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牛太郎 ありがとう

 

2003/5/4(日):東山小学校への手紙

はじめまして。5月3日、そちら、東山小学校の牛太郎の健闘ぶりを見させて頂きました。

 先日、HPの食情報のサイトを何気なく覗いていたところ、「へぎそば」という「ふのり」を入れたお蕎麦が小千谷市にあると偶然に情報を得ました。

そこで、連休中に友と食べに行ってみよう、と、3日、関越を飛ばして小千谷市に向かいました。
噂のお蕎麦屋さんにようやく到着し、店内に入ると、偶然にもそちらの地域での伝統文化、「牛の角突き」が見られるというポスターに出会いました。そこで、食後に、ぜひにと初めての「角突き」を見に出かけました。

 人対牛の闘牛ではなく、牛対牛の正面からのぶつかり合い
どの牛たちも精一杯の力で真っ向勝負に挑んでいるところ
勢子たちのいなせな身のこなしと掛け声
そして何よりも誰もが牛たちを愛して どの健闘も暖かくたたえている雰囲気に、心を打たれました。
とりわけ、東山小学校の牛太郎が入場したときの観客のみなさんの声援と
子どもたちの姿には胸が熱くなり、総合の学習の時間に牛太郎と関わりながら、この大きな仲間を愛し、郷土の文化を伝承している子どもたちの姿が目に浮かび、気がつくと涙がこぼれて止まりませんでした。

素晴らしい貴重な体験をしている子どもたちにも応援を送るとともに、こんな価値ある取り組みをなさっている地域と、学校の皆さまに本当に心からの敬意を表します。
その感動を分けていただくことができ、心からこの日の偶然の出会いと角突きに携わる皆さまに感謝いたしました。

 生まれて始めて見る角突きに、暑さも忘れて凝視し、中休みには 体に力が入って肩が張っていることに気づいて思わず大きくのびをしました。
戦いを終えてゆったりとつながれている牛たちの所まで行って

「ごくろうさん。ありがとう」
と声をかけて帰ってきました。

本当に素晴らしい1日となりました。
どうぞ、東山小学校のみなさん、これからもいい勉強を重ねて下さいね。 また、角突きを、地域の文化を守り続ける皆さまの今後ますますのご健闘をお祈り申し上げます。

機会を見て、またぜひ観戦に出かけたいと思います。本当に本当に、素晴らしい感動をありがとうございました。  


2003/6/30(月):お返事from新潟県小千谷市東山小学校

嬉しいmailが届いていた。東山小学校の6年生9名と担任の先生から。
2ヶ月近く前、この日記にも書いた。牛の角突きの感激を、牛太郎の「同級生」と、そのまわりで地域の伝統を継承しようとなさっている方々に伝えたくて送ったmail。そのお返事を下さったのだ。忙しい校務の合間に、担任の先生に御迷惑をお掛けしちゃったかなって思う。でも、返事を欲しいとは思っていなかったのに、やっぱり、気持ちが伝わって、通い合う心があったって事に感激。

土地は離れていても、私の知っている6年生とおんなじように子どもたちは子どもたちなんだな、嬉しいな、と思った。以下は、今日いただいたmailの抜粋。


いただいたメールを6年生9名で読ませていただきました。
自分たちががんばっている姿を見ていただいたり自分たちの自慢の角突きのよさを感じていただいたりして子どもたちと喜んでいます。
以下は、子どもたちが書いたものです。これからも引き続き子どもたちとメール等を通してやりとりをしていただけるとありがたいです。よろしくお願いします。

こんにちは。闘牛を見に来ていただきありがとうございました。
小千谷市には、闘牛のほかに、錦鯉もさかんです。今度いらっしゃる機会がありましたら、東山小学校にもぜひ来てください。

こんにちは。闘牛を見に来てくださり、ありがとうございました。
今度来る時は、ぜひぼく達に声をかけてください。

はじめまして。
牛の角突きを見て、感激してくださってありがとうございました。
僕達は、5年生の頃から角突きを見ていますが、 総合で勉強したのは今年からです。
牛太郎は、まだ年でいうと、4才なのに、がんばっているなぁと思いました。
また、闘牛を見に来てください。
次の闘牛は、7月6日です。
是非来てください。 メールありがとうございました。

闘牛をみている時
「よしたぁーい」と言うのは聞こえましたか?「がんばれ」という意味です。
そうすると、闘牛は目を真っ赤にして 「勝つぞ」という気持ちになります。
まだまだいっぱいやっていることがあります。
また、新潟県小千谷市に 闘牛や錦鯉を見に来てください!!

