2004年9月4日(土)
 


△▼9/4のゼミ▼△


本 日のテーマ
・自由課題

ストーリー      4
出席者: 男 5   女 4


 一ヶ月ぶりのゼミである。心なしか秋の気配がだだよってきて、長袖がころあいの陽気だ。池袋西口広場にたむろする詰め将棋のおじさんたちは、心地よい季 節到来とばかり、熱戦を繰り広げていたが、その横にあるステ−ジでロック風を演奏する若者グループには耳を傾ける人は少なく、女性ボーカルがしらけた声を 上げていた。
 秋は、物思う人の季節である。
 秋は、物書く人の季節である。
 昔は僕も、秋になると一応物を書こうとした。あの夏の激しくも切ない記憶を材料に。
 「今は、もう秋、誰もいない海」と気取って最初の一行を書き始めるのだが、根気がなくていつもこの一行どまりだった。皆さんくれぐれもこの愚をくりかえ さないでね。


1.内野作品「浦島にならんと、桃太郎になりぃよ」
                    (ストーリー)

 これは岡山弁だ。面白い題名と好評だった。24歳の康介はバンドマンとして一 旗挙げようと、高校を出た後上京した。だが夢破れ、今では明日の生活に困る有様で、恋人も彼がプレゼントした指輪や首飾りを突っ返して去っていった。
 「とりあえず、ビジョンのない」主人公は、指輪などを質入してつくった金で長距離バスのチケットを求め、故郷の岡山を目指した。父を亡くした後、母親は 一人で「釣具店」をやっている。
 彼の帰郷は、故郷で再起を図るとか、意思的なUターンとかの立派なものではなく、「なんとなく」のものだった。ぐうたらな男も時と場合で、魅力的な主人 公になる。
 6年ぶりの故郷は、それ相応に変わっていた。
 母親には内縁の夫がいたし、元ヤンキーの男と結婚した姉は、よく夫婦喧嘩をして実家に帰ってきてるようだ。親友の市役所吏員はもうすぐ結婚するという。 その相手は康介が高校時代ちょっかいを出した女だった。(ここは、僕の思い入れ)
 なんとなく戻ってきた康介を、周りはなんとなく迎える。そう、東京生活を根掘り葉掘り聞くでもなく、かつての康介の夢を蒸し返すこともなく。
 ここのさじ加減がころあいで気持ちいい。みんな、自分自身の生活を踏み外さずに、彼に接する。決して声高にならず、激したりせず。
 数日後、康介は東京行きの深夜バスに乗っていた。彼の心は、「なんとなく」より、もう少し「複雑な思い」に満たされていた。 それは母親の、さりげない 一言があったからだ。
 この一言がいい。この一言を言える母親がいい。
 そして、内縁の夫も姉夫婦も友人も旧師も、生き生きしている。 作者の目配せと愛情が感じ取れる。

 地方の放送局が募集してるラジオドラマ用というが、映像ドラマとしても成り立 つのではないか。
 「作者の中にある、二つの志向の一方」という発言があった。確かに作者には、「激しく構築されたもの」と、「やわらかく人間を見つめたもの」という二つ の作風がある。この前の、4回も書き直したストーリーに僕はぺンディングのアドバイスをした。それは「前者タイプ」のものだった。その流れの苦しみが、今 度の作品の「密度」につながったのかもしれない。もっとも、「前者タイプ」もあきらめてはほしくないが。
 作者の気迫とやる気を思うと、当然、「あのおじさんに負けるものですか」と牙を研いでいるだろうけれどね。


2.松原作品「ホワイトムーン」(ストー リー)

 事務長が云った。「私、この作品大好き。分かる、分かる。誰がどういっても味 方するから」。
 彼女は論理の読み手というより、感性の読み手だ。そこに一目置いている僕としては、さあ困ったのです。なにしろ前作の「地図」で、しっかりと地方都市の 生活の哀感をすくいとった作者が、男が男を恋する話を書いたのだから。
 いくら一人の人間の中にはいろいろあるよとはいっても、作風についての二面性には言及できても、これは材料の話で、乏しい読書体験を探ってみてもこの手 のものは昔読んだ三島の「仮面の告白」しか思い当たらなくて、それもほとんど忘れている。
 俺、お手上げだと思っていたら、アレレ、また一人作者の応援団が出た。本人もそうだと告白しているH監督の作品(そういったモチーフの)が好きだという T君だ。
 シナリオの読み手が10人いて、5人がまあまあだと評価するより、1人2人が熱く支持してくれるものの方がいいとは思うのだが、小生、SFとこの手のも のは苦手でスイマセン。
 アメリカでブッシュの共和党が「同性結婚反対」といってて、そんな硬いこといわなくても自由でいいよとは思っても、生まれてこの歳までそういう感覚をチ ラツとでも感じたことがないから困るのです。ま、シナリオのプロとしていえるのは、男Aの「ホワイトムーン」がウイルスのように男Bへ、そして女Cに伝染 して、恋に身を焼く「陶酔」が三人を狂わせるというのもありかなあと。
 そりゃあ、禁断の愛のほうが、切ないものね。
 アシモフさんの「こういう材料は、即、シナリオにしてから、意見を出し合ったほうがいい」という指摘は至言かも。そうすれば、僕もなんかいえるかも。


