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《 ヒミツ》
お願い
このSSは読み始めたら必ず最後まで読んで下さい。
「どないしよ・・・」
AM01:00。5121小隊事務官・加藤祭は、小隊隊長室のドアの前で固まっていた。
玉名地区へ出撃したのが18時。しかし戦場に着くと、幻獣はすでに非実体化した後だった。まあそれもそのはず、アルガナ二名を擁し飛ぶ鳥を落とす勢いの5121小隊を前に、幻獣たちに逃げるなというほうが無理というものだ。
尚敬高に戻った一同は、士魂号や指揮車の点検など各自の仕事を終えると、それはそれは速やかに散っていった。加藤も手早く着替えを済ませると、ウォードレスのまま戦闘データの解析をしていた善行に挨拶もそこそこに、新市街のバイト先へ向かった口である。
ここのところ戦闘らしい戦闘をしていないため、小隊内の雰囲気は何かとだらーっとしている。以前のように夜遅くまで仕事をする者など、いやしない。
司令の善行だけは、相変わらず日付が変わるまで小隊隊長室にいるようだが、加藤が定時であがっても非難がましい顔をしたことは一度もない。むしろ、狩谷と約束のある日やら行きつけのスーパーの特売日やらを(なぜか)知っていて、かまわず帰るよう声をかけて来るほどだ。
恋にバイトに精を出したい加藤にとって、願ってもみない状況ではある。
「あ!こらあかんわ・・・」
0時を回って。バイトを終えた加藤はカバンを開けて頭を抱えた。寮の部屋のカギが見当たらない。たぶん小隊隊長室の机の引き出しだ。人に頼んで開けてもらう手もあるが、
”ただより高いものはない、っていうしなあ”
金だろうが手間だろうが、「借り」を作る事はとにかく嫌いな加藤祭、自称・乙女。
”ま、ええわ。通り道やし”
ピンクの髪の少女はそう自分を慰めると、とぼとぼと学校兼仕事場へ向かったのだった。
場面は冒頭へ戻る。
小隊隊長室には、案の定と言うべきか、まだ明かりがついていた。
”司令もたまには、早う帰らはったらええのに。電気かてタダやないんやし”
そう思いつつドアノブに手をかけた時。
ガタガタガタ・・・・
部屋の中から、ただならぬ物音がした。まるでそう、数人の男が取っ組み合いの喧嘩でもしているかのような・・・。そして最後に、
ガターーーーン!!
何かが壁に叩き付けられるような音がして、一連の騒音はピタリと止んだ。
“な、なんや?!”
不意の出来事に身を竦ませた加藤の耳に、男の凄みのある声が届いた。
「・・・そろそろ観念したらどうです?」
声の調子と言い内容と言い、明らかに物騒。物騒そのものだ。
「!」
薄いドアを通して、誰かが息を飲んだのが、幽かに聞き取れた。
”うっわ、修羅場やー!
なんやようわからんけど、とにかく修羅場や!”
加藤はそれまで何も考えずにパタパタ歩いて来た事を、猛烈に後悔した。
しかし、自分がここにいる事は、内部には気づかれていない様である。
加藤はホッと胸をなで下ろすと、いつでも脱兎のごとく逃げだせるようスタンディングスタートの体勢を維持したまま、緊張と混乱でぐるぐる回りそうな頭の中を整理しようと試みる。
”強盗・・・なんてハズない。
金目の物なんてなーーーんも置いてへん。
したら・・・政敵?
うちら最近、ごっつ景気ええもんなぁ。逆恨みとかされてること、あるかもしれへん。
ううん、幻獣共生派ちゅう線も・・・”
ここまで考えて。
ようやく、ひとつ大切な事を忘れていたのに気づく加藤。
”って・・・善行はん、中に居ったんちゃうーー!?”
