―なぜゼミを開いたか
設立の趣旨を仲倉氏は――,
「ぼくと南部さんは松竹の同期(入社)です。ぼくらはシナリオについて体系的に学んだことはない。現場で監督に誘われて共同脚本に参加するというかたち で、脚本に関わるようになった。ライターになるために脚本修行したのではなくて、脚本というのは映画になるものだという前提で脚本と関わり出した。しかも ぼくの場合、学生時代、映画青年でもなくて脚本のことをあまりよく知らなくて、作る現場に行ったところで、初めて脚本と映画の関係を知るようになった。こ ういう表現をするとこういう映像になるんだと、経験主義的に学んできた。それが十数年前に松竹シナリオ研究所に講師として関わって、そこで初めて人に脚本 というものを教える、というより話す機会を得て、脚本というものを少しずつ考えるようになったんです。

(松竹を離れ)フリーになってから、ある時おなじ所で南部さんと講師をやるようになった時に、こっちが月に一回とか二回とか行くと、何人かの講師が交代で 回っているために実体がはっきりしないし、話している相手も継続的ではない気がした。そういう臨時という感じではなくて、ちゃんと映画づくりドラマづくり というものを伝えたいという思いが高じてきて、南部さんと相談して、学校というほど大袈裟なものではないけど、そのような集まりをやってみようかと始めた んですね。

 撮影所の時代が終わって、フリーで映画を作る時代になって、ぼくらが撮影所で学んできたことを伝えることをやらなきゃいけない立場になったのかなという 思いもありました。ぼくはさしたる実績のあるわけじゃないけど、出来るだけ具体的に伝えていきたい。フェイス・トゥ・フェイスの関係で話し合いたいという のが出発の気持でした」


シナリオ重視の松竹出身

 南部氏は――
「僕も現場の監督業と、副次的というと脚本専業の人には悪いんですが、脚本をやってますが、脚本とはいかなるものか、自分に問いかけたことが今まで一回も なかった。でも一本の脚本を色々な隘路の中で仕上げなきゃいけないわけだから。直感というか現場に即した本作りについては若い人にお喋りできるんじゃない かという実感がだんだん深まっていった。

 皆さん御存じだろうけど、あの撮影所(松竹)は、他に比べて脚本重視の映画会社だった。だから助監督で撮影所に入って言われたことは、演出の勉強をしろ ということではなくて、まず脚本を書けとしつこく言われた。入った当座は、監督志望なのになんで脚本を書かなきゃいけないんだという疑問はありましたが、 会社がそういう社風である以上、そういうふうにしようということで、門前の小僧というスタイルで、チマチマやってきた。

映画衰えたりといえ、まだ先輩も随分いたし人脈も出来ました。新人監督として先輩が出ると、お前一緒に書け、みたいなことで訳の分からないまま、書きたい ことを書く。もちろん、書きたいことを書いて通じるわけではない。会社のこと、お金、時間いろいろありますからそういう中で訓練されたと思う。

 脚本に関しては僕自身がそういう流れを辿っていますから、脚本を教えられるなんてテンから思ってなかった。ただ、僕が体験したことをお喋りしようと。 二、三のシナリオ学校から口がかかって喋ってるうちに、ある快感を持てるようになった。シナリオを志望する若い人と、シナリオを中心にお喋りする、話し合 う。それが変に楽しくなった。彼らの感覚やエネルギーを僕自身も享受するというかな、欲得でなく、僕自身がリフレッシュされる。シナリオというのは教えら れるものではないとしても、少なくとも若い人が我々の話を聞いて、目を輝かせてくれる間は、時間をそのぶん費やして、いいんじゃないか。そんな気持にたど り着いた。それで、言わば雇われ講師で月に一回、二ヵ月に一回やってたことがつまらなくなった。だったら仲倉さんと二人で、自前でやってやろう。話す相手 に対する愛情というと大袈裟だけど、どこかで責任を持ってやろうじゃないかと。あっちがどう考えるかは別にしてね。こっちの姿勢としてね。

 で、自前で二人でやり始めると、これが面白い。非常に面白い。いろんな生徒がいましてね。シナリオを技術的にどうこうということもありますが、若い人が 表現意欲があってやりたいことをやる、そのうちの一つがたまたまシナリオであった、と。その部分では我々と共有出来る。だから、システムティックなシナリ オというよりは、皮膚感覚で人間同士が触れ合う、その表現の手立ての一つがシナリオであると。いささかオーバーに言うとそういうことですかね」
「そう、教えるんじゃなくて、伝える。或いは語り合うということで、シナリオはこうだ、こう書くべきだということは、全然言わない」と仲倉氏。

