ピアノの「音色」あれこれ 第6回 
            「近現代期 〜そしてピアノの未来 後半」
 
     録音技術の出現によって得られたものが極めて大きいのは
    言うまでもありません。
    また昨今のテクノロジーの進歩を見ると、生演奏と全く見分けが
    つかないような録音再生技術が近い将来実現する可能性も
    あります。

    しかし「録音再生が当たり前」の時代に生きる私たちには、
    知らずに見落としているものや失ったものがあるかもしれません。
    いつか、そうした面に注目が集まり、新しい音楽の胎動が生まれる
    日が来るような気がします。

          ◎電子音楽について思い巡らすことなど

     オネゲルが交響的楽章「パシフィック231」で衝撃的に
    蒸気機関車を描いたのが1923年。
    当時最新のテクノロジーであった蒸気機関車への感動と
    機械文明発展への関心がこの作品を生んだと言われています。
    今はご存知の通り、蒸気機関車はすっかりレトロな存在です。

     1950年代には、電子楽器を前衛的に作品に取り込む動きが
    起こりました。
    しかしこの熱もまた急速に冷め、忘れ去られて行きます。
    いま電子楽器を「前衛」だと感じる人はほとんどいないでしょう。
    いまや電子楽器は、私たちの周りに当たり前のように存在します。

     多くの家庭に、ピアノより廉価で省スペースの「電子ピアノ」
    なるものが普及しています。
    しかし今のところその音色はピアノに及ぶべくもありません。
    タッチによる倍音変化の点で決定的に劣っているのです。
    今のテクノロジーでピアノに匹敵する倍音変化が可能な電子楽器を
    製作したら、おそらく宇宙船並みに高価なものになるでしょう。

     いつの日か、現代の私たちが想像を絶する高性能電子楽器が
    ピアノを駆逐するときが来るのでしょうか?
    諸行無常、盛者必衰の理はピアノにもあてはまるのでしょうか?
    ピアノが誕生してからたったの300年弱。
    これは歴史の流れから見ればほんの短い時間です。
    地球環境問題の深刻化により、天然木を楽器に使用してはならない
    という国際条約が結ばれる、などということになったらどうしましょう?!

     でも、私はピアノを愛するものの一人として、未来の人々も
    またピアノの音色を愛し続けることを念じています。

    皆様、お付き合いくださりありがとうございました。


                         了


(このエッセイは株式会社プリマ楽器様発行の情報誌「NEWS88」にて、連載させていただいたものです。)

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