その時なんともタイミング良く、心地よいテノール・・・声だけ聞くとどこの紳士かアナウンサーかという涼やかな声・・・ただし発する本体を見るたび加藤が”その風体、なんとかならんかいなオッサン”と心中ツッこまずにいられない・・・小隊司令・善行忠孝その人の声がした。幻獣との交戦中さえ些かも揺るがないその声が、僅かながら上ずっている。
「観念ですって? そうは、いきませんね」
「どないしよ・・・」
AM01:00。
5121小隊事務官・加藤祭は、小隊隊長室のドアの前で固まっていた。
AM01:02。
5121小隊事務官・加藤祭は、小隊隊長室のドアの前で固まったままでいた。
そこへ裏庭の方から、物音が聞こえて来た。まだハンガーに人が残っていたらしい。おおかた校舎はずれを抜け、校門へ向かうつもりだろう。足音の主が談笑しながら近付いてくるのを、加藤は涙目になりながら待ち受けた。
”この際、だれでもええわー。助けてーー!”
「あれ、加藤さん」
先に気づいたのは、速水厚志。
続いてポニーテールの少女がこちらを向いた。
「加藤さん、どうしたのーー」
”シイイーーーーッツ!!”
加藤は、ぽややんと柔らかな微笑を向ける少年に、大きくダメを出した。
そう、両手を胸の前で交差した。
それから口許に一本指を立てて、唇を突き出してみせる。
”シイイーーーーッツ!!!!!”
「厚志、あれは何の真似だ」
「舞、喋っちゃダメだよ。あれは静かにして、って合図だから」
加藤のジェスチャーを正しく認識したはずの3番機パイロット(操縦担当)と、全く意に介さない3番機パイロット(演算担当)は、しかし、それまでと同じ声量で会話しながら、加藤の方へ近付いて来た。
「ほんま、静かにしいやー!
善行はんの命かかってるかもしれへんのやでー!」
目の前まで来た二人に、加藤は器用に囁き声で怒鳴った。
夫婦パイロットたちはその剣幕に目をまん丸くする。
だが、加藤が事の次第を説明するやいなや、二人は迅速に行動を開始した。
伶俐な光を瞳に宿して・・・流石は芝村とそのカダヤ、というべきか。
速水の提案で、ドアの前から裏手まで場所を移した三人。
「僕は盗聴機の周波数合わせるから。舞はテレパスね」
「承知した」
「・・・盗聴機? なんや自分、そないなもん・・・まさか」
「司令の机だよ・・・だってココでは一番の情報源じゃない?」
と、さらりと言ってのける速水厚志14歳(将来の夢はお嫁さん)。
”こっわーーーー!!”
芝村には決して逆らうまい、と加藤が今さらながら決意している間にも、
「捉えた!」
盗聴機の捉えた音声が、他目的結晶により聴覚に直接送り込まれはじめた。
今や熊本全土を守護すると言っても過言でない、5121小隊。
その頭脳である司令が危機に曝されているとするなら、熊本を揺るがす大事件である。
深夜の小隊隊長室、その内部で何が幕を開けようとしているのか?
如何なる駆け引きが、あるいは惨状が、繰り広げられているのか?
約二名は固唾を呑んで、現状を把握しようとした。
・・・そして、次の瞬間、フいた。
『あ・・・や、めて・・・下さい』
『往生際が悪いですなあ、ミスター』
『あ・・・やだッ』
上ずりまくった、その声。
少年少女、約二名の、
表情がなくなった!
恥ずかしさがMAXになった!
大声を出したいけど、今後のためにも出さないでおこうと思った!
