1.発行枚数と券番

 入場券に限らず、切符には発行した順番を示す番号が印刷されている。硬券入場券時代には、裏面に4桁の番号が印刷されていた。この「券番」は 入場券の発行枚数を示す重要なバロメータでもあるのだ。発行枚数の多い人気駅では、券番も大きくなり、入場券の様式も初期のものは使われなくなるけれども、発行枚数の少ない不人気な駅では、非常に券番が低く、初期様式の入場券が運賃改定後も使われることがあり、入場券の発行日と券番が分かれば、発行枚数を求めることも可能になる。例えば、以下のような入場券を手に入れたとする。

新家 表 新家 裏 香具山 表 香具山 裏
長陽 表 長陽 裏 牧山 表 牧山 裏

 (1)新家駅(阪和線) ⇒ 券番0020の大阪印刷場1期券。印刷されてから10年以上経過した後に発券されたもの。単純に考えれば、入場料金が10円に値上げされた昭和26年11月から20枚しか売れなかったことになる。阪和線の場合、戦前の民鉄時代の入場券を使ったとは考えられないし、10円に値上げした後も、5円券を長期間使っていたとは考えにくい(5円券は発行しなかったかもしれない)ので、ホントーに10年間で20枚の可能性が高いかも。

 (2)香具山駅(桜井線) ⇒ 券番0035の大阪印刷場1期券。昭和34年10月発行の券番0003の入場券が存在することから、4年間に32枚の売上也。香久山駅の場合、戦前の5銭券を昭和30年頃迄売っていた可能性は否定できないけれど、この1期券は遅くとも昭和28年までに印刷されたものと考えるのが自然かも。と言うことは、No.3券は、印刷されてから6年以上も売られずにいたことになる。

 (3)長陽駅(高森線) ⇒ 券番0022の門司印刷場A型1期券。昭和28年に博多駅で発売された門司印刷場A型2期券が存在するので、この1期券は、印刷されてから12年間も売られずにいたことになる。

 (4)牧山駅(津山線) ⇒ 券番0038の広島印刷場A型1期券。昭和41年まで、牧山はとても不人気な駅だった。これは、鉄道統計年報に記録されたS27年度入場料金(0円)、S29年度入場料金(40円)、S37年度入場料金(20円)からも明らかである。

 以上のように、運賃改定後に各印刷場が印刷した初期の入場券の発行日と券番を調べれば、その駅の入場券発行枚数を推定できそうです。「初期の入場券がない駅はどうするんだ!」とのご指摘がありそうですが、心配ご無用。ここで鑑定対象にしている入場券は、殆んど全てが不人気な駅で発行されたものであり、末期の入場券は非常に少ないんです。と言うわけで、前置きが長くなりましたが、鉄道統計年報と chabin の独断と偏見と見た目を駆使して、幻の駅の入場券発行枚数を鑑定してまいります。最初は、昭和37年に無人化された相模線の宮山、倉見、社家、門沢橋、入谷の鑑定から。