ひゅひゅひゅん。
ハリー達の目の前で、女王は素振りをくり返している。女王の目は狂気を帯びていた。ハリー達のまわりの観客は剣を抜いた女王に怯え、どこかに逃げてしまっていた。SP達はまだ一階にいる。要するに、女王を仕留めるには絶好の機会なのである。だが、それでもなおハリーは不安だった。剣に対抗する武器がないのである。
「どうやって剣を奪うんだ。」
ハリーはベスティに聞いた。
「もう武器はないよ。素手で何とかするしかない。」
さすがのベスティも、もう策はないようだった。だが、作戦を考えている時間もあまりない。SPが二階に来ないうちに何とかしなければならない。と、いきなり女王はハリーに斬りかかってきた。
「貴様から死にな、ボーイ!」
女王が横に振った剣は、ハリーの額をかすめた。間一髪でかわしたハリーはとっさに思った。俺は28歳だ。ボーイには当てはまらない。そして、同じくとっさに女王の頭髪からぶら下がった矢を引っ張った。
「スピョ!」
女王が羊のような悲鳴を上げる。ボブも飛びかかった。頭髪にぶら下がるもう一本の矢を掴み、渾身の力を込めて引っ張った。
「ギャッ!」
頭髪を思いっきり引っ張られた女王は絶叫し、もがき、地団駄を踏んだ。ハリーとボブは暴れる女王のせいで矢を何度も離しそうになったが、必死に引っ張った。
「オーエス、オーエス、オーエス。」
いつのまにか、二人の口からは「綱引き」の掛け声が発せられていた。二人は幼い頃の運動会を思い出し、目頭が熱くなった。そしてなんだか力が湧いて来た。
「オーエス、オーエス、オーエス、オーエス。」
「オーエス、オーエス、オーエス、オーエス。」
「ギャア!」
女王は痛みのあまり、剣を床に落とした。
「ベスティ。」
ベスティは素早く剣を拾うと、鋭く跳躍した。
「グッバイ、マイマザー。」
ベスティは女王の脳天めがけて剣を振り下ろした。半月の残像を残して、剣は床に深くめり込んだ。女王の体には、高度成長期の日本の発展を思わせる、折れ線グラフのような傷が刻まれた。そして、女王の体はきれいに12等分に分解、階下に落ちていった。
「おしっ。」
ボブが言った。
「終わった。」
ハリーが言った。
「任務完了。」
ベスティが言った。
「SPが来ないうちに早く行こう。」
「ハリー。さや。剣のさや忘れてる。」
「そうだ、忘れてた。」
女王死亡のニュースはあっという間にイングランド中に広がった。女王が死んだことで、国内情勢は一気に混乱した。各地で暴動が起こり、クーデターや政府内の争いが頻発した。そんな中、「伝説の剣」を持つ者が国を治めるのにふさわしいのではないか、という声が国民の間に広がりはじめた。
現在、ハリーは民衆を率いて、ボブやベスティと共に政府と戦っている。民衆を惹きつける力、それが伝説の剣の持つ力だろうか。それは誰にも分からない。僕にも分からない。