■その7 窓の外は別世界
 
 
 
 深夜の到着から、騒がしい音に目を覚ましました。
バルコニーから外を見て、驚愕。驚愕です。
 驚いたなんてものではありません。
  
  国道は、警笛を鳴らしっぱなしのトラックやら、自動車やら自転車やら人力車(横須賀が米兵で溢れていた40年前頃、どぶ板通りで見た光景そのものです。)が、砂ぼこりの中を走っています。すぐ家の前の舗装されていない道路には、頭にかご(パイすけ=竹で編んだ直径1mほどのかごで道路工事現場でよく、使っていたもの)を乗せてバナナを運んでいく人。天秤棒で荷物を運んでいく人。家の反対側を見に行くと、スラム。竹の柱にゴミ袋のポリ袋を何枚も重ねつなげた、屋根が、まるでビニールハウスのように肩を並べています。湿地の中にあります。黒い痩せた牛が草を食べています。後からわかったことは、出稼ぎ家族のハンバだったのです。バングラでは家族も一緒に工事現場近くに暮らします。日本も、かってはそうだったと思い出しました。
 
 地面に1mほどの穴が開けられています。その隣には、竹の棒で囲った場所があり、人が座っています。これは、後で判ったのですが便所だったのです。ビニールと竹の家から、煙が上っています。朝食の支度をしています。裸足の子どもが走っていきます。女の人が、壺から水をかけています。髪結いをしているのです。
 
 少し遠くの広場では、赤い煉瓦を数人の女性と子どもが金槌で砕いています。砕いた煉瓦が小石のようになって山積みされています。その側には、竹の柱のビニールハウスよりも少し程度の良い、家が建っています。やはり、食事の支度。釜戸が見えます。地面から茶釜のような形で作ってあります。薪をくべてのものです。炎が見えます。
 (この情景は、夜になるとろうそくの光に変わりました。真っ暗な中に人の動く気配と話し声聞こえます。ろうそくの光が、ビニールハウスの破れ目から見えるのです。)
 8ミリビデオカメラを持って、屋上に急いで上がります。Nさんも後からついてきて「人に向けるとやばいよ、やばいよ。」とさかんに呼びかけます。まともにその光景をビデオに収めるのがはばかられます。でも、結局はしっかり納めました。
 「ああ、あの中に入り込んで行くんだ。」と思うと武者震いに近いものを感じました。

                      Ken