Dear… 「バノッサってさぁ。友達いないでしょう。」 「あぁ?」 人がのんびり昼寝をしている所にやってきて唐突に何を言い出すのか。 「だからさぁ。友達。居ないでしょう?喧嘩しあったりする友達。喧嘩しても、次の日にはあっさり仲直りしてる友達。」 にらみを効かせた視線すらもあっさりと跳ね飛ばし、少女は胸を張って続ける。 「………喧嘩だけならしょっちゅうしてるぜ?」 「どうせ、フラットの皆か。もしくは結果的に自分の傘下に入った子分達でしょう?」 それは、友達だとバノッサも思ってる? よいしょっといいながらナツミは寝ているバノッサの隣に腰を下ろす。 季節は春。 アルサックの花も見頃でそよそよと流れる風邪は気持ちいい。 「………あいつらは手下だし。フラットの奴らは、敵だ。手前ェも含めてな。」 友達でなぞ、あるものか。 「あー。やっぱり? でも、いいの? 敵なのに隣に座らせておいて。」 そう言いつつも、何故か笑顔のままナツミは動こうとすらしない。 「別に。手前ェ程度。素手でもくびり殺せる。」 「あははは。言うと思った。」 また笑うナツミにフン、と鼻を鳴らして目を閉じる。 一体何がそんなに楽しいのか。さっぱり判らない。 「でもさ………」 「あぁ?」 しばらくそのままボンヤリとした後で。またナツミが口を開く。 「友達はさ。必要だよ?」 「………なれ合いだけの付き合いなら、いらねぇな。」 「そうじゃないよ!!」 吐き捨てるように言ったバノッサの言葉に、ナツミはガバッと身体を翻して叫ぶ。 「喧嘩してもさ、いいんだよ。うぅん。むしろ、喧嘩した方が良い。それで、お互いを分かり合える友達はさ。必要だよ。」 自分に対して、本気で怒ってくれる人。 自分に対して、本音で注意してくれる人。 それで気まずくなるとか、そんな事を考えなくていいような。 そんな友達。 「黙って怒るとかじゃなくてさ。ちゃんと言ってくれる友達。」 口に出して怒ると言う事は。その人と解り合いたいから。 言いながら、段々と弱くなる声。 そうして膝を抱え、顔を埋めてぽつりと呟くように言う。 「だからさ。友達は、必要だよ。」 思い出されるのは、学校の仲の良い友人達。 皆、どうしているのだろう。 紡がれる言葉を聞きながら、バノッサはうっすらと目を開けてナツミを見る。 言われている言葉は、おそらく自分に向けてなのだろうが。 それにしても。 「……結局。何が言いたいんだ。手前ェ。」 わざわざ自分の昼寝の邪魔をしてまで。 「別に? ふとそう思ったから。」 さっきまでのどこか物寂しそうな雰囲気が何処吹く風。 つらっと言いながら、ナツミも「えいっ」とかけ声をかけて横になる。 「あ。ここ気持ちいいね。バノッサが昼寝したくなるの、判る気がするよ。」 そう言って、ナツミも目を閉じる。 「手前ェ………本気でなにしにきやがったんだ?」 言いながら、今度はバノッサは体を起こす。 なにがしたいのか、さっぱり判らない。 「特に攻撃するわけでもねぇ。いきなり説教始めたかと思えば急に寝っ転がりやがる。……殺されてぇのか?」 何なら今すぐにでも。 そう言って、指を鳴らす。 「や。だから別にそんなつもり無いって。何となく思ったから。何となく言いたくなったの。」 「その為に、わざわざ言いに来たって言うのか?」 「うん。」 バノッサの脅しには全く動じずに、へらっと笑いながら頷く。 言われた方は、何だか頭を抱えて呻きたい気分だ。 (………本気でワケ判らねぇ………!!) 何となく、遠くの方を眺めてみたりもする。 「でもそうだなぁ。」 「あ? なんだよ?」 ひょいっと体を起こしながら、ナツミがバノッサの方を見る。 「うん。あたしね。もしかしたら。なんだけどね。」 「くどいぞ手前ェ。さっさと言え。」 さっさと言わないナツミに、バノッサは苛々しながら頭を掻く。 「あのね。友達に、なりたかったの。」 