海で

ひとつめ  ふたつめ


ひとつめ

子どものころから海はあこがれの場所だった。

水平線
やるせないような、せつないような
哀しいような、寂しいような
胸をきゅっと締め付けられるような思いに駆られて
いつまでもいつまでも見つめていた思い出がある。

これは私の描いた海・・・海のまぶしさ


ふたつめ

あれは小学生のころだったのか
それとも もう中学校にあがっていたころなのか
父の友人の家族と、その親戚にあたる茨城の民宿に泊まった。
民宿のお宅には高校生の男の子がいた。
目の細い人なつこい笑顔の
ちょっとくせっ毛のお兄さんだった。

いっしょに海に行くと両足を砂に潜らせながら
「ほら」
と、いとも簡単に貝を探り当てた。
海からの帰り道・・・へびはなび・・・
みんなで輪になってしゃがんで
「へびはなび?ここからヘビみたいに火が出るの?」
黒いちっぽけな炭のような固まり
生まれてはじめて見るへんてこな花火。
火をつけた・・・その時
「どかん!!」
お兄さんが叫んだ。
思わず私はしりもちをついて、
みんなはあははと笑った。
うらめしそうな私の顔をのぞき込んで
「ごめん。すっごく驚いちゃった?」
と微笑んで、その笑顔は、間違いなく私に向けられている、と
そう思っただけで胸の奥がふわっと暖かくなった。

それだけ。

お兄さんは吹奏楽をやっていたんだって。
私はただの二泊三日のお客さん。
なのに
今もあの日々を思い出すと
胸の奥の不思議な暖かさがよみがえってくる。

ちょうど大滝詠一の「君は天然色」が流行っていて
くる日もずっと民宿のロビーで
父のカーラジオで
あの不思議に気怠く甘い声が歌っていた。

少女といえるころの切なさが
今もこの旋律を口ずさむだけで
いちどきに溢れてくるのです。