こんにちは。メールをくださりありがとうございました。
東山では、闘牛の他に錦鯉がさかんです。とてもきれいなもようや色をしています。また東山に来た時は、錦鯉も見てください。

こんにちは。5月に熱い声援をありがとうございました。ぼくたちは、総合では、今はあんまり闘牛のことを勉強してません。なので、闘牛のことをあんまり知りません。だけど闘牛の時に学ぶこともあります。これからも、熱い声援よろしくお願いします。

はじめまして。
先月の闘牛を見て、メールをくださって ありがとうございました。私達の活動を見てくださったり
闘牛の良さを知ってくださって、とても嬉しいです。
私達も、分からないことがたくさんあるのでこれからも学んでいきたいです。
ぜひ、また、ご家族やご友人と一緒に闘牛を見に来てください。
お待ちしています。

はじめまして。お手紙ありがとうございます。ぼくは、闘牛を大勢の人に知ってもらって 大勢の人に見に来てもらえるようにがんばっています。これからも応援してください。

はじめまして。メールをありがとうございました。こんなに感激してもらってうれしかったです。今、総合で地域のことを考えています。東山地域では、牛の角突きと錦鯉が有名です。今度またくる時は、錦鯉も見ていってください。僕は、もっと大勢の人に牛の角突きのことを、知ってもらいたいです。さようなら。


2004/5/3(月):越後闘牛!

今年も、牛太郎に会いに越後闘牛を見に行ってきた。小千谷の闘牛場で見る「角突き」。今年も勢子たちの勇姿と牛たちの闘志に感動して帰ってきた。
去年、偶然に出会った越後の角突きにすっかり心を奪われてしまった。
「ソラ!ヨシタアァァ!!」
男たちがかけ声を掛け、牛の鼻から綱を外し、空高く放り投げる。と、1000kg近い巨体を踊らせて牛たちが角をつき合わせる。ズン!ゴキッ!と、鈍い音が轟く。すり鉢状の闘牛場の中央には20人近い勢子たちの輪ができる。それぞれいなせにはっぴやつなぎを身にまとって、頭にはタオルのねじりはちまき。足下は地下足袋。手を叩き、声をあげて、牛たちに威勢をつける。砂を巻き上げ熱い鼻息とともに牛たちの格闘が始まる。大きな体は地を揺らすかのように砂をけり、頭をすりつけ、幾度も相手に角を突きつけて鈍い音を響かせる。目は真っ赤。
昨年の5月3日、こんなすごい文化を知らずにいたなんてと、仰天して帰ってきたのだった。そして今年、再び小千谷闘牛場を訪れた。

たくさんののぼり旗。牛たちに勢子たちに出されたご祝儀を紹介する条幅の垂れ幕がたなびく。初夏の暑さに加えて観客の熱気につつまれて昨年以上に大盛況の小千谷闘牛場。初日の今日はまた見事に晴れた。甘くて香りの良い樽酒も振る舞われて、akyaも上機嫌。
たまたまお隣に偶然座った初老のおじさんが、またかつての闘牛関係者だったようで、どう見てもにわか闘牛見物客の私に、話しかけてきた。
「ありゃね、横綱級の牛だよ。ああ、いい牛さあ。去年は組んでるときに角が折れたんだよ」
取り組み前に顔見せのため場内に連れてこられる牛たちを見ただけで、おじさんは名前も、去年の取り組みもすらすらと解説してしまう。すごぉおおい!おじさんおくわしいんですねえ!と、また調子の良いワタシにおじさん気をよくしたらしく、いっそう親身に次々と対戦する牛たちの解説をしてくれた。
「こりゃあね、いいケンカになるよ。コイツはいい牛だから。あの角がね、かけ方が上手いんだよ」
私がはるばる前橋から来たというと
「おねえちゃん、群馬から?この闘牛が見たくてかい?」
目を丸くして驚いていた。

時に血を見る真剣勝負なのだけれど、その中にそこはかとなく漂う牛たちへの愛情を感じる。勢子と牛主と観客とが一つところを見つめながら手に汗して本物の戦いの美しさに酔いしれている。この戦いは一方が力尽きるまでの決着をつけない。ほぼ存分に戦ったと見たところで、勢子長の合図によって、勢子が一斉に動き出し、牛の足に綱をかけ、両雄を引き離して素早く牛の鼻を掴む。血気盛んな牛によって地に倒される勢子もいる。牛同志の戦いのみならず、ここに割って入る勢子の勇ましく手際の良い様が、また一つの見どころだ。

ああ!堪能したゾオ!

