コンクールの選評なんか読むと、「人間が書けてない」なんてありますね。あれは
「作者が納得している人間かどうか」ということなんじゃないでしょうか。作
者がまず納得出来ないで、自分のためじゃなく他人のためにやっていると、読む人観る人は心を打たれないんじゃないか。
シナリオの要点は、起承転結だと言って、当てはめて作ってあるものは、結局作者の
ご都合で人物たちが動き回っているんで、その人物たちの考え方・行動が、
読者(観客)に迫ってこない。登場人物たちが人間らしくないというか生きてないというか……。人間と人間のぶつかり合いから生まれてくるストーリーではな
く、ストーリーが先にあって、そこにチェスのコマのように人物をはめていくみたいな脚本でいいのか。大職人なら、そうやってうまく作れるんでしょうけど、
初心者はそうはいかない。まあ、だんだんに分かっていくということでしょうね。
――既成の作品に似てしまうことについて、どのように思いますか?
仲倉
映画をやろうという人は映画を沢山観ているでしょう。でも、テレビやろうという人は、たぶん観ている量が少ないんじゃないでしょうか。テレビドラマは沢山
あるけど、ほんとにちゃんと観ているのかどうか疑問です。ひょっとしたら、雑談しながら、つまり一般視聴者と同じレべルで観ているんじゃないか。そんなの
は観ているうちに入らないと思うんです。アタマから最後のクレジットタイトルまで、コマーシャルのところは別にしても、しっかり観ていると違ってくると思
います。全部オン・タイムで見ることは出来ないけど、メインの一本くらいはオン・タイムで観るべきでしょう。ぼくの今の一本は「新選組!」です。
テレビドラマの書き手になっていくには、一瞬一瞬に消えてゆくものをちゃんと観る
という体験が必要なんじゃないかと思います。
シナリオを書きたいと言いながら、ろくに映画も観ていない人が多い。大学の映画学
科の学生が映画館に行かないんですから。年に百本も観たら多いというで
しょう。でもぼくらの若いころは百本じゃ少なかった。三百本観るのが映画好きと言われていました。だから映画を観ていないとコンプレックスがありました
ね。
しっかり観るということで言えば、好きなドラマや映画をシナリオ形式に採録すると
いいと思います。昔、『映画芸術』のアルバイトで洋画のシナリオ採録を
やったことがあるんですが、それがとても勉強になりました。渡されたのはセリフのテキストだけ。あとは映画を見ながらト書きを書くわけです。すでに字幕は
ついていたので苦労はなかったのだけど、でも字幕は完全なセリフではないし、生意気にも誤訳があるんじゃないかとかいって最初からいちいち訳し直したりし
て、こっちの方が日本語らしいぞとか、けっこう面白い作業でした。それで出来上がってみると、大体一時間半の映画が、ちゃんとぺラ二四〇〜二五〇枚になっ
ているんですよ。だから一本の映画のボリューム感が分かる。ああ、シナリオってこういう分量なのかと。
最初にやったのはフランス映画の「あの胸にもう一度」です。新婚間もない妻がベッ
ドを抜け出し、夫に内緒で愛人のもとにオートバイで駆けつけるというお話
です。素肌に革のつなぎを着て早朝の町を疾走し、ハーレーの振動に身をゆだねて愛人(アラン・ドロン)との情事を想うマリアンヌ・フェイスフルの恍惚の表
情は忘れられませんね。残念ながら彼女は愛人のもとには行きつけないんだけど。ぼくが中年ライダーになったのはこの映画が潜在意識にあったからかもしれま
せん。それから印象に残っているのは、フランシス・フォード・コッポラの「雨の中の女」です。これも夫に黙って妻が家を出るという物語です。車であてもな
い旅をしていろんな人に出会うんですが、それがとても興味深い人たちでした。ロードムービーが好きになったのはこういう影響がありますね。
みんなも、自分でテレビやビデオを観ながら採録して、雑誌に載ったシナリオと比較
してみるといいんじゃないでしょうか。
シナリオがうまく書けない時は、人の真似をしてみるのもいいと思います。たとえ
ば、加藤泰ならどう書くかなと、ト書を加藤泰風に擬態語を使ってダーッと書
くとか、斎藤耕一みたいにト書はあまり書かないでセリフだけでいこうとか。そんなことをやっていた時期がありました。今だったら三谷幸喜のようにやってみ
ようとか、橋田壽賀子みたいに書いてみようとか。
ウッチャンナンチャンが売り出した頃に、深夜番組でコンビニの客と店員の設定でコ
ントをやっていましてね。最初は山田太一のドラマみたいにとか、次は倉本
聰バージョンとか、いろいろなパターンでやっていたんですが、とてもよく作者の特徴をつかんでいて、なるほどそうだろうな、ああいう風に書くんだろうな
と、感心させられました。本当によく出来ていて面白かったですね。真似をするというのはいいんですよ。自分の好きな作家を見つけて、あの人なら、このシー
ンをどう書くだろうとか、やってみるといいと思います。
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