フレンドリー大冒険 第四話

 

 ジェイクが逮捕された事で、ハリーの焦りは順調に加速を続けていた。早めに動き出さないと、次は誰がひどい目にあうか分からない。

 そこで、先週の土曜日に仲間全員で集まることにした。「伝説の剣奪還計画」を立てるためにだ。逮捕されちゃったジェイクを除く、ボブ、ジェシカ、べスティ、そして主人公のハリーが集まった。集まったのは、ハリーがラジオDJをつとめるラジオ局のスタジオだ。

 ジェイクが逮捕された事で、メンバーの顔つきも暗い。なかなか誰も話し出そうとはしなかった。なんだかんだで話が始まったのは午後8時を回った頃だった。口火をきったのはジェシカだ。

 「あのさぁ、あきらめれば?伝説の剣。なんで、そんなに取り返したいの?どういう意味で伝説なの?」

 こいつはいつもストレートだなぁ、とハリーは思った。ため息をひとつこぼしてから答えた。

 「まずひとつ言える事は、持ってると非常に落ち着くという事。」

 ハリーはそう言ってからメンバーの顔をぐるりと見渡した。みんながきちんと納得したかを確かめるためだ。ハリーはコップの水をごくりと飲み干すと、また話を再開した。

 「そして、俺の家にけっこう昔からあって、先祖代々伝わっているということで、『伝説の剣』と呼ぶのは間違いじゃ・・・無いよね。それに、世界を支配できるほどの不思議な力を秘めているという話も聞いたし。だから、『伝説の剣』と呼ぶのは・・」

 そこまで言ったところで、ボブが疑問を口にした。

 「ちょっと待て、ちょっと待て。お前さぁ、不思議な力があるかもしれない剣を今まで持ってたのに、その力を試そうとしなかったの?お前、ちっちゃい頃からあれ、いつも腰に差してたよな。」

 ハリーは思わず、痛いところを突かれたという事を全身で表現してしまった。ボブの発言が的確すぎて、表情をコントロールできなかったのだ。表現してしまったあとで、ハリーは弱々しく答えた。

 「やっぱりさぁ、剣は俺の物でしょ?だから、いつでもできるとか思っててさぁ・・・・・・・。」

 「なくしたものは、いつもなくした後から、大切なものになるよね。」

 べスティは自分の指をシャリシャリとかき鳴らしながらそう言ってあげた。この自分の発言がハリーを励ます事になるという事を、彼は知っていた。そんな彼を横目に見ながら、ボブは本題に入ることにした。

 「で、どうする。相手は一国の女王だぞ。普通に立ち向かっても勝ち目はないだろ。やっぱり、狙撃か?」

 ハリーは苦笑した。

 「お前、それじゃ女王が死ぬだけだろ。剣を取り戻そうというのが目的だよ。」

 「あ、そうだった。」

 ボブは本当はトイレに行きたかった。でも、そんな場合じゃなかった。

 「なるほどね。確かにそうだね。でもさ、脅しの意味で足くらい撃ってもいいんじゃないの?」

 「狙撃。」

 べスティが下向いてそう言った後、何かがハリーの頭上を通りすぎた。大型の鳥のようにも見えたが、それはジェシカだった。

 そして銃撃が始まった。スタジオと外を区切る窓が、たちまち銃弾によって無くなった。

 「ジェシカがやられた!」

 ボブが悲痛な顔で叫ぶ。ハリーはそりゃそうだろうと、やけに冷静な頭で思った。鳥みたいに飛んでたからな。そう思っていたハリーのすぐ頭上を銃弾が通りすぎる。テーブルの上にあったペットボトルが撃ち抜かれ、中身のコーラが床に伏せているハリーの顔にかかる。轟音の中で、顔にかかったコーラの甘ったるい香りは、ハリーに今この瞬間が現実であることを強制的に理解させた。

 何時の間にか、スタジオの中は電球まで撃たれ、真っ暗になっていた。暗闇の中に赤い光が浮かび上がっている。いつも見慣れている光。ハリーにはそれが何であるかすぐに分かった。マイクの電源の光だ。スタジオに入った時にはオフになっていたはずだ。

 「ハリ―!」

 窓から建物の外の様子を見ていたボブが、また悲痛な顔でハリーを呼ぶ。

 「警察がたくさんいるぞ!それだけじゃない、野次馬もたくさんいるぞ!なんでだ!」

 それを聞いて、ハリーは事態が予想よりもひどいことになっていることに気付いた。

 「いいかボブ、べスティ!マイクがオンになっていた。だから、警察には何らかの形で俺達の話を聞かれていた。そう思っていたけど、実はもっとやばいぞ。」

 けげんそうに聞いていたボブの口がぽかんと開き、そこから変な声が出る。洞窟から水が染み出すかのように。

 「あっ、あっ?ああ、ああ―っ!」

 べスティはもう理解しているようだ。ハリーに向かってうなずいた。

 「野次馬がいるのは、銃撃の音とかのせいじゃない。俺達の話は、ラジオで放送されていた。」

 ボブは引きつった笑いを浮かべた。

 「こりゃあ、大変な戦いになったな。」

 スタジオの中は、なおも続く銃撃によってどんどんとメチャクチャになってゆく。そんな中でマイクだけが元の形のまま普段通りに規則正しく赤い光を放ち、音を拾い続けている。ボブはマイクを凝視しながら考えた。警察の中で「マイクは狙うな」という指示でも出ているのだろうか。もっとも、銃撃してきているのが警察かどうかも分からないが。

 ハリーは、今日の放送は自分のラジオDJ歴の中で一番リスナーの多い放送になるのだろうと、ぼんやり思った。いつまにか肩を撃たれている。肩から流れる血は、マイクの光と同じくらい赤かった。そうだ、今日の放送のスポンサーはどこだろう。