調査報告書                       2003年12月1日


       


 我々は長年に渡る努力の甲斐あって、この度初めて「満腹中枢」を撮影する事に成功しました。

 撮影場所はパキスタンのヒスパー山群。その中でも高峰であるクンヤンチッシュの7100m付近です。比較的、山頂に近い所であったと記憶しています。

 我々が緊張を押し殺しながらカメラを向けると、彼は即座に我々の行動に気付き、こちらに視線を向けました。そして、柔らかぁいクリーミーな笑みを口元に浮かべたのです。次の瞬間、彼はそれこそコーヒーに溶けるミルクのように、私の手の中のコーヒーカップに溶けてゆきました。

 補足として、この映像への解説を少しだけ。彼の周りの黒い部分ですが、これはもう完全に視床下部です。次に、彼を自信たっぷりにコーティングする灰色の拘束着。これをシナプスと言わずして何と言うべきでしょう。最後に、人間で言うと顔にあたる部分です。これこそ、我々の捜し求めていた満腹中枢の心臓部とも言える部分です。人間で言うと顔にあたる部分は、実は心臓だったという事でしょうか。

 そうそう、私のコーヒーカップに混入した彼ですが、資料的価値をわざと無視して、協力的だったシェルパを含め、全員で飲み干してしまいました。よって、彼が存在したという物的証拠は何もありません。映像だけが証拠です。ピース。

                        満腹中枢捜索隊日本支部隊長  望月壱太郎


報告書を机にしまい、屋外へ