第21回 ヨーロッパ西の果ての幸福島

スペイン・カナリア諸島(その1)

 その昔、コロンブスが西へ西へと航路を進めアメリカ大陸を発見したのと同じように、
この海外見聞録も日本から西へ西へと飛んでいったら、どこまで行けるのだろう。
そう思って今回はヨーロッパへと旅立ちました。ヨーロッパの西の果てを目指します。


 ヨーロッパの西の果ては?と聞かれれば、ポルトガルを思い浮かべる人もいると思いますが、ポルトガルはヨーロッパ大陸の西の果てであるだけです。正確には最も西にあるヨーロッパの領土はスペイン領のカナリア諸島であることは意外に知られていません。地図でその位置を見ると、アフリカ大陸の左肩に点々と見える7つの島で、スペイン本土からは南に1000km以上も離れています。かつては緑に覆われ、南の楽園であったことからカナリア諸島は"幸福の島々"という呼び名になりましたが、現在は砂漠化が進み、乾燥した気候の島になっています。ヨーロッパ人のリゾート地としてとても有名な観光の島です。

カナリアの気候と天気 気候は一年中同じで、アフリカ北部と同じ砂漠気候。湿度がとても低いため、昼間は暑く(27C〜32C)、陽射しが強いですが、夜は気温がぐっと下がり肌寒いくらいです。天気も毎日同じで、テレビではスペイン本土の天気予報を放送しているものの、カナリアでは誰もそれを見る必要を感じません。私が滞在したグランカナリア島(Gran Canaria)の場合、北側にある都市ラス・パルマス(Las Palmas)は朝から晩までいつも曇り(地元の人はこれを「ロバの腹(Donkey's Belly)」と呼んでいます)なのに、島の南側に行くといつも晴れのビーチが広がっています。車で北から南に縦断して行くと、はっきりと「ここがロバの腹の縁だ!」と分かるくらい、雲が島を覆っている様子が見られ、1つの島でもいろいろな天気が体験できます。

カナリアの水事情 雨がほとんど降らないカナリアでは、水はとても貴重。生活用水は、海から汲み上げた海水を濾過しているために飲料用には使えません。歯磨きのときに蛇口の水を口に含むと塩分を感じます。飲み水はポリタンクに入れてスーパー等で売っていますが、未だに使用済みポリタンクを回収してリサイクルするシステムが整っていないので、下町の住宅街の道端には飲料水用ポリタンクが散乱していました。

カナリアの交通 カナリア諸島には鉄道がありません。住民のほとんどはマイカーか公共のバス(現地語で「ワワ」と呼ばれる)で移動します。しかし、日本のように車は車庫証明が必要ないので、路上駐車が基本。町中のほとんどの路肩は車に占領されていて、人々は自分のアパートのなるべく近い路肩に駐車できるように空いたスペースを探すのに必死です。また、車ばかりでなく島の間の交通も発達していて、港から頻繁に大型フェリーが就航しています。特にグラン・カナリアからテネリフェ(Tenerife)島への便は良いようで、買物をしに船に乗る島民も多いということです。

カナリアの人々 カナリアには、島に住んでいた先住民、アフリカ大陸から来た人々、そしてスペインから移住してきた人々の3つの源を持つ人達が住んでいます。スペイン本土(the Peninsula)の人とは言葉(方言)や文化、習慣などの違いもあるようで、カナリアの人は「あ、あの人はスペイン本土から来た」とか「あの人はカナリアの人間だ」ということが瞬時に分かるのだそうです。カナリアでバカンスを楽しむ観光客のほとんどはヨーロッパ(スペイン・フランス・イタリア・ドイツ等)から来ています。東洋人はほとんど見かけることがなく、ましてや日本人観光客には滞在中誰にも会いませんでしたが、水産関係の仕事をしている日本人は若干いるようで、町には日本人が経営する本格的な日本料理店もありました。英語は都市部ではある程度通じますが、都市を離れたり、年配の人、観光に携わっていない人にはほとんど通じません。カナリアの人々はとても積極的で親切ですので、簡単なスペイン語ができると便利です。治安も場所を選べば安全な印象でした。

