○自由課題(ストーリー)
1 神山作品「帰宅しない放蕩娘」
いつも題名が魅力的だ。中身を紹介するとその魔力が失せてしまうようで、よほど心してまとめないと。
これは女三人の世界である。ロック少女だった主人公もすでに25歳。ひょんなことから同い年の女性の団地に転がり込む。女は留学しようと思っている。向いの部屋にも同い年の女がいる。女はレズである。そして、三人とも不安定な精神状況にある。その三人の綾なす世界は…。
青くさい話を書きたい、という作者の思いが面白い。だが、揺れている人間を描くのに物語の枠が揺れていてはよくない、と忠太郎師。ストーリーとしていろんな思いを綴るのはいいが、シナリオには人間関係を具体性で埋めていくことが大事。ストーリーを練るというよりは、馬力で書き上げることを期待することになった。
参考作品として「バクダッド・カフェ」や「アンナ・マデリーナ」があげられた。こういう風に言われるのは、それだけみんなを触発するものがあるということなのだと思う。
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2 城ノ口作品「アイノサンカ」
これまでのドメスティックな世界に辛口の香辛料をふりかけた独特の世界と違って、とてもロマンティックだ。
タイ人女性との結婚を両親に反対されている孫に、若いころの禁断の恋の思い出を語って聞かせ、孫の恋を応援する祖父。
だが、二つの問題がある。一つは、祖父の愛した少女がサンカであることだ。「サンカ」は山窩と書き、古来<山の民>として独自の文化を持ち独特の生活をしてきたと言われている。それゆえに差別もされてきたのだが、その存在と差別はどこまで社会的に認知されていたのか。作者はそれをネットで知ったという。こういう知り方はいかにも現代的だが安易でもあろう。差別問題は心して取り組む必要があると思う。
もう一つは、物語の構成。ほとんど祖父の回想であって、それがどう孫の問題にかかわるのかができていない。これは現在の結婚問題の具体性が出来ていないからではないか。「サンカ」に関心が行き過ぎているからだろうか。今一度、もとから考え直してほしい。例えば民族的差別ではなく、貧富の差ということでも十分伝わるように思う。
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3 山室作品「家族写真(仮題)」
作者いわく、初めてのホームドラマ。下町を舞台に、祖母、母、娘の女三人の愛憎を描く。
主人公は、シングルマザーになる決心をする。お妾だった祖母、納棺師の母は意外にあっさり了解した。どうやらシングルマザーはわが家の伝統らしい。で、彼女は、一人の青年と出会って…。
メインイベントは、浅草カーニバル。サンバのリズムに乗って、下町に生きる女三代の織りなすドラマと言いたいが、作者の思いはそれほど軽快ではないらしい。それは、母親の<納棺師>という職業のせいではないか。こういう職業があると知らなかったので、いまいちすっきりしない。
もう一つ、臨月にカーニバルでサンバを踊るというクライマックスは成立するかということ。ちょっとエキセントリックな線を狙い過ぎているのではないかという気がする。シングルマザーの女三代というだけで十分ドラマティックなのだから、ひねり過ぎないほうがいいのではなかろうか。
だが、物語の材料は十分にある。世界の掴まえ方は相変わらずうまい。
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終わって外に出ると、ちょっぴりお湿りのあとがあった。連日ものすごい乾燥が続いていたので、花粉症に少しは効果があるかもしれない。
「ロジエ」でしばしアフター・ゼミのあと、一部はさらにアフターへ。そこでどんな激論があったかは知られていない。参加者の「居残りアシモフ」への情報公開が待たれる。
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