ひどく手がだるい。ハリーはそう思いながら廊下を歩いていた。スタジオの前にいた奴らは一通り片付けることができた。現在、脱出の糸口をつかむために、フロアを探索中である。
ハリーは銃を撃つのは初めてではなかった。父親と一緒に行った射撃場で撃った事がある。だが、銃を撃ち続けるのは初めてだった。まだ手には銃の感覚が残っており、ついでにしびれも残っていた。ちなみに、ハリー達を銃撃してきていたのは警察だった。もろに警察官の格好をしていたからすぐに分かった。スタジオの前には20人ほどの警察官の死体が転がっていた。中には、明らかにまだルーキーの警察官もいて、ハリーは何だか後味が悪い気持ちを感じていた。
ハリー達は突然、脱出の相談を始めた。
「どうする。俺達がいるのは6階だろ。まぁ、当たり前だけど、下に下りて脱出するのは無理じゃないか。メチャクチャ人が集まっているし。」
べスティが次に口を開いた。もちろん、しゃべるためだ。
「警察官になりすまして出るという手もあるよ。」
ハリーとボブは「なるほど」という顔を同時にした。その顔は瞬時に曇った。ハリーはすかさず反対意見を述べた。
「確かに良い意見ではあるけど、すぐにバレるんじゃないか?警察もそこまで馬鹿じゃないだろう。」
ベスティは冷静な表情を崩さずにそう答えた。
「僕らは4人だった。警察官は20人いた。だから、油断している部分もあると思う。僕らが反撃に出るとも思っていなかっただろうし。」
ここで、ボブがハッとした顔を見せた。どうやら、何かに気付いたようだ。
「あのさぁ。こういう場合、このビルの外と連絡を取るはずじゃないか?トランシーヴァーとかで。連絡が途絶えれば怪しむはずだろう。」
足元の警察官(死んでいる)の腰には確かに、トランシーヴァーが下げられていた。ここでベスティは、まとめ的な意見を述べた。
「言おう言おうと思っていたけど、言う。脱出方法は2つ。ひとつはさっき言った方法。警察官になりすますこと。トランシーヴァーで応援を呼べば、ビルの中に一気に警察官が入ってくる。その中に紛れて逃げる事ができるかもしれない。そして、もうひとつの方法・・・。」
ハリーがそれに気付いた。
「空か。」
「そう、空。このラジオ局のビルには、屋上に中継用のヘリがある。もちろん、逃げる方向がバレてしまうけれど。」
ここでボブが口をはさんだ。
「おいおい、大事なことを忘れてるぜ。誰が運転するんだ。俺もハリーもへリの免許なんか持ってないぞ。それに、お前なんか13歳じゃないか。車の免許すら持ってないだろ。下から逃げるしかないよ。」
「僕は運転できるよ。これも言おう言おうと思っていた事だけれど。できるんだ、操縦。」
「えっ。」
ハリーとボブは今日何回目だろう、同時に口をポカンと開けて声をもらした。本当に同時だった。信じて欲しい。ハリーは思わず疑問を口にしそうになった。13歳なのに4丁も銃を持っていて、しかもヘリの操縦ができるなんて、どう考えてもおかしい。おかしすぎる。だが、それを聞くのはやめることにした。ベスティが複雑な家庭に育ったことはなんとなく知っている。たぶん、何か事情があるのだろう。実際、ベスティによって自分達は救われている部分もあるし、これは喜ぶべきこととして単純に感謝した方が良いだろう。
「どうするハリー。時間がない。早くどっちかに決めたほうが良いだろ。」
「そうだな。とりあえず、みんなの意見が知りたい。ヘリか、それとも下からか行くのか。せーので言おう。」
「オーケイ。じゃあ、せーのっ。」
ハリー 「下!」
ボブ 「空!」
ベスティ 「・・・・・。」