そして残る一名は、テレパスセルで確認した事実を端的に述べた。
「中におるのは善行と若宮だな。む?・・・どうした厚志?」
『もっと・・・優しく・・・下さい・・・あ・・・・あっ、無理っ』
盗聴機から伝わってくる善行の声は、なんというか、かなり切羽詰まっている様子で。
「なあ・・・これってやっぱ、あれやろか」
首と耳まで真っ赤にして、加藤はモジモジしながら聞いた。
「そうだね・・・絵的にはちょっと、あれだよね?」
速水は一見すると動じていないようなんだが、言ってることは的を得ていない。いや・・・むしろ、的を得すぎかもしれない。
加藤はというと速水の台詞から、思わず”絵”を想像してしまって激しく後悔した。夢に出そうだ。そして出たら「生涯悪夢ランキング」において堂々第一位が確定である。
『痛かったら、痛いと言ってもいいんですよ』
『こんなっ・・人に聞かれでも・・たら・・・ッ! 困る、でしょう』
『はい、いいえ。自分は一向に困りませんが?ミスター善行?』
軍隊の規律や制度にもっとも精通し、小隊内の皆から信頼を寄せられている若宮。
普段は、かつての教え子だという善行の背後に、影のように控えている若宮。
その彼が、善行を嬲っている。その声に残虐な喜びを滲ませて・・・。
意外、としか言い様がない。
『ほら、こんなに。御覧なさい』
『いや・・・で・・す』
『強情な人だ・・・変わらないですなあ』
『あ! あ・・あ・・・・あああ・・っ!』
善行の感極まった声に、加藤はまたフいた。
一方、速水はといえば、
「委員長の声って色っぽいよね。ゾクゾクするっていうか」
「厚志、寒いのか?」
「違うよ、舞(はあと)」
さすが芝村的カダヤ(この際、あまり関係ないが)。この状況を楽しみはじめている。
「ね。中、窓から見えないかな?」
可愛く小首を傾げながら提案され、加藤は返事に困った。
「それって、ノゾキとちゃう?」
「そうとも言うかも(はあと)」
しかし魅力・超Sランクの速水の提案を、加藤が断れるわけがない。
「ほな、きばるでー」
抑揚なく答えながら、
”なんでこないな、一銭にもならんこと・・・
いっそこの音声データ、その筋へ売ったろか?”
などと不穏な事を考えはじめている加藤祭(自称乙女)であった。
小隊隊長室には、小窓が一つあるきりだ。少年は嬉々として、少女のうち一人はへっぴり腰で、もう一人は特に何の感慨もなく、それぞれ顔を寄せた。ブラインドの隙間から見えるのは、隊長席の椅子に座った善行の後ろ頭と肩。それと、彼の足元に屈み込んでいる若宮の・・・頭?
『下からは・・・やだっ・・・痛っ!』
『上からじゃダメだと言ったのはあなたで・・・おっと。少し血が出ましたな』
『わざわざ言わないで下さい!そんな事・・・』
『おや?泣いてるんですか?』
”どこや? どっから血ィが出るッちゅうんや?!”
加藤は心の中でツッコミまくった。
それくらいしないと、この状況には耐えられそうもない。
『舐めときます?』
『バッ・・・・馬鹿おっしゃい!!』
「うわ、だいたーん・・・・」
「厚志。奴等は何をしているのだ?」
「さっき僕が舞にしてたのと同じだよ(はあと)」
「ななな、なぬ? では、あの二人はカダヤ同士と言う事か?!」
「そういうことに、なるんじゃないかなぁ・・・」
芝村舞は、速水にそう告げられるなり、激しい動揺を見せた。ボン、と音がしそうな勢いで顔が赤くなり、湯気まで出そうになっている。どうやら今までは、速水と加藤がなぜ困惑しているのか、全く理解していなかったらしい。
”自分ら、ハンガーで何しとったんや・・・”
加藤は二人の会話に聞こえない振りをしながら、遠い目をした。
『もうイヤです。これ以上は絶対、ダメです!』
善行のあげる声は悲鳴に近くなっていた。盗聴機を通さずとも、部屋の外まで聞こえている。
見れば彼は必死の形相で椅子の手すりに両手をつき、身を捩って逃れようとしていた。イヤイヤと振られる頭。しかし脚を若宮に押さえられているらしく、キャスターのついた椅子だけが後方に移動。
三人がなす術もなく見守る中、善行の体は椅子からずり落ち、その際にガツというかゴツというか、後頭部強打くらいはしてそうな音をたてて見えなくなった。
それから、
ゴンガン、ズズズズズ・・・、バタン、ギシギシ。
なにせ狭い室内で、二人の男、しかもかなりの体格を有する軍人同士が取っ組み合っているのである。凄まじい騒音が起きた。
『逃がしませんよ、ミスター』
『およしなさいっ! 本気で怒りますよ、若宮戦士!』
バタバタバタ・・・今度は立ち上がったらしく、走り回る足音。ドン、とほったて小屋同然の小隊隊長室全体が揺らいだのは、追い詰められた善行が、壁に押し付けられでもしたのだろうか。
「む、いかん!! これではまるで・・・」
芝村の末姫は、そこまで言って口をぱくぱくさせた。
「強姦、だね」
速水がぽややんと、危ない言葉を継いでやる。
「そうだ。たとえカダヤ同士であろうと、無理強いはいかんだろう」
「和姦だって、ダメだよねえ」
天使の微笑を浮かべて答える速水厚志を前に、
”で・・・ワカンてなんや・・・?”
