ハリーの撃った矢は、直線の軌跡を描いて飛翔した。
「当たったか?」
ボブが小さく叫んだ。命中はしていた。しかしながら、それは女王の脳天では無く、モッサリした頭髪にだった。
「ハリー。もう一回引き金だ。」
ベスティが鋭く指示する。ガキン。ギロチンのような音で引き金が引かれる。女王の体がフワリと持ち上がる。
「髪の毛じゃ、こっちに来る前に途中で矢が取れないか?」
「大丈夫、奴の髪はとてもモッサリしてる。」
異変に気付いた女王のSPの一人が女王の体にしがみついた。二人をぶらさげたまま、矢はゆっくりと戻ってきていた。が、重さに耐え切れなかったのか、空中で停止した。
「やばい!二人も引っ張れないぞ。」
髪の毛をいきなり引っ張られた女王は悲鳴を上げた。
「痛い痛い痛い痛い!」
「うっせぇぞばばぁ!」
ベスティの母親だということも忘れて女王をののしり、ボブが引き金を引く。矢は引き寄せられるようにして女王の頭髪に命中した。二本の矢と、自分の体にぶらさがったSPの重みによって女王の痛みは限界を突破した。
「ムーニムーニサパタンニ154!」
女王は解説不可能な悲鳴を上げ始めた。会場のあちこちから笑い声が上がる。どうやらドッキリイベントかなにかだと思っているようだ。
「烈火烈火烈火の如く、電光電光電光石火、御社の社風に惹かれておりますついでに矢にも引かれておりますあぁ!」
悲鳴に東洋の言語が混じり始めた。会場の笑い声のボルテージはどんどん上がってきていた。笑いすぎて咳き込む人々が増えてきた。
ベスティが恥ずかしさとおかしさに顔をしかめながら撃った。矢は当然のように、頭髪に命中した。3人の矢に引っ張られた女王は脳髄を走る痛みに耐えきれずに、体をバタバタさせた。SPは振り落とされそうになっていた。だが、現在の女王の位置は高さ3メートルくらいである。振り落とされればSPも大怪我はまぬかれない。SPも必死にしがみつこうとする。「女王 VS SP」という図式になっていた。
会場からSPコールが巻き起こった。会場を味方に付けたSPは、しがみつく腕に力を込めた。会場にはお母さんも駆けつけていた。いい所を見せたいという部分も少なからずあったのだった。
だが、現実はそんなに甘くなかった。発狂寸前の女王は渾身の力をこめてもがいた。その力はSPの腕力を遥かに凌駕しており、SPの体は糸の切れたタコのようにくるくると旋回しながら落ちていった。同時に、SPコールに沸いていた会場からは一斉にため息がもれた。お母さんは「良くがんばった」という顔で深く頷いた。
「来るよ。」
ベスティが注意を促す。SPという錘が取れ、三本の矢に引っ張られた女王は凄い勢いでハリー達の方へ飛行してきた。と、女王の腰の辺りが光った。
「あのばばぁ、剣を抜きやがった!」
ボブが叫んだ。ベスティはとっさに言った。
「ステッキから手を放そう。持ってるとあぶない。」
3人が手を放した瞬間、女王は2階席に舞い降りながら剣を振り下ろした。幸い、3人とも飛び退いたおかげで無傷だった。
「あんた達、たたっ斬ってやるからね。」
ブラウジーニ女王はそう言いながらゆっくりと剣(伝説)を振りかざした。三本のステッキ型銃を頭からぶらさげながら薄笑いを浮かべる姿はかなり異様だった。
「なぁハリー。何かこいつ、ゲームの最後のボスっぽくないか。」
ボブが言った。
「ぽい。いるよ、こういう奴。」
ハリーは不謹慎な笑いをこらえながら答えた。
「ぽい。確かにぽい。」
めずらしくベスティも同調した。
「あんた達、本当にたたっ斬ってやるからね。」