3、伊波作品「私のサッフォー」(ストー リー)

 そしてなんと、またまた出たのが、レスビアンものだったのです。
 サッフォーというのは紀元前6世紀に生きた、ギリシャの詩人にして哲学者。彼女はレスビアンだった。
 OLの美由紀は恋人(もち、男の)と無難に付き合ってはいるが、かねがね何か満たされない感覚に責められている。そんなある日、美由紀は先輩の女性から レスビアンバーの話を聞き、興味半分で足を伸ばす。ママは当然レスビアンで、美由紀は彼女に気に入られる。
 数日後、ママの誘いで彼女の部屋に行った美由紀は、「愛の洗礼」をうけて、自分の隠されていたものに気づく。あの、どこか満たされなかった恋人とのひと 時に比べて、こんなに目くるめく思いがあったなんて。
 美由紀の思いは膨れるばかりである。とある雑誌に、ギリシャのレスボス島に住むカテリナという女性が紹介されていた。カテリナは、レスビアンの女神・ サッフォーの崇拝者で、自分も同じ道を究めるべく日々研鑽してるらしい。なんだか僕が話を紹介すると、宮本武蔵の剣道修行みたいな流れになるが、必ずしも 僕のせいではなく、作者が書く、レスビアン道にまい進するヒロイン像は、真摯で、マジメで、求道的なのだ。美由紀はギリシャに旅立つ。そしてカテリナとの 愛の日日が始まり、その合間に、サッフォーの詩、学問、音楽について教えを請うのだ。
 ぼく、本音を言えば、男同士より女が二人戯れるものの方が好きだが、シナリオのためのストーリーとしては、話が足りない。なにしろ、ストーリーはここま でしか書かれていないのだ。
 それはないでしょう、だ。作者の癖は、「起承」までで打ち切り、しばしば「転結」に欠ける。これからのテーマは、どう「転結」をつけるかだ。


4、神山作品「RUN、RAN、RAN」(ス トーリー)

 ほんとは感嘆詞が入るのだが、打てないので失礼します。
 日比谷公園をスタートして国立競技場にいたる10キロのロードレースがある。題名どうり、3人の主人公たちがこれを走る。
 33歳の容子はかってのマラソン選手。現役を退き就職してから彼女は不倫をしていて、誤って相手を殺してしまっていた。だが、事件は表ざたにならないま ま(なぜだ?)、今日まで来た。
 松坂は26歳。窃盗の常習犯だ。彼もまた警察の目から逃れて、今も現役で小さな悪事を飯の種にしている。
 長田は42歳、ある会社の営業部長だ。仕事は出来るほうだが、部下に一人だけ自分より切れものがいて、激しい追い上げを感じ嫉妬に悩まされている。
 この3人が走る。走る。ひたすら走る。
 なぜ?もちろん3人それぞれの理由がある。容子は上手く行かない仕事と殺しのモヤモヤから。松坂は、レース参加者の預け品をくすねてあわや見つかりそう になり、やむなくランナーに紛れ込んだため。長田の趣味はもともとランニングだった。
 さあ、3人は完走できるか。
 作者は言う。容子は幸福を、松阪は自由を、長田は理想を求めて走る、走る、と。
 ただ、ただ、走る映画だと。
 しかし、こうまとめてみると、10キロはあまりに短くはないか?
 僕は、時々、ひたすら歩く。早足なら、1時間に6キロは大丈夫。とすると、10キロを歩いても、ものの1時間半だ。走りにサスペンスをかけるためには、 やはりハーフマラソンの長さが必要ではないか。それと、この3人は走りながら何か人間関係を結べるのか。それが出来ないとしたら、これは別個の主人公3人 のオムニバスドラマになるのか?
 課題はいくつかありそうだ。




 アフターはいつものサテンで。久しぶりのJさん、夏休み中だったTさん、雑誌編集で寝る間もないK君も加わり盛り上がった。
 あとちょっと(食い物と酒が)という連中が次へ行く頃、突然の豪雨。芸術劇場の天井のガラス板が滝壺を裏から覗くようだった。
 空模様でも、突然のこういう激しい変化は、いいものだ。
 ところで、ネパールのK君はつつがなきや。見目麗しき土地の女につかまって、という思わせぶりなメールを最後に音信が絶えたが。まさか、「K君、ヒマラ ヤに消ゆ」なんてことじゃないだろうな。





次回は、2004年9月18日 (土)

東京芸術劇場5F/NO4会議室
時間は、13:30〜17:00


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