ちょっとおはなし



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 小田井真美(おだい・まみ)さん
 
=とかち国際現代アート展デメーテル事務局

 道内初の国際現代美術展「デメーテル」は、ことし7月13日から9月23日まで、帯広競馬場を主会場に開かれた。
 招聘アーティストは、蔡国強さん、オノ・ヨーコさん、川俣正さん、シネ・ノマドら10組。芹沢高志さんが総合ディレクターを担当した。
 作品展示以外にも、デメーテル学校の開講やさまざまなプロジェクトが繰り広げられたほか、市中心部で若手アーティストらによるCITY PROJECT、帯広市や周辺町村での地元アーティストによるワークショップなど、多彩な催しが行われた。

 事務局の一員としてサポートスタッフのまとめ役などにたずさわり、いまは札幌に住んでいる小田井さんに、話を聞いた。
 サポートスタッフには320人くらいが参加してくれました。
 帯広には、教育大がなくて、美術に関心のある学生の確保という点では最後までたいへんでしたが、主婦などがボランティアとしてがんばってくれました。
 これまで十勝には、スポーツや観光の催しはあったけれど、文化の大きな行事はあまりなかった。ある一定の市民層が動いてくれたのは、大きいことだったと思います。
 いまおもうと、夏は、デメーテル以外にもイベントが集中していて、忙しい人が多く、ボランティア確保は冬のほうが楽だったかもしれませんね。お客さんはこないかもしれないけど。
 ただ、みなさん、地域とか家族とかには
「えー、デメーテルにたずさわってるの?」
という感じで、あまり歓迎されなかったようで、そういう思いへの反撥が、来訪者への厚いホスピタリティーとして出たのかもしれません。
 とにかく、アーティストとふれあううちに、地域の人々が変わっていくその瞬間を、何度も目の当たりにしました。
 アーティストは、どんなところに行っても自分の作品のことを第一に考えてるし、まあいいんですよ。住民が変わるっていうのをみるのは、ほんとに幸せですよね。

 十勝の特徴なんでしょうか、イベントはただで、しかもなにかもらえるというのが普通らしくて
「1800円も入場料を取って、しかもなにももらえない」
というデメーテルにはかなり地元の風当たりがつよかったです。
 そこで、途中から、会場で牛の丸焼きをやったりして、臨機応変に中味は変えていきました。

 今回「環境アート」というかたちで発表していましたが、十勝にも「現代美術」に取り組んでいる人たちはいます。
 ただ、デメーテルの実質主催者であった十勝毎日新聞社がこれまでサポートしてきたせいなのかどうかは分かりませんが、十勝のなかで独特の発達を遂げていて、外に出て発表しようという気がほとんどないんですよ。めずらしいことに。十勝の野外で流木なんかを使ってつくる−という独自の世界をつくっています。

 十勝の外側に関心がないというのは、住民にもあるかもしれませんね。
 豊かで、生活への満足度がとても高い。
 だから、現代美術って、現代都市文明の産物みたいなところもあるから、十勝の風土にはかならずしも合っていないかもしれません。

 ただ、せっかくデメーテルをやったんだから、この名称をつかうかどうか、おなじようなかたちでやるかどうかなどは別にして「ポスト・デメーテル」というべき動きはあります。
 とりあえず、CITY PROJECTの継続と、新人アーティストの発掘が課題です。
 わたし個人としては、デメーテルの会場にたくさん子どもたちがつれてこられているのを見て、学校とアーティストの共存が、何かの形でできないだろうか、模索していこうと思っています。
 これから少子化で、都市部でも空き教室が出てきます。そういうところにアトリエを開いて、子どもたちと一緒の時間を過ごすということはできないでしょうか。
 音楽の世界だと、道内の何カ所かで協力し合ってアーティストをまねいて公演というかたちがありますよね。旅費も安くあがってとてもいいシステムなんですけど、なかなか美術ではそういうかたちでアーティスト自身を呼んでくるということができていません。
 市町村の予算もきびしいし、なかなか大変ですが、しばらくは北海道で、アーティストと一般市民や学校との橋渡しなどにとりくんでいきたいと考えています。
 
 オダイさんによると、オランダでは、アーティスト・イン・レジデンスではなく、地域に住みついて交流しているアーティストの集団に、自治体から補助が出ているという。
 なにかにつけて「欧米では」と言うのはイヤだけれど、アートに対する行政や社会のふところの深さという点では、彼我の差はとほうもなく大きいことを、しょっちゅう痛感させられる。

 北海道の東部(道東)は、第一次産業がしっかりしているので地域経済が豊か−という、日本のものさしではちょっと想像できない地帯だ。
 とくに十勝は、農家1戸あたりの耕地面積が、全国の十数倍もある。道内の他地域と異なり、屯田兵など「お上」の力に拠らずに開拓してきたという自負もあるためか、地域の一体感も強く、「十勝モンロー主義」という言葉もあるくらいだ。

 道内では、やっぱり札幌に作家が集中しているのだが、各地方の作家が、わりと札幌まで出てきて個展を開いてくれるのに対し、函館と十勝の人は地元だけで展覧会をひらいておしまい−という傾向が強いような気がする。
 それでも十勝での、絵画や彫刻、版画の人は、札幌で個展を開いたり中央の公募展に出品したりしているが、今回デメーテルの関連行事に参加した「現代美術」作家は、池田緑さんをのぞけば、まったくといっていいほど十勝以外で発表していない。札幌での知名度もほとんどゼロである。
 そういうわけで、デメーテルの関連行事は、緑ヶ丘公園が「十勝の現代美術作家」、CITY PROJECTが、札幌(一部地元)の若手、というふうに色分けされてしまい、十勝以外の道内の現代美術作家が出る幕がなかったといえるかもしれない。

 「札幌は居心地がいい」
と言うオダイさん。しばらく札幌に住むそうです。
 なお、ポストデメーテルのメーリングリストが発足しています。くわしくは、下の公式サイトから。

 関連リンク
デメーテル公式サイト
ほっかいどうあーとだいありー「十勝日誌」
十勝毎日新聞社(デメーテルに関する新聞記事、連載などが膨大にある)

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