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《青空》---For 2003 WhiteDay



2000年3月12日、日曜日。
若宮は善行と、ホワイトデーに配る菓子の調達のため新市街にいた。


ラッピングされた品でいっぱいの袋をカウンターで受け取った時、
「あら? 若宮くん」
華やかな声に振り返ると、原素子と森精華がこちらへ向かって歩いて来るところだ。二人とも腕に買い物袋を下げている。
「珍しいですね、こんなところで」
「ほーんと。もしかして・・・デートかしら?」
整備班長の鋭い眼差しに若宮はぎくりとなった。休日に二人でいたことを知られれば、クラス中の噂になるに違いない。それがたとえ男同士であろうとも。

しかし今日、天は若宮に味方した。善行の姿がどこにも見当たらない。
「自分は一人であります! 今日は・・・」
ホワイトデーの買い物・・・と言いかけて、流石にプレゼントする相手に言うのはまずかろうと思いとどまる。しかし原はとっくに勘付いていた。
「お返しね・・・ふうん。誰に頼まれたの? だって若宮くん、渡す相手いないでしょ」
「先輩・・・!いくらなんでも、かわいそうです」
森が原に耳打ちし、気の毒そうに若宮の方を見た。
「どうせバカぜ・・・ううん、なんでもないわ。それより」
美貌の上司は婉然と微笑んだ。
「私、ダイエット中だから。それなりのモノしか受け取らないって伝えてね」
誰に、と聞きかえす暇も与えず、原は踵を返した。
森もまた、若宮にぺこりと頭を下げると後を追って行ってしまった。


若宮は知っていた。
善行が先ほどひとつだけ、ノーカロリーチョコを選んでいたことを。






若宮が善行を探し当てたのは、ギフトコーナーの奥だった。
和陶器のディスプレイの、ひとかかえもある皿の前に立っていた。

翠の気配のある青。
その色は若宮に、プレハブの屋上から見る大空を思い起こさせた。

「欲しいんですか?」
「いいえ、べつに」
だが言葉に反して、善行の双眸は皿から離れない。
若宮は値札を見た。





もう一度見た。




どう見ても、週給の百倍近い。

「欲しいんですか?」
「そうですね。嫌いではありません」
若宮は頭の中でそろばんを弾きはじめた。
いくつバイトを掛け持ちすれば買えるだろうか?


難しい顔でだまりこくった若宮に気づき、善行は苦笑しつつ諭した。
「欲しくなんてないですよ。
 ただ、この色が貴方に似合うなと・・そう思っていただけです。
 だいたいこんなもの、部屋のどこに置くんです?
 かさ張るし、壊れ物だし」

一度息をついて、小声で続けた。

「かさ張るのも、壊したくないのも。一つあれば十分だ」





そうは言いつつ。
善行が何時の間にか袋を下げていて、揃いの白いマグカップが入っている事を。
若宮はまだ、知らない。


《劇終》


★ホワイトデーじゃなくてもよかった話のような。20030315 ASIA


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