平成17年度 篠原小学校卒業式 挨拶
本日は、このような晴れがましい席にご招待いただきまして、まことにありがとうございます。お招きを頂きました地域団体を代表いたしまして、一言ごあいさつを申し述べ、あわせて卒業生の皆様にお祝いの言葉をお伝えいたします。
保護者の皆様方、お子さんのご卒業おめでとうございます。皆様方の愛情が、このような立派な卒業生をはぐくみ育てたことに、尊敬の念を禁じ得ません。心よりお祝い申し上げます。
教職員の皆様方、今日までの6年間、心血を注いで児童の育成に当たってこられたことに、改めて感謝をいたします。心よりお礼申し上げます。
そして、卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
さて、希望に燃え、篠原小学校から巣立って行かれる卒業生の皆さんに一言だけお伝えしておきたいことがあります。それは、「見えない人」――「透明人間」といってもいいかもしれませんが――この「見えない人」についてです。実はこの世界には非常にたくさんの「見えない人」がいます。ひょっとすると「見えない人」の数は「見える人」の数よりもずっと多いかも知れません。この「見えない人」と是非友達になってほしいのです。
「透明人間と友達になれ」? 突然何を言い出すのか、と思われるかもしれません。こういうことです。
皆さんにはたくさんの友達がいると思います。たくさんの仲間もいる。これからもたくさんの友達や仲間ができるでしょう。こうした友達や仲間は「見える人」です。顔も知っている。性格も知っている。好き嫌いや特技や癖についても知っている。そして何よりも皆さんはこうした友達や仲間と仲良くしようと思っているし、親切にしてあげたいとも思っているはずです。友達と共通の話題で盛り上がるのは楽しい。仲間が困っていれば何をおいても助けてあげたい。これは人間として当然のことで、立派なことです。
しかし、もっと立派なことは「見えない人」を友達や仲間にすることです。
朝出したゴミが夕方には消えてなくなっています。「見えない人」が収集して下さったのです。昨日売り切れだった果物やお菓子が今日もたくさんお店に並んでいます。「見えない人」が運んで来たのです。このように、この世界は友達や仲間だけではなく、私たちの知らない人、「見えない人」達の働きによっても支えられています。
反対に、友達と楽しくおしゃべりをしながら道を歩けば、後ろから来る人の通り道を塞いでいることに気がつかないことがあるでしょう。このとき、後ろから来る人は「見えない人」です。時には前から歩いてくる人ですら見えないこともある。これも「見えない人」です。
人間は「見える人」には親切で、気を遣い、愛情を注ぎますが、しばしば「見えない人」に対してはそうではありません。友達、仲間、同じグループに属している人は「見える人」ですが、遠くの人、知らない人、よその人は「見えない人」です。
街角で大きな声をあげて騒げば、友達や仲間とは楽しいでしょうが、「見えない人」にとって親切とは言えません。公園や道路を散らかしっぱなしにすれば、「見えない人」たちは悲しむことになるでしょう。「見えない人」も友達や仲間だと思えば、当然その人たちにも親切に思いやりをもった振る舞いができるはずです。
この世界には「見える人」よりも「見えない人」のほうがずっと多い。その「見えない人」たちと友達や仲間になれば、皆さんの友達や仲間の数はずっと多くなるはずです。そしてその友達や仲間といっしょにすばらしいことができるはずです。
たとえば、「地球環境問題」は、世界中の人がお互いに「見えない人」同士で友達になればいいのです。友達なら助け合うし親切にするでしょう、仲間なら間違ったことをしているときにアドバイスしてあげることでしょう。自分の行動が、友達や仲間の環境を左右している、自分たちの環境は「見えない友達」の努力で守られているのかも知れない、と考えることは、ある意味でわくわくするような気分にもなります。
「見えない人」は、今ここにいるだけではありません。代表的な「見えない人」は「過去の人々」と「未来の人々」です。私たちは「過去の人々」とも仲良くなりたいし、そう考えると、今の世界は過去の友人からのプレゼントであることになります。過去の人々は私たちと直接話したりすることはできないけれども、友達として親切にしたり、忠告したりすることができます。同じように「未来の人々」も赤の他人ではなくて、私たちの友達であり仲間だとすれば、その人達を喜ばせるために、どんなプレゼントを残せるか、と考えて生きていくことが友情というものです。
今ここには「見える人」がいるだけではない、今ここには「見えない人」もいる、というのは想像力が必要なことです。「見えない人」がいるかもしれない、その「見えない人」はどんな人たちで、何を望んでいるのかというのも想像力を必要とすることでしょう。しかし、友達や仲間だと考えれば、その「見えない人」がどんな人で何を望んでいるのかは、見える友達や仲間のことを思いやるのと同じことです。さらに便利なことに「見えない人」たちを友達や仲間にするのは、そういう人たちと出会ったり話をしたり、相談をして一緒に何かをする必要もなく、ただ皆さんの方で、「友達だ」と考え、その友達に何をしてあげればよいのか考えるだけですむのです。
皆さんには、「見えない人」もたしかに世界の一員だと気がつく力がありますし、その人達と友達になる力もあります。もちろん友達のことを思いやる力もあります。この力を発揮すれば、皆さんの友達や仲間は、過去、現在、未来を通じて無限の人数になるでしょうし、多くの親切や思いやりに満ちた世界になるでしょう。「見える」友達や仲間以外にも、どうか多くの「見えない」友達、仲間を作っていただきたいと思い、お祝いの言葉に代えさて頂きます。
平成18年3月22日
篠原小学校PTA会長 志田基与師