―いつも二人で講師
他のシナリオスクールと根本的に違うところは、授業の席に仲倉氏と南 部氏二人がいつも同時にいること。仕事の都合で一人にあることもあるが、原則としていつも二人講師。

「すると、ぼくと南部さんの意見が合う時もあれば、違う時もある、映画やドラマの感じ方も好みも違う。あえて違う意見を言ったり、あえて同じ意見を言って るのではなくて、ぼくはこう考える、南部さんはこう考える、みんなはどう考えるの?ということです。こうすべきだというやり方はしていません。そこが唯一 の特色だと思います。初心者に向けてシナリオはこう書くというような授業は一切していません。今考えてることをどのようにシナリオの形にしていくか、形式 よりも思いの迸りがどう出ているかです」
 具体的なゼミの内容を仲倉氏に訊ねた。

「講義はしないよ、と言ってある。書きたいものを持ってらっしゃいということになっている。まずはストーリーとかモチーフでもいいんですけど出す。それに ついて一日に二、三人の作品を俎に乗せて、ああだこうだと言い合う。だんだんにストーリーを固めて、この後にはコンストラクションに進めていったほうがい いとかシナリオ書き始めたほうがいいんじゃないの、とかアドバイスします。ある段階まではゼミの場で、言い合う」

 南部氏は――
「われわれの若い頃に比べて、自己表現したいという連中が臆病になってる。傷つきたくない。さらけ出したくない。その傾向がわりと顕著です。ものを表現し ようとするくせにさらけだしたくない。どこかで自分を優しく温めながら、うまく行ったら願ってもない幸いじゃないかと。それはとんでもないんで、ものを書 くということは自分を見つめることであり、同時に自分をさらけだすことであり傷つくことであり何でありということなんで……。これはシナリオを書く人だけ ではありません。自分の殻に閉じ籠もって、どうしても他人と積極的に関わりたくない。関わると傷つくんじゃないか。傷つくのが嫌だと。そ
ういう臆病さを感じる。

 僕は、出されたストーリーなりモチーフがあると、なんでこれを書いたの?という部分から始める。技術的にどう膨らませるかとかじゃなしに、根源的な部分 での、書きたいことをどう書いたか、そこに嘘はないか、突っ込みが薄いんじゃないかとか。そういう部分で僕は迫ってるつもりなんですがね。あまり言いすぎ ると、来なくなってしまう。現場で監督やってますと、若い俳優さんと付き合いがわりと多い。どうダメをだすか、ダメの出し方のある形がありましてね (笑)」

「そういう意味じゃ、最近、厳しいけど親切になってるね」と仲倉氏。「少なくとも自分が面白いと思うから書いてくるんだろうから、自分が面白がってる部分 が、人に共有されるかどうか、伝わるか。自分が面白く思わないものをカッコウだけで書いたって、絶対伝わらない。本人、何を面白がってるの?というのが、 自分でももの書く時そうだし、彼らに対する関心ですね。ぼくの場合、理論的はなくて感覚的なリアクションが多い」
 受講生の作品に対して抽象的な感想や批判はしないようにしているという。

「面白がってる思いの部分を映像にして語るにはどうしたらいいか。だから、具体的な代案をいくつも出します。喫茶店で話しているより他の場所にほうがいい じゃない?というようなレベルまで含めた代案です。だから彼らが作品を提出しない限り授業はない。作品がないからぼくらが話をするということはしない。で も不思議と途切れることなく、毎回作品が提出されて、俎に乗せてということが続いています」


−チケット制で
なお、二人の講師の他、本人も脚本家を目指している世話係役の女性が いて、講師と受講生との間に立つ重要な役割を果たしているという。

 現在、毎回十人程が受講している。
 期間は6カ月。月2回。隔週土曜日の午後2時から5時。

 その後、アフター・ゼミと称して喫茶店で一、二時間。言い足りなかったこと、聞き足りなかったことなどお互いフォローし合う。その後、居酒屋へというこ とも。

「面白いのは、最初の頃シナリオの形にもなっていないようなものを書いてきた人が、本格的なものを書けるようになってくる。継続は力なりということが分か る。受講期間は6カ月ですけど、継続する人が多い」と仲倉氏。南部氏も「今来ている受講生は粘り強い。だから、ある時バケる。何かを掴んで、それから書く ものが抜群に良くなる」。

 受講にはチケット制をとっていて、12回分のチケットを渡し、忙しい時は休んでも来られる時に来なさいというかたちを取っている。








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