牛太郎は可愛い顔して、今年も東山小学校の子どもたちに引かれて登場。今日1番目の取り組みだった。始め、戦うのなんかコワイよおというカンジで逃げまわってたりしてご愛嬌もありだったけれど、最後にはしっかりと額を会わせて組み合った姿はさすが越後の赤牛。来年はどんな姿を見せてくれるのかな。今からもう楽しみ。
あ、あのおじさんにも、また会えるといいな。


2005/6/5(日):男たちの背

母に付けられたあだ名は「泣けみちゃん」だった。微かに覚えている。悲しかったり淋しかったり悔しかったり怖かったり驚いたり、また、感激したり嬉しかったりしても、足の裏から何かがびりびりとせり上がってきて、抗しがたくあーんあーんと大声で泣いた子どもの頃。
そんな涙大安売りの体質はここの所とんとご無沙汰だった筈なのだけれど、今日は久しぶりに涙が止まらなかった。止めようがなかった。どうしようもないほど堰を切って落ちてきたのだ。感動が突如腹の底からわいてきて体中をふるえさせながらいつになっても過ぎてゆかなかったのだ。
小千谷の地で。

小千谷の闘牛。今日が今年の初場所。目に飛び込む人々の笑顔と自信に満ち充ち誇りに溢れた表情。臨時闘牛場のまわりには牛たちの名を染め抜いた幟がぐるりと立ちはためいて、早速に陣取った観客席の向こう正面には、今日の日をともに喜ぶ祝儀の披露が白く風に舞っている。ああ、大好きな小千谷闘牛だ。

聞こえてきた!懐かしい、と思わずつぶやいてしまう実況のおやじさんの声。歯切れ良く、あったかく、少しの訛りがこの上なくチャーミング。そのうえ品が良く、朗々としている。この声を聞くと、ああ、やっぱり、小千谷の闘牛っていい!と思わず背を伸ばして深呼吸してしまう。しばらくはビニルシートの上に正座して聞き惚れた。そして小さく口の中で、「お元気でご無事でいらしゃったんだ。良かった…」と失礼なことをつぶやいてしまった。
震災後のこの厳冬を、どんな思いで日々過ごされたことだろう。少しずつ雲が切れ、陽が差し始めた空を仰ぎ見ながら思う。天と地と自然に生かされているとはいいながらも、抗うことを余儀なくされ必死に生活を守り抜いてきたであろう小千谷の方たちの、この数ヶ月。私には想像を絶することだ。ここへの道中も、ざくりとえぐられたように崩落した山肌を見、歪みうねる舗装路を走ってきたのだけれど。尊い命や家や田を失い、きっとまだあの震災の前のような営みにはほど遠い方々も多いのだろうに。そこで、敢えて「角突き」を行わなければ、と立ち上がった方々の心意気と情熱とに胸が熱くなる。

土俵を塩と酒で清める。その清めの一升瓶を一人が掲げ持ち、そこへ次々と勢子がやって来てそれぞれ通りざまにくいっと口に含んで土俵に入る。その仕草が粋だ!土俵にそろった勢子がぐるっと輪になって取組を読み上げ手を叩いて確定する。さあ、いよいよだ。今年も開かれる小千谷の闘牛の地に、また私が訪れることができた幸せに心から感謝した。

手綱を引かれて牛がやってきた。盆の形の土俵に踊るように走り込んでくる牛もいる。東山小学校の牛太郎は3番目の取組だった。小学校の男の子たちが牛太郎を引いてきた。わあ!大きくなったなあ、牛太郎!

いつも半分身を引いてしまうような牛太郎が、今日はしっかりと額を合わせて角を突いた。
「がんばれえー!ぎゅうたろうがんばれー!」
子どもたちの声がニギヤカに響く。角突きを総合の学習で学んでいる東山小学校の子どもたちだ。うらやましい!こんな素晴らしい教材で学べるなんて。しっかり勉強するんだぞぉ!今年は東山小学校の子どもたちへのエールを、僅かでも伝えたくてほんのちょっぴり、ご祝儀を包んだ。
私はといえば、牛太郎を見ると、久しぶりに会った甥っ子が大きく成長して闘っているのを応援しているような気分になる。よし!いいぞ!牛太郎!エライ!エライ!なんだか応援というよりも褒めてあげたくなってしまうのだ。
「そら!牛太郎にご祝儀だ!」
取組を実況するおやじさんの声。東山小学校の子どもたちの陣取っていた席の方から「おお!」と、どよめきの声が上がった。私の名が紹介された。貧乏人の出したご祝儀ゆえ、本当に僅かなのだ…。そんな風に紹介されるとなんだか、恥ずかしくなってしまった。もっとたくさんお出ししたいのだけれどほんの気持ちで…の、「気持ち」にすら届かないくらい。でも、ハズカシそうにしながら代表の子がそれを受け取る姿を見ながらやっぱり嬉しくなった。

