なかよしさん キスをする。 何度も、何度も。 少女が照れて視線を外そうが、頬を染め上げて何か文句を言おうがまったくお構いなしで、自分の思ったままに口づける。 少女の口内をなぶり、顔を一旦離した。 「てめえ、いい加減なれろよ」 「ん、そ、んな事、言ったって」 途切れ途切れに反抗する夏美に、バノッサは苦笑いとも笑いともつかない表情で少女の鼻先をつまんだ。 「キスするときは、鼻で呼吸しろって何度いわせるんだよ!この鳥頭」 「うー、そんな事言われたって!」 「ま、そんだけ初心者だってのはよく分かったぜ」 夏美の薄い唇を舌先でなぞり、耳から首筋にかけて冷たい手でなぜた。 「ん!」 手の冷たい感触に夏美は肩をすくめ、体を硬くした。 「さて、もう一回、な」 彼の唇が夏美の唇に触れる直前、バノッサの頬を掠めて塀に突き刺さる剣のサモナイトソード。 一体全体どんな力で突き刺したのか鍔元(つばもと)まで深々と突き刺さっていた。 こんな危険なまねをしてくる人間はバノッサの知る中でただ一人。 「てめえ、毎度毎度人の恋路によこやりばっか入れやがって…………この馬鹿籐矢…………ぐ!!!」 べこん 振り向きざまにタライが彼の顔に直撃。 「鉄アレイじゃなかった事に感謝するんだな」 ニッと笑って立っていたのはソル。 「てめえら…………」 怒りにうちふるえるバノッサ。 「一体全体何の恨みがあって俺にこんなまねしやがる!!」 がなりたてると、藤矢は穏やかに穏やかに微笑んで一言。 「恨みなら、ありすぎるぐらい思い当たるな」 微笑みながら深々と突き刺さっているサモナイトソードをいとも簡単に抜き取り、抜き身のままでバノッサと対峙する。 バノッサとてここまでケンカを売られたなら、黙っているような人間ではない。 「おいおい、俺を忘れてるんじゃない」 ごがぁ! 空から降ってきたのは刻○館で使用されるようなスパイクボール。 それを紙一重のところでかわし、魔王の力で別の世界に送還する。 「ち、外したか」 悔しそうな顔をするソルにバノッサはこめかみをひくつかせた。 「てめえ、血を分けた兄貴にそういうまねするのか…………」 「は、兄貴?俺には兄貴なんていないさ。いるのはクラレット姉さんとカシスっていう妹だけだ」 ギリギリとにらみ合う異母兄弟。 「大体なあ、クラレット姉さんだけでも充分厄介だってのに、その上更にお前みたいな兄貴なんぞ誰がいるか!」 「くくく、よく吼えやがったな、この愚弟め」 「ははは、それはこっちのセリフだぜ、偏執狂の馬鹿兄貴」 互いに不穏なものを満たしながら対峙する。 その隙に籐矢は夏美の隣に立った。 「大丈夫だったかい、橋本さん?」 「う、うん」 夏美は半ば呆然としつつ、護界召喚師VS元魔王の戦いを眺めていた。 「まったく、二人とも血の気が多いな」 籐矢は肩をすくめてため息を吐き出した。 「さあ、僕らは巻き込まれないうちに、ここを離れよう」 有無を言わせず夏美の肩を抱くエセ誓約者の籐矢。 夏美はあまりにも無茶苦茶な展開に頭がついてこないため、藤矢のなすがままとなっている。 それを目ざとく見つけたのはバノッサ。 手早くルニアを召喚し、それを籐矢めがけてぶん投げた。 「俺の球は時速400キロ!」 と、どこかで聞いた事のあるようなせりふを吐きつつ魔王の力を使う。 力の使い方が著しく間違えているような気がしてならない夏美。 ルニアはルニアで一体何事かも分からぬまま、ぶん投げられて、藤矢に直撃。 さすがのエセ誓約者様もこれは痛かったらしい、かたひざをついて直撃した側頭部を押さえた。 「てめえ、人の女に手えだしてんじゃねえよ!」 「人の女?よくそんな事がいえるね。散々あれだけいじめておいて」 「へっ、うるせえよ、友情どまりの偽善者が」 「ふ、ふふふ、君はそんなに僕を怒らせたいらしいね」 「おー、やれるもんならやってみやがれ」 護界召喚師VS元魔王に更にエセ誓約者までもが乱入しようとしたその瞬間。 「やめなさい!!!!!」 かわいい少女が体全体を響かせて、搾り出した叫び声。 「まったくー、何やってるのよ!仲いいのもいい事だけどさあ」 「「「は?」」」 バノッサと籐矢とソルの声が重なった。 「俺たちが」 「仲がいい」 「だって?」 「そーだよ。なかいいじゃん」 あたりに沈黙が落ちる。 これのどこをどう見れば仲がいいと見えるのか。 「ケンカするほど仲がいいってよく言うじゃん!」 笑う夏美。 「だけど、武器と召喚術使ってのケンカはだめだからね!」 びしっと人差し指を突きつけて、声高々に宣言する本家本元誓約者様。 「さ、バノッサ、行こう!」 「ああ?」 眉を寄せるバノッサ。 「ああ?じゃないでしょ!あんたがあたしに用があるって呼び寄せたんじゃない」 「あーそうだったな」 バノッサは勝ち誇ったような表情で籐矢を見、それからソルを見た。 「じゃ、行くか!」 夏美の腕をとり、意気揚揚と歩くバノッサ。 夏美も照れ臭そうに笑いながら、それを嫌がらない。 そして二人はその場を後にした。 唖然としてその場に立ち尽くすエセ誓約者と護界召喚師の二人。 「ふふふふふ」 「ははははは」 サイジェント崩壊まで秒読み段階…………。 ―了―
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