「…………………………………………………」 たっぷり3秒の沈黙。 「―あぁ?」 「かも知れないなぁ。なーんって。」 アハハと笑いながらナツミはすっくと立ち上がる。 「手前ェは馬鹿か。」 「あ。そゆ事言う? ま。そうかも知れないけどさ。」 んーっと伸びをしながら、ナツミは尚も笑う。 「俺様と手前ェは。敵同士だ。」 ナツミから目を逸らさずに、バノッサは続ける。 別に彼女自身に恨みはないけれども。 別に彼自身に恨みはないけれども。 それでも、お互いの状況は。 「うん。でもさ。友達にはなれない?」 「さっきも言っただろう。なれ合いは御免だ。」 「だからなれ合いじゃないって。」 パタパタと手を振りながら、ナツミは言う。 「あなたが何か間違えていたら注意してあげるよ。 あなたが気にくわなかったら即、言ってあげる。 あなたに対して何か思う事があったらどんな時でも言いに来てあげる。」 「…………敵同士なのにか?」 「だからよ。どうせ今は敵同士なんでしょう? だったら、これ以上仲は悪くなる事無い訳じゃない。なら、気にせず言う事が出来るし。」 言いながらくるっと廻って、少し屈むようにしながらバノッサを覗き込むようにして見つめる。 「その代わり。あなたも私に対して何か思う事があれば、言ってね?」 だから友達になろう? 笑いながら手を差し出すナツミを、バノッサが呆気にとられたように見つめていた。 (……友達?) この俺と? 「―何の為に?」 出された手を無視して、バノッサは自分の疑問を思ったまま伝える。 「ん? そうねぇ。………『何の為』ってワケじゃー無いけどさ。その方があたしの気分がいいから。」 「偽善的行為ならなれ合いよりももっと御免だ。」 「べっつに偽善じゃないよー。あたしの為だもん。」 「手前ェの機嫌を取って、俺様に何の得がある。」 ケッと吐き捨てるように言う。 なぁなぁだけの付き合いも御免だが、目の前の少女の偽善的欲求を満たすだけなのも御免だ。 「んー? バノッサの得? そうねぇ………本気で喧嘩が出来る位?」 未だ手を引っ込めずに、ナツミは笑いながらいう。 「だって。本気で喧嘩できる相手よー? あたしならそう簡単には負けないしさ。思いっきり本音も言えるしさ。コレって、得にはならない?」 笑いながら、「ん。」と手をバノッサの前でひらひらさせてウィンクをする。 「だからさ。あたしと友達に。―なってくれませんか?」 友達からお願いします。 笑いながら伸ばされた手。 それは本当に打算もなにもない物で。 「………好きにしろ。」 ぺしっと出された手をはたきながらバノッサもゆっくり立ち上がる。 自分的最大譲歩。 そもそも根比べには向いてない事くらい判っていたのに。 「うん!!好きにするよ!!」 ぱぁっと顔を輝かせて、ナツミはまた笑う。 「約束だよ?!! あたし達、友達だからね!!」 「あーあー。好きにしろ。」 「うん!」 面倒くさそうに、手をヒラヒラさせながら、バノッサはまた寝っ転がる。 そうして突然異世界からやって来たはぐれ召喚獣もにこにこと横に寝そべり、二人仲良く昼寝をする。 彼女の仲間が姿の見えない彼女を心配して見に来るまで。 そこで、また一悶着会ったと言う事は。 まぁ当然と言えば当然の話。 ―どうして? 「何故…………?」 疑問を投げかけても、答えはない。 “あたし達、友達だからね!!” そう言ったのに。 ゆっくりと息を吐く。 何か言いたいけれども。 怒りたいはずなのだけれども。 言いたい事がありすぎて慟哭すら出てこない。 それとも、言いたい事すら言わせないつもりなのか。 泣きはしない。 泣いたって、帰ってくるはずもない。 状況が、変わる訳でもない。 光の消えた虚空に呟いた言葉は。 だれのもの――――――――――? ―了―
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