2005年4月16日(土)
△▼4/16のゼミ▼△
本 日の作品
ストーリー 2
出席者: 男 4 女 1 見学 1(男)
ここのところ出席者は10人を越えていたが、めずらしく6人と椅子があまった。みんな花見酒で疲れたか。僕なんか、花見句会で、「都鳥 墨堤に舞い 春 匂う」と一句をものにして意気盛んなのだが。
ちなみに、昔の歌に,「名にしおば いざ言問はん都鳥 我が思う人 ありやなしやと」と言うのがありまして、そのもじりだけどね。墨堤(ぼくてい)と は、墨田川(浅草近く)の堤防。言問とは、言問橋(ことといばし)にかけてます。荷風の「墨東綺譚」は、小説の舞台になった私娼窟の玉の井が、墨田川(隅 田川)の東にあったからです。
ああ、若い人相手に昔を語ることの楽しさよ。
さて、本題は――。
「木曽路はすべて山の中である」と名調子で始まるのは、文豪島崎藤村の「夜明け前」だが、若き作者の苦渋に満ちた「夜明け前」は、悲しみに満ちている。 屈折に満ちている。主人公の僕は19歳で新聞配達が仕事だ。鼻くそみたいな人生だ。将来に希望があるか?ない。何かの才能があるか?ない。死ぬ理由がある か?それもない。ないないずくしのぼくなんかに、決まってその娘は週に一度は「詩」をプレゼントしてくれる。新聞を入れる郵便ポストに彼女の「詩」が挟ん であるのだ。僕は一度も彼女の顔を見たことがない。調べてみるとそのマンションの一室には14,5歳の引きこもりの少女がいるらしい。受け取り方では、 「詩」は僕への求愛ともおもえる。だが僕の思いはそれ以上にすすまない。
1.小沼作品「夜明け前」(ストーリー)
何故かって?意中の女がいるからだ。それは、牛丼店に勤める僕と同じ年頃の少女、ハルコさんだ。
抜群の出だしだ。皆さん、読んでみたいと思うでしょう。次、アシモフさんに貰ってください。新聞配達とか引きこもりとか、牛丼とか、ここに来て藤村の品 格がぐっと落ちるが,それは仕方ない。作者は一貫して「自分の世界」を死守する人だから。「品格」なんぞはとっくに無くなってしまったいまの世の中の話だ から。
ハルコさんの店の前に、何故かすべてが「風俗店」に占拠された小さいビルがある。彼女は、これまた何故かそのビルを「憤怒」の目でみつめている。彼女に は「ある計画」がある。僕はハルコさんが好きなばかりに、その計画に加担してしまうのだ。
そして、夢が覚め、朝の光が生まれたとき、僕は「引きこもりの少女」の顔を始めて見る。
その不細工なこと。少女は僕の唇を吸った後「私を連れ出して」といった。僕はこの人と生きていくしかないのか。
北野武のある作品を引き合いに出して、「ハルコさんとのことは、みんな夢なんだ」といったT君の意見が印象深かった。
「タクシードライバー」のスコセッシ、「パルプ〜」のタランチーノ、ひいては僕の青春時代のゴタールたちの感性の後継者たる栄光を、作者にはぜひ手に入 れてほしい。
次にクールな立場での採点を(5点満点で)。
材料 5 構成 3 人物の掘り下げ 3。いいんだよ、5点超えても。
成り行きで、これまた昔話が出てくる。なにしろ「LOVE--」はプレスリーの大ヒット曲だから。あの長いもみ上げ、のっぺりした顔、激しい腰のひね り。モンローが男のだとしたら、プレスリーは女のセックスシンボルでした。
2.千葉作品「LOVE ME TENDER」(ストーリー)
若い作者がそんなの知るわけが無い、と思ったら案の定、ファーストフードの店で聞き覚えたらしい。それはいいのだ、僕なんかのアメリカンポップスの系譜 は、パテイ・ページ、エルビス、ポール・アンカ、レイ・チャールズ、ジャニス・ジョップリンに絞られるくらいで、そのうちの1人となるともう大乗なのだ。 アシモフさんの指摘のように、ドラマにその歌を絡ませる必要はおおありだがね。
さて、この作品のスタートダッシュもいい。主人公は警官だ。その妻は、アンチックの家具や小物のバイヤ−でよく外国に買出しに行く。そう聞いただけでな んだか釣り合わぬ二人だ、と誰しも思うだろう。正解。二人は高校時代からの腐れ縁でここまでやっとつずいてきたのだ。さえない亭主に我慢が尽きてとうとう カミサンは家を出て行く。まあ男の方にもいずれそうなるという予感はあったから、大修羅場にはならなかったが、その代わり亭主はぐっと我慢をする。大体い まの世の中、勢いいい女と一緒になった男はこうなる宿命が待っている。そして、大方いまの世の中女の方が勢いがいい。
「愚痴もいわずに女房の小春」(王将)という時代ではない。「品格」と同時に「貞淑」も失われたのだ。その風潮が悔しいから、僕は死ぬまでに一度アナク ロな「貞淑女」の話をやるつもりだが。
哲学者のニーチエはいった、「男が興奮するのは危機と遊びの時である」と。いま、危機なんてないし、遊びは金次第で、男にはウツロな時代です。
で、ウツロな警官は「風俗」に通いだすのです。くしくもまた「風俗」が出てきた。そこで出会った昔の友人が「ストーカー」に苦しめられていると聞く。
友人は相手がプロ・アマを問わず大変な色事師で、警官は成り行きでその「ストーカー」の女の正体を突きとめることとなる。それが仕事だろうが、といわれ れば致し方ない。ところが、この女、癖はあるが飛び切りのいい女で、ミイラ取りがミイラになり彼女に惚れてしまい、今度は自分が「ストーカー」になってし まうのです。警官なのにもう。
小沼作品と同じパターンでいけば、どう、読みたいでしょう。アシモフさんに貰ってください。
ここでも、Kさんの「男の人の優しさがいいわあ」というのが印象的だった。
作者のこれまでの作品のタッチを思い返すと、その人間像も含めて、ライトコメデイに独特の味を発揮しているようだ。
おおまかにいうと、僕も大好きなビリー・ワイルダーの線だ。もしワイルダーの作品を未見なら,腰をすえて何本か「脚本中心」に分析・研究してみたらどう かなあ。ビデオを見ながら、ノートをとるのです。話の作り方、人間のキャラ、シーンの組み立て方などを。
で、ここも採点。
材料 5 構成 3 人物の煮詰め方 3。
アフターは5階のサテンで。
見学の青年が入ってくれるといいなあ、という話があった。
今日の作品提出者、K,T君と同じ歳で、「ドラマ」誌で勉強していたらしい。
それとアシモフさん、忠太郎の松竹時代の映画作り思い出話で盛り上がった。プログラムピクチュアという言葉にみんな「え?」と首をかしげた。
そうか、もう死語なんだ。われわれが大船に入り助監督を始めた頃は、2週間に2本ずつの公開がきまってて、それの逆算で娯楽映画を量産してたんだよ。勢 いでという言葉があるが、そんな忙しい作り方でも、「時代を捉えた」いいものがいっぱいあった。あんまり控えめにならず、「時代に攻撃をかけようよ」、み なさん。
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