夏見正隆「海魔の紋章」シリーズ(全4巻)
「レヴァイアサン戦記」や「わたしのファルコン」などで一躍デビューした作者の新たなシリーズ。
どうやら、クトゥルー神話に題材をとった作品らしい。 かって、この地球の覇権をかけて死闘をくりかえした二つの超生命体。ひとつは外宇宙よりこの世界へと 「食料」をもとめてやってきた。これがどうやら悪玉。 そしてそれに対抗して、地球を守ろうとしたのが、海魔と呼ばれる存在。100万年以上前にくりひろげられ たこの死闘、かろうじて海魔が勝利し、侵略者は地中ふかく封印され、無力化した。 以来、長い年月が流れ、地球の守護者を任じてきた海魔も滅亡寸前。 そのためか、かって封印したはずの侵略者の眷属の動きが活発化し、「大いなる宿主」の復活が間近とな っている。 そんなある日、「海魔レヴァイアサン」は、航空機事故で海中に落下してきた少年少女に自分の生命力をわ かちあたえ、「養子」とすることで命を助ける。侵略者から地球の生命体を守護すべく「海魔」の力をさずけら れた二人は地表へと送りかえされるのだが・・・。 その二人の少年少女、よりによって侵略者の眷属が支配している大企業の経営者の家族、というのは何か 意味があったのか。長女は敵の手におちている状態だし、かろうじて救出された弟はいまだ真の力の覚醒に はほど遠い状況であったりする。 こんなことで、地球の平和はたもたれるのだろうか。はなはだ疑問である。 次巻以降の龍造寺瞬少年の成長と活躍に期待したく思う。ま、少し望みがあるとすれば、高校の女性教師な のだが、龍造寺少年が秘かに恋している女性が身近にいる、ということだろうか。 とんでもないトラブルにまきこまれた女性にしてみれば迷惑な話だろうが、本巻のラストでもその女性を助け るために、瞬少年は実力以上の力を発揮できたみたいだし。年頃の未熟な少年が、恋した年上の女性にい いところをみせるついでに、結果として世界を救った・・・というストーリーもあってもいいかもしれない(笑) あと一人、瞬少年の助けになるキャラとしては、本来、姉弟を殺しにきた傭兵で、結果として少年と女性教師 を救うこととなった「死に神クリス」という歴戦の兵士だろうか。 この作者の作品には、元気で活発な女の子はわんさと登場するのだが、どういうわけか、男で印象的なキャラ というのは珍しいといえる。今後の活躍に期待したいものだ。 (1998,6/20) (注釈 その1) 上記の記述、1998年6月、シリーズ第1巻を読んだ直後ネットに書きこんだもの。クトゥルー神話に題材 をとった処を指摘した点、我ながら慧眼だった(笑) 2000年、全4巻で完結した。 余韻をもたせた終わり方だっただけに、続編を読みたく思う。全4巻のタイトルは、以下のとおり。 第1巻「海魔の紋章」 第2巻「レヴァイアサンの少女」 第3巻「哀しみのアクアブレード」 第4巻「さようなら瞳の女神」 (以上 ソノラマ文庫) じつを云うと、当初の予定では、3巻完結ということだった。が、それがもう1巻追加されることになった。 こういう風にどんどん話しがふくらむのは、この作者の特徴らしいが、読者にとってそれが 魅力的なストーリーの場合、歓迎すべきことだろうと思う。 主人公の少年、龍造寺瞬は「海魔」のパワーを継承し超人となったが、そのコントロールに成功していると はいいがたい。地球を救うスーパーマンとしてはまだまだ半人前なのだ。 もっとも今回はようやく、「男」になったし、「死神クリス」ことクリストファー・ニューバートという兄貴分もでき たことだし、おいおいたくましくなってくれるだろう。 作者の予定では、こんごの瞬は休学している学校に登校もするそうだし、怪物との戦いとはべつに、そこ でさまざまな桎梏をも経験せざるをえない。地球を救うスーパーマンも楽じゃない、ということか。 そして、ついにというか、ようやくというか、最終巻である。 ・・・かくしてついに、「海魔の紋章」シリーズは完結した。 全4巻、ちょっと間が空いたときもあったが、この作者にしては迅く完結した方だろう。 第1巻の感想の時、主人公の高校生が超人にしてはいささか頼りない、てなことを書いた記憶があるが、本 巻で復活してきた大怪物(クトゥルー)をまえにしてもやはりイジイジと悩んだ少年だった。 こんなんでよく、敵に勝利し、人類がたすかったものだと思う。主人公が悩み多きお年頃とはいえ、もっとしっ かりしたキャラだったらこちらも安心して読んでいけたのだが・・・。 ま、それはともかく、楽しい時間をありがとう、と作者と小説の登場人物たちには云いたく思う。 とくに、敵役の「人形使い」の指揮官の一人、ウラジミール・スタインベルクは僕は好きなキャラだった。 「海魔」と合体した瞬少年を、部下の仇とばかり執念深くつけねらった彼であるが、最後のさいごで明らかに された「海魔」のもくろみからするならスタインベルクはむしろ、人類の側にたっていたといえるのではなかろ うか。 本人もすべてがおわったら人間社会へと還っていくことを望んでいたのかもしれない。できたら、クリスととも に、ぶじに帰還してもらいたかったのだが。 しょうじき、これに付け加えることもそうそうない。 できたら瞬たちの後日談を読んでみたい、ってことかなぁ・・・。 |