「一発で決めてやる」

永島は息巻いた。今日の試合こそは決めたい、と心に固く誓った。前の試合は散々な結果になってしまい、皆に迷惑をかけたことがまだ彼の頭には強く残っている。

 「はっはっはっは。やけにやる気あるじゃねえか。なぁ、永島よぉ。」
しゃがれた声で言い放ったのは、”長老”のあだ名で親しまれている川島である。一番プロ意識が強い、と評判の選手だ。

 「やめとけやめとけ!お前じゃ無理だよぅ。」
皮肉を言いながら、矢嶋はマスクのひもを入念に締め直している。彼のスピードは見る者を魅了すると言われている。去年のMVP選手である。
永島は皆が優しく接してくれることに、心底ほっとしていた。彼らのためにも今日こそは決めようとあらためて思った。

菊池(野糞)がボールを潰しながら近づいてきた。彼は永島の肩をわしづかみにすると、言った。
 「お前、まだ前の試合のことを気にしてるのか?あれはあれで、お客さんにもウケてたし大丈夫さ。」
彼は永島が入団した時、一番最初に仲良くなった選手である。彼のリーダーシップは周囲の誰もが認めている。JAO公認リーダーシッパーなので、もちろん海外からのオファーも後を絶たない。前の試合では彼のプレイにずいぶん助けられたことを永島は十分に理解していた。
 マネジャーが試合開始が近いことを告げに来た。永島はもう、自分がすっかり落ち着いていることを自覚した。遠くから聞こえてくるお客さんの歓声が微かに、だが力強く永島を後押しした。

 永島はソリを抱えて走り出した。


                                                         スタジアムを出る