4月の。2005。
アルバイト先へ向かう道すがら、ベンチに座って惚けていると、隣りのベンチに座る中年男性の怪しい動きに捜査員(自分)が気付いた。 おじさんの右手には大きな携帯電話、いや、生きた鳩がぐわしと握られている。鳩はばたばた暴れていたが、やがてブッダのように動かなくなった。すると、おじさんはそれを待っていたかのように、何か白っぽい粒を左手の中から左手指先に移動させ、それを鳩の口の中へ、文字通り「これでも喰らえ」とばかりにぐいぐい押し込む。一方、鳩は体を硬直させ、されるがままになっている。ひとしきり「これでも喰らえ」を繰り返したところで、ふいにおじさんの口元に淡い笑みが浮かんだ。 おじさんは両手をふわっと広げた。鳩は陽光に輝く純白の翼をゆっくりと羽ばたかせ、大空へ舞い上がっていった。(いいえ、本当は汚らしいねずみ色の翼を慌ただしくバタつかせて地面すれすれを逃げていきました) おじさんの柔らかな微笑みを見ていると、動物虐待だなんて野暮なことは口が裂けても言えませんでした。 僕は我に返り、背中を丸めてアルバイト先へ向かったのでした。それにしても、どうやって捕獲したのでしょう。 |
お金が欲しくて、台東区でアルバイトを始めました。バイト先のある社員の方は、僕らアルバイト達を名前の最後に「選手」を付けて呼びます。そういう風習が存在しているのは知っていましたが、実際に被害に遭ったのは初めてでした。世間の大多数の人間は、自分が殺人事件の被害者になる事などないと思っているでしょう。もちろん僕もそう思っていたものですから、この体験はとてもショックでした。 そう言えば、台東区のアルバイトなので初日に象に触れる機会がありました。いかにも象らしい肌触りでほっとしました。 |