日本言語学会第117回大会11/01/1998

行為を数える助数詞「回」と「度」の比較

飯田朝子


1. はじめに
 日本語助数詞は、数詞に付与され、数えられる事物の特徴に基づいて様々な意味分類機能を持つ。原則として数詞を伴い、単独では用いられないことから、接辞の一種であるとする見解が一般的である。1 これまでは、形状に基づく助数詞が中心に研究が行われてきた2が、本発表ではこれまで注目されなかった行為(出来事を含む)を数える助数詞「回」と「度」3に焦点を当て、それらの意味と用法について、共起する数詞や数えられる行為の性質との関係を出現頻度の観点から検証し、比較する。



2. 「回」と「度」の置き換え
・助数詞「回」と「度」は、互いに置き換えができる。


(1) 私はその本を3{回/度}読んだ。

・用法の差異が認められる場合もある。

(2) 来年は祭りが2度やってくる。申年と寅年に諏訪地方で行われる三大奇祭の1つ、御柱祭。田村さんは21歳の時から7回連続で参加している。(yom1997/11/21)

(3) 高校時代に付き合っていた彼の夢を、結婚後間もなくから数百回見ています。高校卒業後は、友達として2、3度会ったこともありました。(yom1998/01/01)

・「回」と「度」は共に行為の数を数えているにも関わらず、自由に助数詞を置き換えられない場合がある。

(4) SDI参加問題、第3{回/*度}の関係閣僚協議へ (asa1986/07/17見出し)

(5) 後方で発砲音が連続 3{回/?度}するのを聞いた。

(6) 3{度/?回}の体験をよい学習として今後に生かしたい。(yom1998/01/16抜粋)

(7) 2{度/??回}あることは3{度/??回}ある。 4

・「回」と「度」は意味と用法が完全に一致している助数詞ではないことがわかる


3. 調査方法
 このような「回」と「度」の差異を記述する為に、本発表では主として新聞の見出しと本文記事のデータベースで検索を行った。5 データは1997年10月から1998年9月まで、日本の主要新聞4社の日本語紙面の記事及び広告をインターネットWeb上で公開しているもの(全データは、テキストファイルに入力、総データ量約10750KB)である。6

略称 新聞名      URL
asa 朝日新聞 http://www.asahi.com/

yom 読売新聞 http://www.yomiuri.co.jp/
mai 毎日新聞 http://aulos.mainichi.co.jp/all-index.html
nik 日本経済新聞 http://www.nikkei.co.jp/

 数量的な検索は慶応義塾大学内で公開している朝日新聞の見出し(1945年〜1989年)と朝日新聞の記事本文(1985年〜1998年9月)のデータベース7を利用した。
 各例文の末尾に付されている略称は新聞社を、数字は掲載された年月日を表す:
  (例)(asa1997/11/15抜粋)=朝日新聞1997年11月15日付けの記事の抜粋
(asa1997/11/15見出し)=朝日新聞1997年11月15日付けの記事の見出し


4. 「回」と「度」が置き換えられている例

(8)a. 舞台装飾会社、2回の不渡り 推定負債は7億円(asa1994/04/14見出し)

b. 東烏山カントリー、2度の不渡り 負債総額210億円(asa1998/07/18見出し)

(9)a. 土井隆雄さんは、米中部時間三日午前三時過ぎから、予定外の2度目の船外活動を行い、来年から開始される国際宇宙ステーションの建設と保守に使用するクレーンの操作性などを検証した。(yom1997/12/03)

b. 2回目の船外活動を実施することになった土井さんは「1回だけでもすばらしいことなのに、2回も与えられて本当に光栄」と元気に語った。 (mai1997/12/02抜粋)

・基本的に「回」と「度」の意味と用法は重なる部分が多いという立場を取る。


5. 置き換えに制限がある場合
5.1. 接頭辞との共起の制限

 「度」は、接頭辞の「第」や「全」等と共起することができない。(cf.(5))