今日の取組はどれも見応え充分だ。牛たちの気迫に満ちた鼻息と、ゴッと鈍い音を立ててぶつかり合う牛の角、そして勢子の威勢のいいかけ声とおやじさんの絶妙な実況と。見事に引き分けられていく取組が終わるたびにおもわず手が痛くなるほど拍手してしまう。闘い終えた牛の鼻に付けた手綱をさっと長く伸ばし、場内を引き回す牛持ちの誇らしげに上気した頬。その姿を満足そうに微笑み顧みつつ先に引き上げていく勢子。そのとき、突然、私の中にかっとあつい風が吹き込んできた。とどめる隙もなく一気に涙が溢れてきた。
だから、私はこの角突きが大好きだ。大好きだ。角突きの牛たちの巨体に心躍らせつつ、視線はまた勢子たちの背中に釘付けとなっていく。闘う牛たちを囲む勢子の背がこの闘牛場の屋台骨に見えてくる。ソレ、いい角突きを見せてみろ!とばかりに
「ヨシター!」
と手を広げかけ声を掛け、牛の尻をぴしりと叩いてまた後ろ手に手を組み闘いを見つめる。「男」の背だ。若木のようだ。きりりと逞しい、けれど、暖かい。

これまでに、たくさんのライブやコンサートを楽しんできた。芝居や映画に涙したこともある。ロックフェスティバルは素敵だ。舞台に立つ私自身におくられる拍手には何度でも胸を熱くする。
けれど、やっぱり、何に一番感動するかって、日常の人々の暮らしに、激しく、というよりはじりじりと、いつまでも紅く熱をもつ熾火のようにともり続けるその土地の文化が、根強く息づき続けるというこの事実。それを誇りを持ってゆったりとまた愛情を込めて支え続ける人々の逞しい腕が、おおきく真っ直ぐな背が見えるということ。そこに強く強くこころをゆさぶられた。

帰りがけ、駐車場に戻ろうと歩いてゆくと、数名の若い勢子が談笑しながら足早にこちらへ歩いてきてすれ違った。
「なあ、あいつのヨシターはさ、なんかこんなでさ、あれ、オレ、思わず笑ったよ。ある意味新しいよな、あれさ…」
その会話を聞きかじって、あ、ふつうの若者だぁ。と思った。素敵なことだな。ふつうの若者が、ふつうに自然に自分たちの土地を愛している。当たり前のように文化が伝承されている。

ああ、小千谷の角突き!全てが見事に調和して素敵だった。


2006/5/3(水):GWの過ごし方:その五。小千谷闘牛!

さ、私の春のお約束。小千谷闘牛!
今年もぬけるような青空。白いご祝儀を紹介する筆文字が凛々しく記されたまっ白な条幅が何本も縄に結ばれ、はためいている。土俵まわりに色とりどりの幟旗。そして大好きな小千谷の人々…特に小千谷闘牛にはなくてはならない、司会役の親父さん、監物さんの声。牛持ちや勢子との親密さが伺えるアットホームな語り口。巧みにそつなくユーモアに溢れた見事な解説ぶり。しかも、この土地ののどやかな訛りとともにお人柄の温かさをかいま見る、素敵な話し手だ。この声を聞きに私は毎年この地の角突きに足を運んでいるのかもしれない。いいなあ。小千谷闘牛。

さあ、やってきた。清めの酒を含んで土俵に入り、今日の取り組みを確定する勢子の輪。何度見ても心がふるえる粋な姿。思わず立ち上がり席を離れて、その背にカメラを向ける。
はじまる!

「ヨシターィ!ソラ、ヨシタ!!」
鈍い音が響いて巨体の牛が額を合わせる。
勢子のかけ声に、その仕草に、牛を見たり勢子を見たり、はやる鼓動に咽せかえりそうに手を握りしめる。勢子長の手が挙がると、もう我慢できず思わず腰を浮かして喰い入るように見つめる。素早く牛の足に綱がかかる。若い勢子がするりと牛の斜め正面から身を入れて、さっと牛の鼻をとる。おお…!どよめきが起こる。二頭の牛が離されると、そこで私もふっと肩の緊張を解く。これが、大好きな角突き。

