その10
     ■ WANTED  お酒!
 
  お酒はバングラデシュでは、手には入れないと言うことで新郎も事前にウィスキィボトル3本を新婦(外国人はOK)のカバンで持参していきました。私も持っていくようにと指示されていましたので、ワンカップのお酒と焼酎(これは、バングラデシュにないものと判断して、日本のお酒紹介の意味をこめて)を持参。4日間で飲み干してしまったのです。お酒のなくなった高所恐怖症のあのお父さんは、「お酒、手に入らないの?」って毎日、新郎に聞きます。
 なんとか父の要望に応えようと新郎は、考えていたようでした。
  
   新郎の生まれ故郷を訪ねた帰りのことです。あとチュアランガ(新郎の幼友達やおじさんが住んでいる田舎町)まで6時間、まだ薄明るい夕方の田舎町です。
  ちょっと待っていてと私たち5人の日本人だけを車に残して、新郎は幼友達とどこかに一回消えて、戻ってきました。「お酒を譲ってもらうから、待ってて。」麻薬の売買につき合うかのような形相に変わっています。一時間経ちました。真っ暗になり、人だかりが 車を囲みます。道路は、人で埋まり、大騒ぎです。車のガラスはバングラデシュ人の手の平で埋め尽くされています。
  私は、一人、外に出ていましたので、車の中にいる初めて見る日本人の女性を大騒ぎで見物しているバングラデシュ人を観察することができ、なんだか愉快です。

      
   ■ 政府高官に招かれたけど

 
 2時間が過ぎます。
戻ってきません。人だかりはますます増えます。缶詰状態が続きます。運転手が怒って、怒鳴り散らしながら、動き出します。人の固まりも動きます。わーわー言いながらです。  その暗がりの中から外に出ている私の腕を引っ張るバングラデシュ人がいます。
「なんだ、なんだ」です。
「PLEASE COME OUR OFFICE!」
「WHY?」
「MY OFFICER INVAITE YOU AND YUOR MEMBER, PLEASE GET OFF THE CAR」
 
 そんなわけで近くの薄暗い明かりの3階建ての白いビルにみんなで行きました。これでこの喧噪から逃れられると5人は、本当にほっとしました。大きな部屋で大きな机の向こうにめがねをかけたインテリジェンスなバングラデシュ人が立ち上がって。
 
 この地方の県知事にあたる政府高官だったのです。日本人が来ていると言うことを誰かから聞いて、「私も会いたい。」と思ったと言います。静かさの中で、あのお菓子とミルクティをごちそうになって。握手して写真を撮って。それはつかの間でした。
      
      日本から比べたらとても暗い
      
 大勢がドアを越えてなだれ込んできます。止められません。たちまち大きな部屋は人で溢れました。(あとでわかったことですが、独立戦争で共に戦った人民を排除しないというポリシイ故ですって。)新郎が、入ってきました。「お酒が手に入った。」と耳元でささやきます。人の熱気の中をそうそうに引き上げました。お酒は、車の中でそっとお父さんと見ます。ウイスキィのポケット瓶に八分目ほど。これで今夜は、寝酒が楽しめる。そう思いました。
  
 真っ暗な国道をひた走り、何回か少し明るい田舎町を抜けた時でした。警官が、警棒を振って私たちの車を停止しました。なにやら運転手と話しています。道端に車が移動します。新郎が日本語で「荷物検査されるから。」声がうわずっています。お父さんが「お酒、お酒!」と声を殺して、慌てています。 私の隣でバッグの中から車の床の隅に瓶を隠します。
 同時に、ドアを開けられて警官が
「GET OFF」
はっきりと聞き取れる英語でした。後部ドアが開けられて、荷物検査が始まりました。警官4人と新郎と運転手の間でバングラデシュ語が飛び交います。
 私とお父さん。
「チクられたかなあ?」
「捕まったらどうなるのでしょうね。」
「我々外国人だからお酒もっていても、いいんじゃないの?」
「お父さんのポケットに入れれば良かったんですよ。」
新郎が真っ青な顔しているのに勝手な会話を二人で交わしました。みんなフリーズしています。
カバンが開けられています。
車の中に警官が入ります。
「……」の空気がみなぎります。
「OK」
ドアが閉められて…。
床に転がっていたポケット瓶は無事でした。車が走りだしてしばらくは沈黙が続いて。
  「このお酒、サトウキビで作ってあるんですよ。」
それが検閲後の最初の新郎の言葉でした。そのせりふが今、妙に耳に残っています。
 「何度ぐらい?」
 「なぬじゅうさんど」(ななじゅうさんど)
 新郎の日本語がこのときは、バングラなまりでした。
   ■さらに、やばいこと
 
   新郎とお父さんと私でその「サトウキビで作られたなぬ
  じゅうさんど」の地酒を飲むことになりました。
    臭いを嗅いで

    「これ、やばいですよ。」
    「なんで?」
    「73度どころじゃないですね。」
    「どのくらい?」「80〜90度のウォッカ並ですよ。」
    「火をつけてみましょうか」皿についで、火をつけます。        
  外気温は、18度ぐらい。すぐにポッと音がして青白い炎。
     飲んでみる。口の中にさーっと行き渡り、カッとする。
     私は飲むのを止めたのです。
 
     翌日、お父さんがベットで「うぶぶぶぶ。うぶぶぶぶ。」 
     とうなっている。
       「どうしたんですか?」
       「うぶぶぶっぶ。寒い、うぶぶぶぶぶ」
       「全部飲んじゃったんですか?」
       「うぶぶうぶぶ。」
       「じつは、飲んでいるときは、かっか 
        して最高だったんだけど、急に寒くなってきて、気がつい
        たら身体が震えちゃって…。」
     急激に体温が奪われてしまったらしいのです。
   
    私は「飲まなくて良かった」とつくづく思ったのでした。
    お父さんは、この後日本帰国までの2日間、
    「うぶぶぶぶぶ。」と言って、体調を崩し、日本に帰ってか
    ら三日間寝込んでしまいました。
      
       
        車のリアー硝子に北九州の会社名が
        書かれています。これは、スティタス

 
          ken  
 
やばいよ、

 やばいの話