3.中央線と支線の鑑定

 今回、中央線と支線の幻の駅で鑑定を行うのは、鉄道統計年報に入場料金が記録されている以下の5駅です。

 @万世橋、飯田町、牛込(中央本線)
 A東京競馬場前(中央本線・支線)
 B海ノ口(大糸線)

(1)万世橋、飯田町、牛込

 戦前の鉄道統計年報には一部の年を除き、入場料金が記載されているので、各駅の入場券発行枚数を鑑定できます。図1は、万世橋、飯田町及び牛込の大正元年(1912年)度から廃止迄(万世橋は昭和16年度迄)の入場料金をもとに、1912年から1918年は1枚2銭で、1919年からは1枚5銭で発行枚数に換算して、グラフ化したもの(1927年(昭和2年)は入場料金の記載なし)。


                     図1.年間入場券発行枚数の推移


 発行枚数の推移が大変お見苦しい図になりましたことを深くお詫びします。でも、これを見れば、一番売れなかった牛込駅でさえ、年に数千枚もの入場券を発行していたことが分かります。一番売れていた飯田町駅では、旅客営業廃止(昭和8年7月15日)の年は3ヶ月間の営業期間にもかかわらず、1万枚以上も発行されていたのです。最終日に発行された飯田町駅入場券の券番も大きな数字ですよね。
 この3駅の入場券発行枚数は、昭和40年代前半頃までに無人化された駅の発行枚数とは比べ物にならないほど多かったため、今もなお、かなりの枚数が生存しているものと思われます。が しかし、万世橋駅でも亡くなってから65年以上が経過していますし、また、戦災に遭い失われた切符も多かったので、みんな大変貴重な切符かもね。

(2)東京競馬場前

 在りし日は、日本で一番長い駅名だった東京競馬場前駅。続デタラメ切符鑑定団新春ネットツアー企画2005でも ご紹介したように、この駅の入場券には次のような風聞があるそうな。

 @最終日付(S48.3.31)の30円券が大量に発行された。
 A20円券は1年間に40〜50枚くらい発行されていた。
 B赤帯10円券は、誰も見たことがない幻の入場券。

 幻の赤帯入場券の発行枚数を求めて、駅年表様のHPで公開中の鉄道統計年報を閲覧していたら、ついに 入場券不思議発見! 昭和36〜39年度「鉄道統計年報(東京支社)管理局編」に東京競馬場前駅の入場料金が記載されているではございませんか(下表参照)。

入場料金(円) 残存10円券
S36 S37 S38 S39 合計 印刷時期 発行年度 券番
東京競馬場前 48.4/1廃止 0 0 0 0 0
(参考)
東山梨 45.10/1無人 60 30 40 210 340 東京2期 40.5/21 88
青梅線・石神前 46.2/1無人  20 20 80 260 380 東京2期 40.5/2 69
五日市線・大久野 46.2/1廃止 70 10 80 140 300 東京2期 41.1/4 95
八高線・竹沢 10 50 90 150 東京1期 40.9/24 34

 並み居る中央線と支線のチョー不人気駅を従えて、堂々、オールゼロの新記録樹立。戦後の入場券発行枚数は、昭和30年代後半になって、徐々に増えてきたことからすると、昭和35年以前に東京競馬場前の入場券が売られた可能性は極めて低いと考えられます。ということで、赤帯入場券はホントーに発行されなかったようです。かたや、競馬が開催されない時は、お化けがでそうな不気味な佇まいで、入場券鉄ちゃんには不人気でしたし、こなた、競馬開催時には、不正乗車を警戒した駅長さんに入場券の販売が禁止されていたのかもね。

(3)海ノ口

 同じく、駅年表様のHP で公開中の鉄道統計年報(昭和27〜30年度)に全通前の大糸南線・海ノ口駅の入場料金が記載されています(下表参照)。

入場料金(円) 残存10円券
S27 S28 S29 S30 合計 印刷時期 発行年度 券番
海ノ口 39.10/20無人 0 0 0 0 0
(参考)
島内 80 230 70 190 570 新潟1期 40.10/3 222
中萱 60 20 50 110 240 新潟1期 40.2/25 138
信濃木崎 0 20 70 50 140 新潟1期 41.1/7 235
白馬大池 23.9/25開業 0 0 0 20 20 新潟3期 34.3/14 21
小海線・甲斐小泉 0 0 0 10 10 新潟2期 39.8/18 296
小海線・甲斐大泉 45.10/1無人 0 0 10 10 新潟2期 38.7/28 161

 海ノ口駅入場券の発行枚数は、昭和31年度以降のデータがないので、鑑定は困難ですが、もしも、10円券が存在するならば、白馬大池と同様に新潟印刷3期券以降かと思われます。相模線で鑑定したように、白馬大池、甲斐小泉及び甲斐大泉が新潟1期券でないのは、10円への運賃改定時には設備せず、昭和28年〜昭和30年にかけて印刷発注したため、駅毎に違いが生じたと考えるのが自然です。ところで、昭和4年度の鉄道統計年報を見て驚いたことには、開業したばかりの海ノ口駅に入場料金1円也が計上されているんです。もしかして、鉄の古老が開業初日券を20枚も買い占めたのかもね。