なんでまたカナリア諸島に? その理由は簡単で、「友達に会いに行きたかったから」の一言に尽きます。カナリア諸島の中で最も大きな都市のあるグランカナリア(Gran Canaria)島には、私が1995年のアメリカ・ニューメキシコ大学で開催されたLinguistic Instituteに参加した時、1日だけ休日に寮の仲間とドライブに出かけました。その時のメンバーに行ったカナリア諸島出身のキャロリーナさんがいました。日帰りのドライブではありましたが、彼女にはカナリア諸島の魅力についてたくさん印象的な話を聞かせてもらい、遠くてもいつかは行ってみたいなぁ、と漠然と思っていました。彼女とはアメリカでお互いの連絡先を交換し、その後はクリスマスカードの交換を2年した程度で、ここ数年はほとんど音信がなくなっていました。そしてようやくスペインに足を伸ばすチャンスがあり、私は思い切って、藁にもすがる思いで、その連絡先に日本からハガキに「スペインはカナリアに行くので会いたいです!」と書いて出しました。本当に返事が来るのか半信半疑ではありましたが、2週間後にそのハガキを受け取ったキャロリーナさんから奇跡的にメールが来て、彼女とラス・パルマス空港で会う約束をすることができたのです。→カナリア市内で撮影した2ショット。左後ろの木は今なお原始的な姿を留めるDruggle(ドラッグル)と呼ばれる木。

ヨーロッパを北から南へ、斜めに大縦断 日本からカナリアに行くことはできませんが、ヨーロッパの主要都市から乗り継いでマドリッドに行き、そこからカナリア行きの飛行機に乗るのが最もオーソドックスなルートです。成田からカナリアまでの所要時間は、空港での待ち時間にもよりますが、20〜24時間くらいかかります。
 今回、私はやや変わったルートを取りました。まず日本(成田)からKLMでオランダ・アムステルダムに降り立ち、そこからフィンランドに飛び、しばらくヘルシンキ郊外に滞在しました。その後、フィンランド人がリゾートによく訪れるというカナリア諸島に行くというルートなのです。ヘルシンキからカナリアまで6時間で行けるフィンランド航空(Finnair)の直行便もあるということでしたが、生憎それは週に1便(水曜日)だけで、私の旅程には合いませんでした。

過酷なトランジット 仕方なく、現地でスカンジナビア航空(SAS)の提携している会社の正規の航空券(75,000円ぐらい)を買って、上にある地図で示したように、ヘルシンキ(フィンランド)→フランクフルト(ドイツ)→マドリッド(スペイン)→カナリア島(Las Palmas:ラス・パルマス)と飛行機を3便乗り継ぐことになりました。まさにヨーロッパを北から南まで斜めに縦断する形で、のべ11時間の大移動となり過酷なトランジットとなりました。(事実、帰りのルートではカナリア→マドリッド→ミュンヘン→ヘルシンキというルートになり、ミュンヘンでとうとう荷物が私に追い着けず、ヘルシンキに戻ってもトランク無しで一夜を明かす派目に…)

ようやくカナリア入り 時差を差し引いてもラス・パルマス空港に降り立ったのは夜の12時近くになっていました。飛行機にもほとんど現地の人かヨーロッパの旅行者で日本人はおろか東洋人も私1人しか乗っていませんでした。いろいろ荷持検査を受け、最後に出口に出ました。果たして本当にあんなハガキ1枚で5年ぶりにキャロリーナさんに会えるのか?という大きな不安を抱えていました。ところが… 「アサコ!?」という呼びかけと懐かしい笑顔に迎えられて「キャロリーナ!」という返事をしながら、二人は空港ロビーで強く抱き合ったのでした。

ようやくカナリアに着いたところで、次回に続く。

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