あ、来た来た、牛太郎!ん〜、なんだか元気がないなあ。今日は曙相手かぁ、ちゃんと額を合わせられるのかなあ…もうまるで我が子のようにはらはらしてしまう。今年の東山小学校の六年生は男の子が二人しかいないということで、その他の子は応援席から声を上げる。
「ぎゅぅうううたろぉぉおおぉ〜!がんばれぇぇええ!!!」
この取り組みだけはいつもほほえましい。どうかいつまでも牛太郎よ、元気でいてね。闘い終えて土俵を後にする牛太郎に思わず、「よくやったね」と、声をかけた。

どの戦いもみな引き分けて最後、満足げに綱をのばし場内を引き回す牛持ちの誇らしげな姿にまた胸を熱くする。今年は6月に小栗山の闘牛場に戻れるのだとか。何をおいてもこれは見に行かなくちゃ。
帰り際、駐車場に向かうと若い勢子達がありがとうございましたと笑顔で見送ってくれた。土俵から降りるとこれがまたごくふつうの若木のような男の子達で。いつものことながらうらやましくなる。
越後の山々はまだ白く厳しくそびえて麓にほんのりと山桜。萌え出ずる5月。
最高の一日だった。


2008/5/3(土):角突!角突!!角突!!!

巷はGW真っ只中で…え?海外へ?テーマパークへ?ショッピング?………NO!私はそんなもの全然興味ない。

そう、何があってもこれだけは欠かせない!今年も小千谷の角突き初場所へ。

この一週間は、校内研修や自分自身の勉強や、学習参観の準備や学級懇談会の資料作りや、落ち着きのない子どもたちの対応や、日々の学習への仕込みや…朝は鍵開け、夜は鍵締め状態で、狂ったように働きまくっていたのだが、なんの、5月3日が来れば、また小栗山へ行けるんだって……そう思うだけでもうワクワクして、疲れなんか吹っ飛んだ。そう、小千谷の角突き!

今朝は目覚めと同時ににパジャマをほうり投げて、おきまりの角突Tシャツに着替えた。朝ご飯を食べながら、昨夜からの頭痛にしかめっ面しながら、次にはうっかりにやついてしまう。まったくもう。ヘンなヤツになっちゃう。

牛たちの戦いぶりはもちろんのこと、私の視線は6割方が勢子の表情へ、背へ動きへと釘付け。牛たちを見守る本物の男たちの目と、おおらかできりりとした背は、ここでなくては見られない。
いつもつぶさに追ってしまうのは、「南平高原」とロゴの入ったターコイズブルーのつなぎを来ている勢子の方。んー…かっこいいなあ。思わずつぶやいてしまって、隣人に突っ込みを入れられる。いやいや。眼鏡の隙間から涙を何度もぬぐいながらの凝視。瞬きも忘れてる。自分に笑っちゃう。

最高!今年も取り組みを確定する円陣にまずはレンズを向ける。小栗山の闘牛場。今日はアツイ!

そして耳は9割9分この実況へ。名物司会者監物さんの名調子。流暢で語彙が豊かで機知に富んだ語り口。柔らかくて張りのある声。この方の名調子なくしては小千谷闘牛はあり得ない。越後訛りがサイコーに粋なアナウンスに、時に頷き時にクスっと笑いを誘われながら夢中になってしまう。

さて、来た来た。今年も牛太郎が来るや、
「ぎゅーうぅたぁーろおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
の聞き馴染んだ歓声が。東山小学校の子どもたちのかわいい声。牛太郎、大きくなったなあ。もう9歳かあ。

いつもなら監物さんの
「牛太郎はやはり小学校の牛ということで、どうも喧嘩があまり好きではない…」
と、お馴染みの一言が入るところが、今日は、おお!勇ましく相手に向かっていく。この展開には思わず会場がどよめいた。ぐいぐいと突いていく!すごい!牛太郎優勢!?
ところが、ふいに身を翻してたたっと走りだし、戦いから背を向けた。で、監物さん曰く、
「やるだけやって、あとはさっさと帰ろうと…」
どよめきが一気に笑いに変わった。いいなあ、この雰囲気。牛太郎っていつ来ても愛されキャラだ。
次回にはきっとまたご祝儀を持ってこよう。東山小学校の子どもたちが作成したというパンフレットを見ながら、同じく6年生を昨年担任していた私としては、文章をついつい添削したくなるお馬鹿な職業意識に気付いて苦笑い。同時に、こんな貴重な教材とともに6年間を過ごせる子どもたちと教師に羨望の念を禁じ得ず…そしてそれ以上に、心から応援したくなる。ずっとずっと角突きとともに成長して欲しい。子どもたちも。