(10)a. 日本の現代作品を演奏全10回のフルートコンサート(asa1994/10/04見出し)

b. 日本の現代作品を演奏 *全10度のフルートコンサート

5.2. 数詞の制限
・「回」は小数及び0(ゼロ)と共起するが、「度」は小数と共に用いることができない。

(11)a. 週3.5回のみそ汁、単身赴任サラリーマンの平均(asa1997/11/13見出し)

b. 週*3.5度のみそ汁、単身赴任サラリーマンの平均

(12)a. 地域図書館の利用0回が42.5% 地方自治体調べ(yom1997/10/27見出し)

b. *地域図書館の利用0度が42.5%

・「回」も「度」も10以上の数詞と共起する。8

(13) スケートの男女総合(天皇杯)は北海道が3年連続38度目、女子総合(皇后杯)も、北海道が18度目の優勝を果たした。(asa1998/01/29)

(14) 仏の顔も3度 寺荒らし男を逮捕 100度もだまし"仏罰"(asa1985/06/24見出し)

「回」 265688例(100%) 「度」 36292例(100%)
数詞 「回」 うち、「度目」 「度」 うち、「度目」
1 46346(17.44%) 4233 6102(16.81%) 248
2 46024(17.32%) 7504 12169(33.53%) 5824
3 30558(11.50%) 4439 5788(15.94%) 3100
4 18929( 7.12%) 2897 2300( 6.33%) 1362
5 18733( 7.50%) 2266 2704( 7.45%) 746
6 13944( 5.25%) 1568 1330( 3.66%) 574
7 16237( 6.11%) 1351 1099( 3.02%) 407
8 12716( 4.79%) 1146 1378( 3.80%) 295
9 10474( 3.94%) 975 769( 2.19%) 236
10 6451( 2.43%) 761 522( 1.44%) 145
11以上 38780 (14.60%) 11730 2130( 5.87%) 192
100以上 3248( 1.22%) 1780 1( 0.01%) 0

表1: 数詞と「回」「度」の出現数

・「回」の方が「度」よりも7倍以上出現頻度が高い。9

・「〜目」で出現する率は、「度」の方が「回」よりも2倍以上多い

・10以上の数詞と共起するのは、「回」の出現例全体の約15%を占めるのに対して、「度」は6%未満となっている。特に「度」は数詞の2と共起しやすいといった数詞による偏りが見られるが、「回」は数詞が増えるにつれて徐々に出現割合が落ちていき、目立った数詞の偏りはない。

5.3. 一定の期間内における行為の頻度や繰り返しを数える場合
 一定の期間内における行為の頻度や繰り返しは「回」で数え、「度」は受容しにくい。始点と終点が規定されているもの、年、月等の時間枠の広いものから、分、秒等の狭いものにいたるまで時間幅の長短は問わない。


(15) 毎年この村では祭りを2{回/?度}行う。

(16) 床屋さん、仕事もカット連休が月2{回/?度}の店増える(asa1989/10/31見出し)

(17) 藤沢市の駐車違反防止条例スタート週2{回/?度}の指導(asa1995/09/15見出し)

(18) 毎日2{回/?度}の生中継 TVKテレビが計画(asa1989/03/11見出し)

(19) 1秒に1{回/?度}以上の光の点滅は、単に刺激を与えているのに近い。
(asa1997/12/18抜粋 ポケモン事件の記事より
)

・それぞれの期間幅に分けて出現頻度を見ると、圧倒的に「回」の方が多い。

期間

3回

3度
1年・年・毎年 548 29
1カ月・月・毎月 200 7
1週間・週・毎週 575 11
1日・日・毎日 199 5
1時間・時間・毎時 226 6

表2: <期間>+3{回/度}の出現数

・「度」は、行為の反復が不確定な場合、あるいは反復が不規則な場合を数える。

(20) これまでは、1、2カ月に1度、さみだれ式に開かれる口頭弁論に出席し、相手方と書面を取り交わすのが裁判の基本型だった。 (asa1998/01/09)

(21) 男子生徒は9月以後、頭痛などを理由に週に1、2度は学校を休んでいた (asa1998/01/31)

5.4. 行為の連続、行為の合計数・分割数を言う場合
・連続、分割して行う行為や、多くの反復を伴う行為の回数をまとめて数える場合には、助数詞は「回」が好まれる。

「回」 「度」 数詞 +回にわたって +度にわたって
〜連続(して) 2084 71 2 553 588
〜続けて 1381 93 3 486 87
(合)計〜 3229 95 4 283 19
〜にわたって 2404 704 5 243 9
〜に分けて 2266 104 6 138 1
〜ずつ 1846 347 7 102 0
〜につき 589 0 8 89 0
〜あたり 328 64 9 57 0
10 71 0
11以上 382 0