加藤が考え込んだ隙に。
ついにヒーロー芝村舞が、動き出した。
正義のため、世界の平和と愛を(?)守るために立ち上がった!
ズン、ズン、ズン。
スキュラも道を譲らんばかりの剣幕でドアに近付くと、一気に開け放つ!
「若宮、この痴れ者がッツ!
それ以上の無体は許さぬ、恥を知れ!!」
閻魔大王もかくやという大音声で、芝村的叱責が炸裂した!
「へ?!」
「芝村さん・・・?」
それっきりしばらく、静寂が辺りを支配した。
”あかん・・・盗聴しとったの、バレてまうやん”
舞の突然の行動に慌てふためき、この場から消えようと画策していた速水と加藤だったが、猫をも殺すとかいう例の好奇心というヤツには、ついに勝てなかった。入口に仁王立ちした舞の肩ごしに、内部を覗き込む。
そこには、大柄な方の人物が、もう一人の人物の手首を掴み壁に押さえ付けた体勢で、首だけこちらに向け、ポカンと口をあけて固まっていた。
一人は司令官仕様のウォードレス・互尊を身につけた善行。戦闘から帰ってそのままだったのだ。流石に装甲や人工筋肉パーツは外しているので、体の線がさらされていると言えばそうだが・・・何処から見ても思いッきり無骨。あられもなくなったりなんて全くキレイサッパリしていない。ただ、頬をひどく紅潮させて目元までうっすら赤らんでいるのが、いつもと違うといえば違う所だろうか。
そしてもう一人の若宮はというと、これは全く普段通り。鍛えられた体に、やたらぴったりむしろパッツンパッツンという状態で、小隊制服を身につけている。トレードマークのツンツン前髪が今はぺたんと寝ているのは、シャワーを使ったせいだろう。
目下、暴行罪の被告人であるところのその男は、さりげなく善行から離れると、天に代わって悪を討つ!と気焔を吐いている芝村の姫の顔と、失望だとか安堵だとかやり場のない怒りだとかが混じりあった、なんとも複雑な表情を浮かべている加藤と速水の顔を交互に観察していたが・・・やがて、呵々大笑しはじめた。
「はは、は! 無体、ですな。確かにこれは」
そう言った男の手には、ハンカチのような薄いものが20センチ四方。どこからどう見ても100%、ウォードレスの下に吹き付けで着るラバーコートの材質と色をしている。ただ普段は溶液で溶かすものであり、そうした状態を目にする事は滅多にないが。
そして・・・その無理矢理剥がしたらしい表面に、一面についているのは。
「うげーー!! 自分、なんやそれ!!」
「なにって・・・毛ですな。毛。」
「イヤやもう、気色悪う! そないなもん、見せんといて〜!」
加藤は両手で顔を覆うと、その場にしゃがみ込んだ。確かに乙女が正視するに忍びない代物ではある。舞の方は別段動じていないが、それは彼女が乙女ではない、ということではなく、乙女である前に芝村だという事・・・だろう。たぶん。
「まさか・・・委員長?!」
速水の視線が、その場でただ一人ウォードレスを纏っている人物の足元に向けられた。
右足だけ、むき出しになった脛は、熱を持って真っ赤になっている。
ピンポーン、大正解。
間違いなく、そこから剥がされたものでした。
「そ、その・・・手入れする時間が惜しくてね。
このまま取ったら手間が省けると思いまして・・・」
「ここだけの話ですが・・・設備のない所や激戦地では、皆こうするのです。悠長に手入れなどしていられませんから。実際、自分などは痛くも痒くもないんですが、委員長はひ弱すぎです。鍛練が必要です」
「な、なに言ってるんですか。あなたみたいな鈍感すぎる人と一緒にしないで下さい!」