戦いを分ける勢子たちの一瞬の興奮と緊張の高まりには、毎回こぶしを握りしめて、肩に力が入ってしまう。後半はカメラをしまい込んで、とにかく見入っていた。素敵だ!角突き。
伝統とか、文化とか、言葉にすれば小さくまとまってしまうことだけれど、生身の、真剣勝負の生き様の尊さが人々の心を熱し続けている。そして、私がなにより羨ましく思うことは、この土地ならではの、あまりに切実で必然な、しかも努力と研鑽を伴う「道楽」として角突きが成立し続けているということだ。牛と人間との親密な間柄と、人々の真っ向勝負な喜びがずどんと伝わってきて、見るたびに胸を熱くしてしまう。だから、私はこれからもずっと足を運び続ける。小千谷の地よ小栗山の魂よ!永遠なれ。


2009/5/3(日):小千谷角突き初場所

あざやかな幟の立ち並ぶこの場所に今年もやってきた。 ただいま、牛太郎。勢子の皆様。東山小学校の明るい声の子どもたち。おひさしぶりです。今年も皆さんにお会いしたくて、ここに帰って来ました。
   

春萌えの山あいに、牛たちの雄叫びが悠々と響く。う〜ん。深呼吸。

 始まった。今年も角突きの季節。

 

愛牛を見つめる真剣な眼差しと温かく威勢をつける心意気と。今年も変わらない、角突きの風景。
闘う牛たちを見つめる勢子の眼差しには、我が子の成長を見つめる父のあたたかさ、厳しさ…それだけでなく、ちいさく猛り傲る険しさも感じる。女の私には決して踏み込めない気配、作れない眼差し。だからこそ惹かれるのか。

 あ、来た来た。牛太郎と子どもたち。君たちがやってくるとふっと心が和むなぁ。

「ケンカはあまり好きではない。ケンカはいけませんよと、その教育がしっかりと身についている牛太郎で…」

ぱっと突いたその瞬間を逃さずカメラにおさめて…。その次の瞬間には、お約束どおり、たったと逃げ出しちゃった。牛太郎、キミってば本当に可愛い!

会場の雰囲気を一気に和ませる…。
これって数多く名牛はあれども牛太郎にしかできない得意技!

考えてみれば、角を突くのは牛の本能、というが、牛たちは実際、どんな思いでここに来るんだろう。
本能として、ただ目の前の相手を突き、ひたすらにその衝動を果たすことに力を尽くしているのだろうか。自分の力を試す、とか、闘いぬくことの喜びに浸り涙する等というのは、どうも人間の本能ならぬ煩悩の部分かもしれない。闘い終えた牛たちの額に血がにじみ、息も荒く立つ様子を見ると不思議な気持ちになる。
やあ、キミ、楽しかった?辛かった?もっと角突きたい?あのさ、ここに来るのって楽しいの?どうしてあんなに頑張れるの?ねえ、相手の牛じゃあなくて、人間をやっつけちゃおうか、なんて思わないの?
少なくとも、牛たちが飼い主の声に応え、同じ土俵に立って威勢よく突き通す様子を見ると、それを嫌がってはいないように見える。それは本能?牛たちの気持ちを人間のものさしで理解しようなんてのが無謀であり無意味なのであろうけれど…。逃げ出す牛太郎を、優しい、とか、可愛い、とか感じとるのも、勢子の「ヨシター」の声に一気に相手の額を目指す丑蔵の心意気に 「忠誠」なんて言葉が浮かんじゃうのも、私という人間の傲慢さに過ぎないのかと…わかっていても心は揺さぶられる。牛たち。本当に素晴らしい。

  
 

そして今日もみごと闘いは分けられて会場に深いどよめきとため息とが響き、大きな拍手にとり変わる。
この瞬間に牛たちの舞台は人間たちの舞台であったと思い知る。この人間の動物を介した想いの大きさには、いつも深く考えさせられる。
牛たちに己の想いをかけ、闘いを見守り取り仕切る、真に男たちの文化。角突き。

さて、今日もありがとう。牛太郎、また来るね。
そっと額をなでながら、ね、牛太郎、またね、と声をかけたら、んんん〜と返事してくれた。
ありがとう牛太郎。
じゃ、またね。


2010/10/03(日):やっぱり大好きなキミに会いに


それにしてもどうしてこんなに穏やかな瞳の君たちなのに。
んんんん〜とひくく鳴く牛太郎のおしゃべり。真似してんんん〜〜と返したら、また、んん〜と。
角突きの日。牛太郎は角突きの日が嫌い?コワイ?でもみんなが応援してくれてわくわくするよね。
ドンって行って、ぴゅっと逃げちゃうけど、でもそんな牛太郎が好きなんだけど。私は。