表3(左):行為の連続、合計、分割の表現における
表4:(右):数詞と「〜にわたって」の表現における「回」と「度」の出現数


6. 「回」と「度」で数えられる行為の分類

・「回」と「度」が共起する行為を表す名詞の分類を試みる。

行為

「回」

「度」

行為

「回」

「度」
優勝・栄冠・V 345 4029 大会・イベント等 2857 114
連覇・制覇 3 82 練習・稽古 108 16
経験・体験 4 142 会談・会議・協議 1525 463
挑戦 358 1206 核実験 244 124
復活 2 26 地震・揺れ・噴火 859 532
結婚・離婚・再婚 30 128 出場・参加 516 388

表5(左):「度」を用いる傾向にある名詞の出現数 

表6(右):「回」を用いる傾向にある名詞の出現数

・「回」よりも「度」で数える傾向が強いのは、定期的に継続・反復したり、次回を予測することが困難な行為である。

(22) 若乃花の連勝を止めた「横綱のプライド」にかけて、来場所以降に10度目の優勝を目指す。(asa1998/03/23)

(23) 男子は朝野健二(国士舘ク)が3年連続3度目の優勝。(asa1997/11/21)

(24) 同会長は「彼の4度目の復活は難しい」と話し、WBCの世界戦3連敗中の辰吉が負けた場合の再挑戦に難色を示した。(asa1997/11/21抜粋)

・大会やイベント、練習、会談等が定期的に行われ、あるいは予め開催数が分かっている場合、「回」を受容する。

(25) 南北朝鮮会談は準首脳級2回の方針 韓国紙報道(asa1990/07/15見出し)

(26) 農業や農村の魅力話し合う 農業交流館 3回のセミナー開く(asa1998/01/21見出し)

(27) 国際世論の強い批判をよそに、フランスが再開後6回目の核実験を予定通り強行した。(asa1996/01/29)

(28) 関東で3回の地震 東京などで震度2(asa1995/01/09見出し)

(29) 伊豆沖群発地震 大島で3度目の微震(asa1984/09/10見出し)


7. 結論
 新聞記事から採取した用例を参考に、共起する数詞や行為の性質との関係を出現頻度の観点から、行為(出来事)を数える助数詞「回」と「度」の意味と用法を比較した。
 「回」と「度」は、かなり広い範囲で置き換えが可能で、基本的に「回」と「度」の意味と用法は重なる部分が多いが、置き換えが自由にできない例もある。「回」から「度」への置き換えが困難な例の目立った特徴として、

 @接頭辞「第」「全」を付与して数える場合

 A共起する数詞が小数及び0(ゼロ)の場合

 B規定された時間枠(期間)の中で規則的に継続・反復するものの頻度数をいう場合

 C行為の連続、行為の合計、分割を数える場合

 D次回の行為が予測可能な場合
 
が挙げられる。

 BCDの「回」と「度」でそれぞれ頻繁に数えられる行為の比較をすると、「回」は規則的に継続・反復する性質の強い行為の頻度や行為の合計数・分割数を数えるのに積極的に用いられる助数詞であり、一方、「度」は、定期的に継続・反復されなかったり、次回の行為を予測するのが困難な行為、あるいは予め行為の数が分かっていない場合に用いられる助数詞である。「度」が10以上の数詞とあまり共起しないのは、「度」が規則的・継続的に反復される動作を積極的には意味分類していない助数詞だからだと考えられる。慣用表現やことわざの「2度(*回)あることは3度(*回)ある」「3度(*回)目の正直」も、単なる言語習慣だという以上に、「度」の意味が反映されていることが分かる。


参考文献
Iida, Asako. 1996. "Classification and categorization: semantic properties of Japanese classifier -hon." Tokyo University Linguistics Papers (TULIP) 15. 113-141.
Lakoff, George. 1987. Women, Fire and Dangerous Things: What Categories Reveal About the Mind. Chicago: University of Chicago Press.
Matsumoto, Yo. 1986. "The Japanese classifier -hon: A prototype-semantic analysis." Sophia Linguistica 20/21. 73-81.
日本放送協会 編 1989.『NHK放送のことばハンドブック』日本放送出版協会
林 大 編 1986.『国語大辞典 言泉』小学館
松村 明 編 1981.『日本文法大辞典 』明治書院