そう。ウォードレスを装着する者には、体毛の処理が義務付けられる。理由は簡単、引っ掛かって痛いからだ。速水自身は女性的で体毛が極度に薄いために、そうした目にあうことはほとんどない。しかしれっきとした成人男性である善行となれば、当然定期的な処理が必要なわけで・・・しかし、そんな些細な時間すら惜しんで仕事をしているのか。このワーカホリックは。
「委員長。ここは今、激戦地じゃないんですから。そんな無理しなくても、いいんじゃないですか?」
速水の声の言葉には、温かい同情の響きがこもっていた。
「そうですね。その提案、有り難く受け取っておきましょう」
善行も、さすがに突っぱねる事はできず、苦笑を浮かべ容れる。
「しかし、如何なる場面でも時間と手間を省こうとは、まこと殊勝な心掛けだ。
御主のような者を司令にいただいたこと、我らは嬉しく思うぞ」
舞はというと、善行が説明した効率面(?)というその辺りに、まこと感じ入ったらしく、何度も首を頷かせていたが、やがて若宮に向き直ると、その目を真直ぐに見据えて言った。
「若宮戦士。つまらぬ嫌疑をかけたこと、まこと済まなかった」
「ああ、気にするな。」
自分が懸けられたあらぬ嫌疑には、たぶん一生気づかないであろう若宮は、人好きのする笑みを浮かべながら芝村の謝罪を受け入れた。
こんなかんじで、場の雰囲気はほわわーん、と和みかけていたのだが。
「ところであなた方、こんな時間に何をしていたのです?」
善行のある意味当然な疑問に、少年少女若干二名は言葉を失った。固まって何も言えない。
腕を組んで、片手を顎に当てていた善行の顔が、見る間に赤くなり・・・次に青くなった。
「あんなタイミングで、どうして来たんです?
もしかして・・・
い、いつから聞いていました?どこでっ?!」
一同、無言・・・だったのだが。
「うむ。これでな」
嘘を知らない芝村の姫が指差してしまった。善行の机の死角に貼ってあった小箱。
「はぁ。なんです、これは・・・」
と、それを外して。
一瞥して盗聴機だと見破ったのだろう。
善行の表情が消えた!
その場はピシ、とラップ音でもしそうな緊迫感に包まれ、気温は絶対零度まで低下。
BGMとして流れはじめたのは、耳にたいへん心地よくない例のアレ。
だが、雰囲気というものを全く解さない芝村の姫には、そんなことは全く関係ない。
「大丈夫だ。我らのほか聞いた物は居らぬ。」
自分は常に正しいと思っている彼女の言葉と表情は、ここでも自信満々である。
「そ、そうや委員長。それに音声データなんかは、ウチらで処分しときますよってに」
加藤はさりげなく、あくまでもさりげなく、音声データなんて所を強調してみた。それが残っていると匂わせられれば、取り引き材料としては十分だろう。
「そうですよね、あれだけ聞くと・・・ですもん、ね。
あっ、やだな。僕たち別に、そんな変な想像なんかしてませんよ?」
「はあ、そうですか・・・・・
では、頼みましたよ・・・・・・」
とんでもない頭痛の種をまた一つ抱えるはめになった善行は、もう何も言う気になれず、青ざめたまま、溜息と同じトーンで返事をした。
「じゃ、僕達そろそろ帰りますね。委員長と若宮くんも、早く帰りなね?」
最後は魅力S爆弾・速水厚志の極上の笑みで締めくくり、三人衆は、さっさと退散して行った。その後、小隊隊長室に怒鳴り声が響きわたり、哀れな若宮が八つ当たりの標的になったのは、御想像通り・・・。
さらに次の日。
速水と芝村と加藤は、それぞれ一階級昇進した。
一方の若宮は作戦会議の席で罰が提案され、委員長権限で可決。
十日間の謹慎処分になったのだった。
〈劇終〉
す、すみません・・・・。
最後まで読んで欲しいと冒頭に書いたのは、ちゃんと「オチ」まで読んでいただきたかったからです。
だって「オチ」まで来ないと、思いきり誤解されそうじゃないですか!
20021215 ASIA