ)などと
いった病名がつけられます。手足のしびれや知覚鈍麻(ちかくどんま)
あるいは運動障害、脱力、歩行障害などの症状が出ますが、原因としては、
通常の人にもよく起こる老化現象によるものの方が圧倒的に多く、
特にASだからということはないようです。
以上、ASはさまざまな疾患を合併し、また互いに重複する可能性が
ありますが、眼のぶどう膜炎以外のものは希なものと言えます。
一方、普通の人達と同じ様に、他の様々な病気にならないという保障も
ありません。従って、今まで述べてきたような症状が出たら、早めに
担当医に相談し、必要ならば適宜それぞれの専門医の治療を受ける
べきでしょう。いずれも、早期に発見され、適切な治療を受ければ、
治癒または改善が十分に可能であり、過剰な心配は不要です。