ちょっと早くに小栗山に着いた。早速に観戦の場所を確保したら、今日はちょっと散歩に出た。いつもの牛太郎のつなぎ場に行って、おしゃべりした。いつもよりのんびりと話が出来て嬉しかった 。けど、もっともっとずっとそばにいたかったな。

てくてくと歩いていくと共同牛舎建設中。すごく立派な建物が仕上がりそう。すごいなあ。

さらにてくてく。この先の観音堂に行ってみたかったの。


木漏れ日がきれい。すごく静か。ずっと前から知っていた場所のような、不思議に懐かしい気持ちになった。角突きの日の今日は特別に御開帳している様子だったので、くつを脱いでご本尊を拝ませていただいた。びっくりするほどあったかい雰囲気のお寺。木喰上人の作られた仏様たちが、みんな優しく笑ってる。
 

実物は撮影をはばかられたので、掲示してあったポスターの方を記念に撮影させていただいた。しんとしてやわらかな空気。あったかい。本当に、あったかいお顔の仏様ばかり。木喰上人のお人柄がうかがえる。もっと他にも巡ってみたいな。日本中にたくさん木喰さんの作られた仏さまがあるそうだから。

そして、角突き。もちろん、素敵だった。牛たちも、勢子の皆さんも。今日は私の座ったところの真後ろに、恐らく紅桜さんのお祖父さまとおぼしき方々が座ってらっしゃったんだと思う。ふり返って見るのははばかられたので、ずっとお声だけ聞いていた。そう、今日は解説付きの角突き。いつもの監物さんの名司会に、勢子OBのサブ音声付き。思いがけずの特等席。ふふふ。らっきいでした。


みごと鼻をとってガッツポーズの、その一瞬前。声にならないさけび声が、わたしのなかにひびいている。
肩にぎゅっと力が入ってて今も背中がじんじんしてる。すっごく。素晴らしい一日。


2011/08/15(月):小千谷経由なナツヤスミの日

Sappyと角突き。ねえSappyは楽しかった?
20代半ばの若モノに角突きの「よさ」がいかほど伝わるのか?と思う一方で、
いやまあ、二胡を聞いたら即はまっちゃうようなSappyだから、およそ普通の20代とは同じくくりには入んないよね。と。
……ま、本人が行きたいって言い出したんだから、付き合ってもらっちゃお、と割り切って…私はモチロンすっごく楽しい1日だった♪

Sappyのフォレスターで小千谷へ。いろんなおしゃべりしながらのドライブ。
え?このシートぐいーんって動くよ?
あれ?もう関越トンネル?
お?もう越後湯沢SA?……ホントあっという間に小千谷に着いちゃった。 はやーい。

駐車場もまだゆるゆるに空いてる10:30。。。

入り口で頂いた取組表には24番と26番の抽選番号。はや!こんな数字をもらったのは初めてだなぁ。
入り口でおじさんが、
このくじは牛肉があたるよぉ〜
と。
え?この番号は当たります?とふざけておいて、でも何だかこんな早い数字だと本当に当選しちゃいそうな予感。
もし当たっちゃったらどうする?家まで持って帰れるのかな。生のお肉だよね?あ、持ってきた飲み物のクーラーバッグを空ければよい?…取らぬ狸の皮算用…いや牛のお肉ですが。
暑さ覚悟の日向ど真ん中に席を確保して木喰さんをお参りしたり金倉そばを食べたり、牛乳アイスを食べたりして…

さて始まり始まり…

牛たちは暑さが苦手で本来は余りケンカなどしたくないと…監物さんのいつもの解説を聞きながら、でも今回は活躍する若牛が多くて、序盤からなかなかに楽しい展開。
中休みの抽選会では…意に反して300番代や500番台の当選番号が次々に発表されて…しゅん。。。
ねえ、きみ、もっと箱の底の方から引いてー。ふたけた・ふたけた・ふたけた…!と、抽選担当の東山小学校の男の子に向かって、遠くの客席から勝手なお願いをつぶやく。
そのうちに「4番」と呼ばれて、Genさんが、「あれ」というお顔に。取組表を掲げて景品を受け取ってた。
わああ。Genさん、あたり〜!何だか嬉しくなっちゃった。
結局、23番は当選したのだけれど、24番は来なかったなあ…あ〜あ、ざんねん。私はまた来年のオタノシミ、です。

後半戦はケンカの苦手な牛太郎登場。応援の歓声だけはおじや闘牛ナンバーワンの牛太郎。そして…今日はなかなかの頑張りを見せてくれた。なぜかどの牛よりもはらはらさせられる牛太郎の取り組み。逃げずにいてくれてよかった〜と胸をなで下ろす。ほんと希有な存在です。キミってやつは!

