『ピアノの『音色』あれこれ』 第一回

                                        國谷尊之

ピアノで『他の楽器をイメージする』ことへの雑感〜後編〜

 ベートーヴェンのピアノソナタにも、重大な疑惑があります。
 たとえば「テンペスト」Op.31−2の第2楽章は、どう見てもオーケストラのイメージ
です。
 17小節からの左手はティンパニ、18小節からの右手はホルン合奏、30小節からの
主旋律はオーボエというように、オーケストラのような音が次から次へと出てきます。

 それじゃあどうして彼は、この曲をピアノで書いたのか?
 そんなにオーケストラっぽくしたいのなら、最初からオーケストラで書けば
 いいのに…。

 これに対し、かのドビュッシーは皮肉屋の本領を発揮してこう言っています。
「ベートーヴェンのピアノソナタは非常にまずくピアノに編曲された32曲の交響曲
である。」

 確かにベートーヴェンの曲には、しばしば弾きづらい箇所が出てきます。
どんな指使いを考えても指が足りなくなるパッセ―ジ、無理な跳躍、腕が疲れる
トレモロ…。
 オーケストラで演奏すれば簡単なことを、何故こんな忍耐までしてわざわざピアノで
弾かなければならないのでしょう?

 今回は、やや裏道を通ってあれこれと考えてみました。
これららの「?」は、考えないで済ませてしまえば、何ということもないのかもしれ
ませんが、ちょっと考えてみると色々な視点があって面白いと思いませんか?

 次回はこれらの問題に答えを出すべく、具体的に考えて行きたいと思います。


                     第2回へ続く

(このエッセイは株式会社プリマ楽器様発行の情報誌「NEWS88」にて、連載させていただいたものです。)

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