【バングラデシュ・レポート】

 

 ■その4
 「蚊とアッサラーム・アライクンの朝」


  新郎Sの夫婦の家に深夜の到着。鉄の扉を開けて、階段を2階まで上り、木のがっ
しりしたドアを開ける。床は、フラット。段差がない。靴箱はない。入ってすぐ
の右床に靴を脱いだ。みんなの靴が石の床に並んだ。私たち夫婦の部屋は、子どもの
部屋だ。12畳ほどの広さ。大きいベッドが一つ。
 うす茶色の蚊帳が吊ってある。倒れるように眠った。
 
 バングラデシュでの最初の朝。蚊帳の中にちょうど五匹の蚊。S中学校の便所の蚊
によく似ていた。ゆったりと蚊帳にへばりつくように飛んでいるようで止まっている。
どうもかゆかった。一匹、パチ。手のひらにべっとり赤い血。五匹を殺し終わっ
たら、手のひらが真っ赤かだった。ベットに蚊帳は初めての経験。私の中での「蚊帳」
は、もう小学生で終わっている。バグダットの砂漠の王子様は、実は蚊に悩まされて
いたようだ。それがベットの蚊帳。そんな油絵を思い出していた。でも、五匹も蚊が
蚊帳の中に入っているなんて、どういうこった、と腹が立った。部屋の壁にたくさん
の蚊が止まっているのに気がついた。バングラデシュは、今、冬である。
 窓の外が眩しい。鉄格子の外にガラス戸。日本ならこの逆。この発想の違いが気候
と生活の文化の違いの中から生まれたことは言うまでもない。何の違いだろうか。  
 これが外国に来る楽しみの一つ。
 
 顔を洗いに部屋を出る。昨晩はいい加減に挨拶をしたので、今朝は丁寧に。
 「アッサラーム・アライクン」私 (おはようございます)
 「アライクン・アッサラーム」新郎Sの兄 (おはようございます)
   神のおかげです。はい、神のおかげですと答え合う。
 日本で習っていった挨拶。
 でも、「グッド・モーニング」って、次の瞬間に言われてしまった。

                              Ken