物・人・情報の動きから見たアジア諸地域の交流史
 
 

【研究組織】

(代 表)藤田明良、(分担者)平木實/村尾進/飯島 明子/宮田 敏之
 

【研究目的】

   歴史学では近年、一国史の枠組みにとらわれず、包括的あるいは多面的な地域像を描くことが求められている。アジアにおいても、複数の国を包括する文化圏や「交易ネットワーク」、国家の枠をこえる「地域」や「海域」等への関心は高まっているが、モデルや理論が先行し、実証研究による史実の検証は、緒についたばかりと言わざるを得ない。

  当共同研究は、物・人・情報の動きの具体的考察からこの課題に迫り、諸地域の持つ政治・経済・文化システムの相互連関と全体構造を検証し、その歴史的変容を考察することを、目的とする。同時に、対象とする国や地域を越えた学内の研究交流の活性化や、本学が所蔵する多彩な学術資産の価値や情報を、学内外へ発信することも、この共同作業の目的としている。
 

【研究実績】

   代表者(藤田)は、「海域」をキーワードに、日本と東アジアの港市や島嶼をめぐる国境をこえる交流史の検証を重ねてきた。共同研究者も、情報表象としての文字文化の交流(平木)、記録考証を通じた通交・港市の復元(村尾)、人と情報の移動からみた複合文化交流(飯島)、「米」をめぐる国家間・地域間の貿易競合(宮田)、など、それぞれの専門領域を足場に、他国・他地域を視野にいれた広域的な研究の実績を持つ。ただいずれも個人や学外プロジェクトでの実績であり、学内での横断的な共同作業は、今回が初めてである。
 

【研究成果報告要旨】

  まず本共同研究では、計画にあったように、さまざまな領域からの研究情報を結集して、本学付属天理図書館所蔵『皮革手鑑』を多面的に検討するため、皮革史、近世文化史、近世貿易史など、関連分野の研究協力者を招いて、2001年9月17日に天理図書館会議室において研究フォーラム「 『皮革手鑑』から見た日本とアジア」を開催した。ここでは森下雅代・森下造形研究室代表による基調報告「近世の皮革文化と『皮革手鑑』」、「木村蒹葭堂の博物ネットワーク」(水田紀久・前金蘭女子短期大学教授)、「唐物貿易と毛皮・皮革」(真栄平房昭・神戸女学院大学教授)、「近世文化の表象としてのサントメ・インデア」(重松伸司 ・追手門学院大学教授)という3本の報告と、全体討論をおこなった。その結果、『皮革手鑑』の成立事情や、近世日本における皮革の流通や需要のあり方が明らかになり、アジア交流の貴重な研究素材である本資料の学術的価値が確認された。なお、この成果には報告者と本共同研究の全メンバーのほか、本学の河内良弘名誉教授、大橋正淑教授、さらには石田千尋・鶴見大学教授、若林正志・京都産業大学助教授、鈴木康子・花園大学助教授など、関西や関東からアジア貿易史の研究者による手弁当での参加協力があった。研究会の直後に、成果の一部を紹介する1200字程度の小文を、研究代表者が執筆した(『北太平洋の先住民交易と工芸』)。

  一方で本研究では、物・人・情報の交易ネットワーク上の動き方や、諸国家・諸文化圏におけるそれらの受容の在り方という、共同テーマを分担するための研究対象を、各メンバーの専門領域を勘案しながら設定し、資料の収集と分析を進めてきた。分担内容は、藤田が平安後期?鎌倉時代の日本から中国に輸出される木材と、貿易の背景になる両国の情報交流について、平木が日本への重要な輸出品であった虎(皮)の、朝鮮における捕獲・貢上や動物観等について、村尾が清代中国の外交・貿易研究の新たな視角について、飯島が楮など外来作物の栽培をめぐる東南アジア内陸部の人と情報を交錯について、宮田が世界システムに組み込まれて商品化したタイ米貿易についてである。

  その中間報告にあたる研究会を準備していたところ、本研究と関係する研究テーマを掲げる日本学術振興会科学研究補助金共同研究「8-17世紀の東アジア地域における人・物・情報の交流」のメンバーが、調査で本学に来校することになり、共同で第2回研究フォーラム「物・人・情報からさぐるアジア交流史」を企画した。これは、2002年1月12日に本学第一会議室で開催され、本共同研究の「朝鮮時代初期の虎をめぐって」(平木實)、「声名、中国に洋溢し、施して―士大夫にとっての冊封と朝貢」(村尾 進)、科研側の「外交文書を異国牒状と呼ぶこと」(高橋公明・名古屋大学教授)、「茶屋新六郎交趾貿易渡海図に関する一考察」(荒野泰典・立教大学教授)、「並木正三『三千世界商往来』をめぐって」(杉本史子・東京大学助教授)に、海域アジア史研究会の「朝貢の捉え方」(岡本弘道・学術振興会奨励研究員)を加えた6本の報告を行なった。持ち時間を忘れてしまうような熱のこもった報告が続き、最後の合同討論も含めて、海と交流の歴史研究のステップアップをめざして、新たな資料・方法・認識論を模索する刺激的な場となった。当日は報告者のほか、関西一円はもちろん東京や広島など遠方からも来聴者があり、参加者は50名にのぼった。なかでも大学院生や若手研究者の参加が目立ち、積極的に質問・発言をし、本研究の進展にも大いに貢献した。

  フォーラム終了後、本研究では各分担のさらなる考察とまとめに入り、次年度、研究論文として公表する準備をすすめている。
 
 

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