サンタ・クロース(黒)

 サンタ・クロースは悩んでいる。資金が底をついたから。今年は事業の失敗により、子供たちにあげるプレゼントを買う資金が無くなってしまったのである。
 今日はクリスマス当日。サンタ・クロースの焦りは頂点に達している。何年もやめていた煙草に火を点け、それをふかしながら部屋を左右へうろうろ。彼には焦ると爪を噛む癖があるが、今回ばかりは指まで噛んでしまっている。指からの鮮血が床を濡らしていることに、彼はまだ気づいていない。

 「世界中の子供たちが私を待っている。待っているのだ。くそったれ。どうすればいい」

 うろうろし始めて一時間ほどたった時、彼の足はぴたりと止まる。彼はある考えを思いついたから。

 「ある子供の家から、おもちゃがひとつ無くなる。他の家の子供にそのおもちゃがプレゼントとして、届く。それを繰り返せば・・・・」

 彼は最低な考えを思いついてしまう。かわいそうな老人は、なおもつぶやき続ける。

 「おもちゃがひとつ無くなったところで、子供は馬鹿だから気づかん。私が負担するコストも・・・・ゼロ」

 彼はつぶやきながら、自然と笑みがこぼれてしまう。
 彼はすぐに洗面所に行き、自慢のひげを剃る。髪も黒く染める。そしてクローゼットに行き、長年愛用してきた赤い衣装をぼんやりと眺める。

 「こんなんじゃ、目立つよね」

 そう独りごちて、おもむろにカラースプレーを取り出すと、いつもの衣装に噴射。執拗に何度も。

 彼は黒い服を着込んで、家を出る。外は猛烈な吹雪だったが、慣れたものだ。ものともせずに街を走る。

 「メリークリスマス」

 黒いサンタ・クロースはそう儀礼的につぶやいて、一軒目の煙突に素早くもぐりこむ。        

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