フレンドリー大冒険 第二話

 

 マジックショー終了後、ハリーは急いでマジシャンの楽屋へ走った。もちろん、ボブと一緒に。長い廊下を疾風のように走り抜け、楽屋のドアを開けると、誇り高きマジシャンは、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに曖昧な笑みを浮かべた。

 「どうしました、そんな顔して。伝説の剣が無くなったくらいで。」

 言ってから、マジシャンはあからさまに「しまった」というような表情をした。

 「おいおい。なんでお前が、あれが伝説の剣だっていう事を知ってるんだ。どういうことだよ!」

 ハリーは鬼のような形相でマジシャン(誇り高き)の襟首をつかむ。

 「違う違う違う!そんな事知らないよ!ただ、なんとなく伝説の剣だったらいいなぁ、みたいなね。俺の願望だよ。願望を口にしただけ。まさか、当たるとは思わなかったなぁ。」

 ボブはあきれたような表情を浮かべたまま、つま先でマジシャンの肩のあたりを蹴った。

 「そんな嘘、もういいんだよ。さっさと伝説の剣のある場所を言え。じゃないと、君の頭でキャンプファイヤーをすることになるよ。」

 そう言ってボブはジッポライターの火をゆっくりとマジシャンの頭髪に近づける。

 「いやぁ、いい蹴り持ってるねぇ君は。カラテとかやってるのかい?いやぁいい蹴りだ。」

 マジシャンは、汗と涙と鼻水の3つを器用にたらし続けながら、なおもしらばっくれようとする。ボブは、マジシャンが自分がカラテをやっている事をピタリと言い当てたことに、少々動揺しながら、ますます火をマジシャンに近づける。

 「なぁ。ハリー。お前もキャンプファイヤー見たいだろ。アウトドア派だもんな、お前。」

 「そうだね。アウトドア派だからね。見たいな。」

 ハリーとボブの表情を見て、単なる脅しではなく本気だと確信したマジシャンはパニック状態になり、大声でわめき出した。

 「なんだよなんだよ!ふふふ、ふざけんな!お前らなぁ、お前ら二人ともだ!二人ともクレイジーだ!死んじまえ!」

 「何言ってんだお前。よく状況を考えてみろよ。この中で今、死ぬ確率が一番高いのはお前だよ。」

 ボブにはっきりと指差されたマジシャンは、一瞬で正気に戻った。やがて、彼はぼそぼそと話し始めた。

 「ハリー。お前はいつも得意そうに伝説の剣をさして街を歩いてた。本当に得意そうなのが誰にも分かってた。それを見て、嫌な顔をしていた奴がいた。それが、ブラウジーニだ。」

 ボブとハリーは同時に顔を見合わせて言った。

 「ブラウジーニって、まさか・・・。」

 「そう。ブラウジーニ。イングランド王室のね。イングランド王室の女王、ブラウジーニ女王だ。奴はいつも、こう思っていた。伝説の剣とか、そういうようなものは、まぁ常識から考えてもイングランド王室にふさわしい物のはずだと。それで、俺にオファーが来たの。断ったら殺されてただろうしさ、だから引き受けたよ。」

 ハリーは驚きを隠せなかった。イングランドの女王がわざわざそんな事までして伝説の剣を盗むとは、意外だ。

 「相手は一国の女王かぁ・・。大変な戦いになるな。」

 言葉とは裏腹に、ボブの表情は輝いていた。