爆走するバンの中で、ハリーはベスティに聞いた。
「なぁ。今が一番のチャンスなんだろ。方法はどうする。宮殿に忍び込むのか。」
ベスティは軽快にハンドルをさばきながら答えた。
「やっぱり・・・・まずは、狙撃が必要だと思う。」
ボブはそれを聞いてニヤリと笑った。
「多数決を取ったとしても、その意見が通るのは間違いないぜ。なぜなら、俺も狙撃には大賛成だからな。」
「お前はただ単に、殺し屋っぽくてかっこいいとか思ってるだけだろう。水色の頭だし。」
ボブはいきり立った。
「今、俺の頭の色はどうだっていいだろ!確かにかっこいいとは少し思ってたけどな、こっちのリスクが少ない方法は狙撃しかないだろ。」
ボブの顔が明らかに紅潮してきたのが分かったので、ハリーはベスティに話題をふった。ラジオDJで身に付けた会話テクニックである。
「ベスティはどうして狙撃が必要だと思うんだ。べつに女王を殺す必要はないんじゃないか。」
ベスティは煙草に火を点け、勢いよく紫煙をふきだした。ハリーも煙草に火を点けた。ボブも煙草に火を点けた。3人とも煙草に火を点けたということになる。ベスティは答えた。
「もし、伝説の剣を取り戻したとしても、女王は何度でも奪おうとすると思うよ。彼女はとても粘着質な性格だから。それは僕が一番分かっている。だから、女王を殺す事は、むごたらしい事だけれども避けては通れない道なんだ。」
ハリーは眉間にしわを浮かべながらしばらく思案していたが、やがて言った。
「そうか。」
「ちょ、ちょっと待てよ!なんでベスティが言うと賛成するんだよ。俺はそんなに信用ないのか。水色の頭だからか、おい!いいか、そんなら俺は反対だ。狙撃には反対だ!断固反対だ!」
ハリーは慣例に従い、冷静に対処することにした。
「いいか。お前はいつも感情で動きすぎるんだ。ベスティは俺が納得できる理由を言った。お前は言えなかった。それだけだ。それに、お前が反対したとしても、俺は賛成だから多数決ならお前の負けだ。水色の頭だし。」
「いや、ここは譲れないな!だいたい、こんな怪しい奴の意見を全部聞き入れるなんておかしいんだよ。なんで、お前に女王の性格が分かるんだ。答えてみろよ、お坊ちゃん!13歳が煙草吸ってんじゃねーよ!」
ハリーはなおも冷静に対処しようと心がけた。
「いいか。今まで俺達はベスティに色々助けてもらってきた。それをいまさら疑い出すなんておかしいだろう。」
ベスティは二人の会話に割って入った。
「いいよハリー。確かに、僕が女王の性格を分析しても説得力がないかもしれない。だから言うけど・・・信じられないかもしれないけど、ブラウジーニ女王は僕の母親だよ。」
「はぁ?」
ボブは驚きのあまり、今度は口が2ヤード開いた。
「ついでに言うけど、今日の夜がチャンスだよ。女王はオペラを見に行くから。必ず腰に伝説の剣を差して行くと思う。彼女は、自慢が好きだから。」
ボブは皮肉を込めて言った。
「息子だから分かるって言いたい訳か。」
「そう。」
「じゃあ、お前はいちおう王子っていうことになるのか。」
ベスティは少し間を置いてから答えた。
「いや・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはちょっと無理なんだ。」
ここでボブは、一番聞いてみたかった事を、単刀直入に聞いた。
「じゃあ、聞くけどな。これを聞けば、俺も少しはお前の言う『女王母親説』を信用できるかもしれない。・・・・お前の父親はだぁれ?」
ベスティはボブの方を振り返らずに答えた。
「ボブ。・・・・・・少しの間だけ黙っていて欲しいんだ。」
ボブの顔が一気に紅潮した。だが、ボブは必死で怒りを抑えた。抑える事に成功した。ここで怒ってはジェイクの二の舞だ。ボブは何とか一言だけ言えた。
「オーケー。」
ハリーはそんな二人を黙って見ていたが、どうしても聞いてみたかった事を少し迷ってから聞いてみた。
「でも・・・・息子のお前に母親が狙撃できるのか。」
ベスティは即答してみせた。
「ノー・プロブレム。」