えらいえらい!がんばったねえ。牛太郎。

そして26芝締めくくりは三代小金石vs平野屋の黒牛対決。一触即発の力比べ。ふうううとため息と共に拍手。 紅桜さんの気合いの入ったかけ声身のこなしとM1さんの落ち着いて的を得た牛たちのあしらいと。やっぱり小千谷の角突きは良いな。力強くて素朴で粋で。
 

今日の取り組みは、牛たちがもっともっとと突きあう最中を分けるような場面が多くて、勢子の皆さんの活躍も凄かった!うわー、そこに入っていくの?と思う場面がしばしば。なのに、ほんの一瞬の機を見てするっと鼻をとってしまう腕のよい勢子達にうわぁ…と感動しきり。

帰り道、Sappy情報では関越がUターン渋滞ということでR17を選択。で、道の駅マニア?なSappyのチョイスで道の駅小千谷「ちぢみの里」に立ち寄り。二種類のにんじんジュースの飲み比べ。うん。これで元気になった。と。そうか。


2011/09/11(日):闘牛サミットin小千谷

この約3週間くらいの間にSappyのびゅんびゅんな走りを数度経験したおかげで、何だかスピードに対しての感覚が麻痺してる。 よし、この感覚の残ってる内にびゅんびゅん。…ワタシにしてはあり得ない高速走行。で、超早く小栗山に到着しちゃった。

一人で行ってきました。闘牛サミット。9月とはいえ、まだまだふつーに真夏の陽射し。うっかりTシャツで出かけてしまって後悔…別に日焼けしたくないわけではなく…素肌を刺す太陽があまりに痛くて…。でもやっぱりいつもの日向ど真ん中の席に座りたくなっちゃうの。やっぱり、角突きは青天井を頂いて見る物だと。

開始まで1時間以上もあるので、大好きな牛たちにあいさつしたり、日陰で今日の取り組みを眺めてわくわくしたり。

それにしても暑いなあ。持ってきたクーラーバッグのペットボトルがどんどん空になる。。。

そうこうしていたら、どうですか〜水ようかんー…の声。わぁーおいしそう。本部席裏のいつもの日陰で、今日は水ようかんが振る舞われていました。わーい。遠慮なく頂きました。あまぁい。おいしい〜。

東山小学校の子たちも、今日は たくさんのお客様をお迎えしての出で立ち。太鼓や電子ピアノもでているので、何が始まるんだろう…と思ってみていたら、そろいの法被で歌と演奏の披露。かわいいなあ。いいなあ。私、本当に心から、ここの学校の子になりたい。教師になりたい、ではなく。


さてさていつもの取り組み確定があって始まり…。

牛太郎は今日もなかなかにがんばっていたと思う!いつまでも牛太郎は牛太郎らしくみんなに笑顔を運んで欲しいな。

この日はこの東山小学校の子どもたちと牛太郎との交流を描いたノンフィクションの児童書を書かれた掘米 薫さんがいらっしゃっていた。私も本にサインして頂いちゃった。
(…帰宅後に一気読み。)

角突きを見ているといつも夢中になって手に力が入っている自分に気付くのだけれど、時々、ふっと思うのは、この牛たちともお別れの時が必ず来る、ということ。
もしも牛太郎が本当に闘わなくなったら…。東山小学校から牛太郎が去る日を、子どもたちはどう受け止めるのだろう。 大人たちは子どもらになんと言って説明するのだろう。
私には…なかなか耐えられそうにない現実なのだけれど…。

自分の牛のたたかいを、じっと見つめる牛持ちの目、その鋭さと温かさ。
牛たちをみまもり威勢をつける勢子達の声、たくましい背中。一気に綱をかけ鼻をとりに走るたたかいを分ける時の緊張感。みごと分けて誇らしげな表情。その全てが私をとらえてはなさない。私がこの小千谷から感じとるかけがえのない気持ちは、何度訪れても変わらないのだ。

生身の牛と人間の関わり合いがあまりにも親密で、また同時に厳しい。あたたかい。でもきっぱりとその立場は隔たっている。牛たちを誇りに思いつつも、やはり、角を突かせるのは人間なのだ。その、人間の魅力が私を呼び寄せているのだと思う。

なんなんだろう、この気持ちって。