『ピアノの『音色』あれこれ』 第5回 
                 「ロマン期 〜花開くピアノ音楽」〜後編〜


                                        國谷尊之

◎近代ピアノ奏法の誕生

 
ショパンのタッチは「ビロードのよう」と評されました。

彼の描くパッセージは手に無理なくフィットするように考えられています。
指はそれまで多くの奏者が行っていたような「鷹のつめ」のような
構えではなく、むしろ伸ばし気味に鍵盤に置かれていました。
そうして腕の重みを指先に滑らかに伝えていくことにより、改良された
ピアノのカンタービレ効果をうまく引き出したのです。

また、タッチの微妙なコントロールが可能になり、フェルトハンマーの
発明による効果を最大限に生かすことが出来ました。

ピアノが奏でる持続音の魅力や音色の変化は、弦楽器や管楽器に匹敵する。
いや、むしろピアノでなければ表現できない魅力が無限にあるのだと
いうことをショパンは証明したのです。

◎ピアノ音楽の黄金時代到来

 
古典期までのピアノ曲は、もちろんピアノのための作品として素晴らしい
ものがたくさんあります。
しかしそれらは他の楽器でも置き換え可能であるか、または他の楽器を
用いたほうが表現しやすい面もあったのです。
また、オーケストラをわざとまねたような曲もしばしば書かれていました。

 ショパンの作品は全く違っています。
そこにはピアノでしか奏でることが出来ない表情があり、無限に変化する
色彩をまとって、ピアノ自体の魅力を楽しませてくれます。

 もちろんそれはショパンの作品だけにとどまりませんでした。

メンデルスゾーンは旋律楽器としてのピアノを世に問う「無言歌」を
大量に作曲しましたが、ここまで徹底してピアノに歌わせた曲集は
歴史上初めてと言ってよいでしょう。

シューマンもピアノの音色に複雑な心理描写を託し、ピアニストであった
彼の妻クララが、その作品に見事な色彩を与えて人々を魅了しました。

リストは超絶技巧だけでなく、水や光をも描写する音色の多彩さを
持っていました。

まさにロマン派の時代、ピアノ音楽の世界は大きく花開いたのです

                    続く           國谷尊之公式HPのTOPへ

(このエッセイは株式会社プリマ楽器様発行の情報誌「NEWS88」にて、連載させていただいたものです。)

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